地政学的な不確実性はあるが日本企業のM&A取引への意欲は高い水準を維持
2018/06/21
EY Japan
地政学的な不確実性はあるが日本企業のM&A取引への意欲は高い水準を維持
・日本企業の73%の経営層が今後12カ月間に買収を検討中
・グローバル市場におけるM&Aが増加すると予測している日本企業の経営層は昨年の39%から今年は87%に増加
・米国の税制改革はグローバル市場におけるM&A取引への意欲には短期的には影響を及ぼさない見込み
EYが日本を含む43の国と地域における2,500人以上の経営層を中心とした対象に年に2回実施している「第18回EYグローバル・キャピタル・コンフィデンス調査(以下、CCB)」によると、M&A案件は世界金融危機以前の2007年に記録された水準(※1)を上回る状態で推移しており、グローバル市場において企業のM&Aへの取引意欲は衰える気配を見せていません。日本企業(※2)の経営層の73%および全回答者(※3)の52%が今後12カ月間に買収を計画していると回答しており、景況感や企業の業績見通しの改善、さらにはイノベーションや成長の追求といった要因が、地政学的な不確実性や規制環境の変化といった懸念を払拭していることが明らかになりました。
日本企業の経営層の約半数が、自社のM&A候補案件は今後12カ月間で増加すると予想しています。また今後12か月間でさらに多くのM&A案件を完了する見込みであると回答した経営層は、昨年度の調査(2017年4月度)の26%から今回の調査(2018年4月度)の58%へと、2倍以上に増加しました。
加えて、87%の日本企業の経営層が今後12カ月間でグローバルのM&A市場がさらに拡大すると回答しており、これは昨年度調査における同内容の回答(39%)からやはり大幅に上昇しています。また、日本企業の経営層の88%が、今後12ヵ月間はM&Aの案件獲得競争が激しくなると予想しており、その内の58%が最も強力な競争相手としてプライベートエクイティ(以下、PE)を挙げています。
EYトランザクション・アドバイザリー・サービス株式会社 代表取締役会長のヴィンセント・スミスは次のように述べています。
「景況感の改善と急速に進展しつつあるデジタル化への対応のため、M&Aの候補案件は顕著に増加し、M&Aへの取引意欲も高まっています。私たちは、この状態が当面続くものと見ています。2017年にはPEによるM&Aが活発化しましたが、今後PEはさらに潤沢な投資資金を調達し、この傾向は加速することが予想されます。興味深いことに、競争の激化が見込まれる一方で、PEが事業会社と資金を出し合って共同投資を行うといったように、両者の協調がより強まる可能性もあります。」
マクロ経済と資本市場における様々なポジティブな要因が、こうしたM&Aへの意欲を支えています。日本企業の経営層の大多数が、グローバル経済の成長率は改善していると回答しており、日本企業の経営層の87%の回答者は企業収益も伸びていくと見ています。市場が不安定になる可能性があると考えていたり、あるいは企業の市場価値が低下すると予測している経営層は回答者のわずか1%に過ぎませんでした。現在、多くの評論家が市場における不安材料を指摘していますが、本調査によると、経営層は独自のファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)を判断材料に、資本市場の見通しをよりポジティブに考えています。
地政学上の要因や規制環境の不確実性にも揺るがないM&Aの見通し
地政学上の緊張感が存在するにもかかわらず、日本企業の経営層の87%が今後12カ月の間に、各国政府がインフラ投資を増加させると予測しています。同様に全回答者の内の約3分の2が、各国政府による投資の増加が、自社の成長にプラスに働くと予測しています。
一方で経営層は地政学上の不確実性が困難な状況をもたらしていることも認識しており、半数以上の日本企業の経営層がこれを主要なリスクと捉えています。さらに、日本企業の経営層の39%が、テクノロジーの変化やデジタルトランスフォメーション、業種間の壁の崩壊もまた、自社の成長を阻害する可能性があるリスクと考えています。
スミスは次のように述べています。
「多くのCEOが、現在の地政学上の不確実性を懸念材料と考えているのは明らかです。しかし、国家間の貿易協定がどんなものであれ、企業がクロスボーダーで取引し続けることを確実にすることが、現在の経営層に求められています。企業がポートフォリオの変革を目指す中で、新しい市場への参入やイノベーティブな企業の買収に注力し続けることが、成長のための当面の優先事項だと考えられます。」
ポートフォリオの変革とデジタル能力の獲得を目指したM&A活動が活発化
日本企業の経営層の81%が事業ポートフォリオの変革を経営上の最優先事項と見なしています。これは、企業が常に臨機応変に目的を達成し、新しい機会に目を光らせ、めまぐるしく変化する市場環境に素早く対応していく上で事業ポートフォリオの変革が不可欠であるためです。
また、企業が事業ポートフォリオの選択において、客観的な情報に基づいたより良い意思決定を行うためにデータアナリティクスやAI(人工知能)を活用するケースが増えています。最も活用されているテクノロジーとして、本調査に回答した企業の経営層の約半数が、AIまたはRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を挙げており、ビッグデータ、ブロックチェーンがそれに続いています。
