脳卒中者の歩行中の衝突回避の秘訣を発見

 首都大学東京大学院 人間健康科学研究科の樋口貴広教授らは、脳卒中者が狭い隙間を歩いて通り抜ける際の衝突回避方略を、三次元動作解析装置により分析しました。その結果、隙間を通り抜ける際に麻痺側の身体を前方に出す脳卒中者は、それ以外の方略をとる脳卒中者よりも、巧みに衝突を回避できることがわかりました。

2017年1月31日

脳卒中者の歩行中の衝突回避の秘訣を発見

脳卒中の後遺症の一つに半身麻痺があり、麻痺した身体を障害物などに頻繁にぶつけてしまうことが、ケガや転倒の原因になっています。首都大学東京大学院 人間健康科学研究科の樋口貴広教授と同大学の社会人大学院生・室井大佑(同研究科博士後期課程在学。亀田メディカルセンター勤務)は、脳卒中者が狭い隙間を歩いて通り抜ける際の衝突回避方略を、三次元動作解析装置により分析しました。その結果、隙間を通り抜ける際に麻痺側の身体を前方に出す脳卒中者は、それ以外の方略をとる脳卒中者よりも、巧みに衝突を回避できることがわかりました。この研究成果は、脳卒中者の衝突回避策の提案につながることが期待されます。

【当該研究の概要】

■背景:なぜ衝突回避の秘訣を明らかにする必要があるのか

 脳卒中者数は日本で約120万人にものぼり、要介護の原因の第1位となっています。脳卒中の後遺症の一つに半身麻痺があり、麻痺した身体を障害物などに頻繁にぶつけてしまうことが、ケガや転倒の原因になっています。転倒を契機に筋力低下や転倒恐怖により不活動となり、さらに要介護となるリスクが高まります。そのため、歩行中の衝突回避能力を向上させるための研究が求められています。

■研究方法

 樋口貴広教授らの研究チームは、脳卒中者23人と年齢・性別を揃えた健常者23人を対象に実験をしました。実験課題は、2つのスクリーンで作られた狭い隙間を、接触せずに通り抜けるというものでした(図2)。参加者は全部で15試行この隙間を通過しました。隙間の大きさは毎回変わるため、参加者は隙間の大きさに応じて衝突回避行動を調節する必要がありました。

 三次元動作解析カメラ8台を使って、隙間通過の様子を詳細に解析しました。実験は亀田メディカルセンターで実施しました。

■主たる実験結果

 予想されたように、衝突は主として麻痺側の身体で起こっていることがわかりました。脳卒中者を転倒歴の有無で分類した結果、転倒歴のある脳卒中者の衝突率が統計的に有意に高いことがわかりました(図3)。この結果は、衝突回避能力と日常の転倒危険性に関連性があることを示しています。

 狭い隙間を通り抜ける際、接触を回避するために体幹を回旋する場合があります。そこで、体幹回旋の有無、および回旋時に最初に隙間を通過するのが麻痺側か(麻痺側侵入)、それとも非麻痺側か(非麻痺側侵入)で分類して衝突の特徴を比較しました。その結果、麻痺側を前方に出して通過した場合には、衝突率が高くないことがわかりました(図3、赤枠で囲った結果)。この結果は、麻痺側から隙間に侵入することで、障害物との衝突を回避しやすくなる可能性を示しています。

■本研究の波及効果と今後の展開

 得られた成果を脳卒中者のリハビリテーションに応用することで、日常生活における衝突や転倒を減少させることが期待されます。今後、なぜ麻痺側から隙間に侵入することで衝突が回避できるのかの原因究明を行います。

■成果発表

 本研究成果は、1月19日付けのPLOS ONEオンライン版で発表されました。

 http://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0170119

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