より多くの企業が新しいテクノロジーを採用していく中で、日本企業とグローバル企業(※4)の双方の経営層の半数以上が新テクノロジーに対応できるスキルを持った人材の採用に苦労していると回答しており、日本企業では経営層の82%が、M&Aを行う主な戦略的理由として、優秀な人材の獲得を挙げています。
スミスは次のように述べています。
「デジタルトランスフォーメーションによって、日本企業はますます事業ポートフォリオの変革に意識を集中するようになっています。現在のところ、新しいテクノロジーによってもたらされる成長機会とデジタルに精通した新たな競合相手がもたらす潜在的脅威という2つの要因が、企業のビジネス変革をプランニングする上でのキーファクターとなっています。」
グローバル化が加速する中、クロスボーダーM&Aは欠かせない検討事項
保護貿易主義の拡大と地政学上の不確実性が脅威として見なされている一方、経営層は、それらがクロスボーダーM&Aを妨げることはないと確信しています。異なる地域の新たな市場に参入することは、引き続き成長に向けた優先事項となっていることから、日本企業の経営層の66%が、今後12 カ月以内にクロスボーダーM&Aを計画していると回答しています。日本企業の経営層が今後M&Aを行う国としては最上位から順に、日本、中国、シンガポール、マレーシア、タイの5カ国を挙げています。
グローバルの経営層は引き続き米国を投資先のトップに挙げていますが、米国とグローバルの経営層は市場の見方とは異なり、米国税制改革によってM&Aが大幅に増加するとは思わないと回答しています。少数の経営層が、財務利益はインオーガニック成長(買収)に向けて使うと回答している一方、米国の回答者の77%が、税制改革による本国への利益還元はオーガニック成長に投資する、また19%が株主へ還元する、と回答しています。
スミスは以下のように述べています。
「法人税の引き下げは、それだけでM&Aが推進されることにはならないでしょう。法人税率は、M&A案件のメカニズムの一部を形成する一連の複雑な計算のひとつではありますが、結局のところ、M&Aの原動力になるのは常に戦略的目的です。現在の、低金利、好調な企業収益、株価上昇という状況を考えると、案件の資金調達能力の有無によってM&Aが影響を受けているようには見えません。」
クロスボーダー、PEの活躍に加え、M&Aがセクターの融合をさらに推進
今後12か月間のM&A市場の傾向について、経営層はクロスボーダーM&Aがさらに増加すること、PEが投資主体として存在感を増すこととを挙げていますが、これに続いて、新しいテクノロジーやデジタルトランスフォーメーションに必要な能力を取り入れるニーズによりセクターを越えた買収が増加するということが挙げられています。
日本の経営層が今後買収先として想定しているセクターのトップ5は、消費財・小売、テクノロジー、自動車・交通、製造業そして金融でした。
M&A市場活況の中でも、案件からの撤退もあり得る
すでに活況を呈しているM&A市場においてなお投資案件への関心が強いという現状を受け、一体このような状況がいつまで続くのかと考える経営層も出てくるでしょう。競争は激化している一方で市場が過熱し過ぎているという兆候はまだ見られないにも関わらず、慎重な経営層からは、場合によっては案件からの撤退もやむを得ないというスタンスも見られます。日本企業の85%の経営層が、過去12カ月の間に案件を中止したことがあると回答し、そのうちの半数以上が、他社との競合あるいは価格・評価の面で折り合わなかったことをその理由に挙げています。
スミスは次のように述べています。
「2000年および2007年に拡大したグローバルM&A市場は、その後縮小に転じましたが、現在のM&A市場の持続可能性という点については楽観視しており、今回の調査結果もそれを裏付けています。規律ある取引は今やM&Aの要となっています。データが入手しやすくなり透明性が向上したことで、経営層は以前と比較してより豊富な情報に基づいて投資決定を行うことが可能になっています。日本の経営層は引き続きM&Aを成長エンジンとして検討していくと思われますが、金融危機前に見られたM&Aにおけるスタンスと異なり、経営層は戦略的に価値が認められなければ、躊躇なく案件から撤退しています。」
※1:M&A件数は8,281件で総額1兆200億米ドル。(EY analysis and Dealogicより抜粋)
※2:日本企業=今回の調査で回答のあった企業のうち、日本に本社を置くグローバルで展開している企業
※3:全回答者=日本企業を含む全ての回答者
※4:グローバル企業=上記※3日本企業を含むグローバルでビジネスを展開している企業。本調査では全回答者がこれに該当する
「 CCB調査結果におけるグローバル企業との比較」に関する表は、以下弊社ウェブサイトのニュースリリースをご覧ください。
http://www.eyjapan.jp/newsroom/2018/2018-06-21.html
詳しい調査結果はey.com/ccbをご覧ください。またTwitterでも情報を発信しています。
(@Japan_EY | #EYCCB)
〈EYについて〉
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本ニュースリリースは、EYのグローバル組織のメンバーファームであるアーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッド(EYGM)によって発行されています。EYGMは顧客サービスを提供していません。
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