【2020×東洋大学】東京五輪は、SDGsの価値を体験し、新たな価値を見出すチャンス
2020年7月15日
東洋大学
<NewsLetter Vol.05>
東洋大学は研究成果である「知」で2020へ貢献します
東京五輪は、SDGsの価値を体験し、
新たな価値を見出すチャンス
本ニュースレターでは、東洋大学が2020年から未来を見据えて、社会に貢献するべく取り組んでいる研究や活動についてお伝えします。
今回は、社会学部社会学科 米原あき 教授に、SDGs(持続可能な開発目標)の観点からみる東京五輪について聞きました。
社会学部社会学科 米原あき 教授
Point
1.SDGsが可視化される、東京五輪
2.ホスト国として評価されるには「共生」へのポジティブな対応を
3.社会学的想像力で見出す、SDGsの新たな価値
SDGsが可視化される、東京五輪
米原先生は、SDGs(持続可能な開発目標)の評価を専門領域のひとつとされています。どのようなきっかけで、このテーマに関わるようになられたのでしょうか。
もともと開発途上国の教育政策に関心があり、博士課程でアメリカに留学した時にタンザニアの研究に取り組みました。その後も、JICA(国際協力機構)の専門家として、途上国のプロジェクトに参加したり、途上国をテーマにした研究を続けてきています。その過程で私は、一つの国あるいはバイラテラル(二国間が協力する)レベルのプロジェクトでは、解決できない問題が山積していることを体験しました。そして、環境や経済、医療、教育などのさまざまな分野において、より多くの国が協力し合って解決するためのフレームワークが必要だと実感したのです。このような流れで、MDGsやSDGsといったグローバル目標について関心を持つようになりました。また、途上国研究を進める中で、次代の担い手である日本を含めた先進国の子どもたちが、どのような意識で世界を見るのかということが非常に重要だと思うようにもなりました。大学で教えることを本業にしたのもそのためです。学生たちがSDGsの知識や関心を持って、将来、社会貢献活動に取り組むきっかけになればという願いもあります。そんな未来のための種まきをするということも強く意識するようになりました。
東京五輪では、SDGsに配慮した運営計画が掲げられています。この中で、米原先生が着目されるポイントについてお聞かせください。
SDGsの関連領域というのは、公共政策が扱い得る領域のほぼすべてをカバーするといえるほど広く、抽象的で実感しにくいものも多く含まれます。例えば、「グローバル時代だから多文化共生が大切だ」と言葉にはできても、それが意味するところを日常生活の中で実感することは難しいかもしれません。しかし、五輪のような大きな国際イベントが開催されることで、実際にさまざまな国の人々を身近に迎え入れ、その人たちに向けた多言語表示の案内を街中で見かけたり、環境への配慮が具体的に示されたり、障がいを持ったアスリートの活躍を目の当たりにしたりと、SDGsの様々な概念をリアルな形で体験する機会が断然増えるでしょう。そういう意味で、東京五輪は、通常の生活の中では可視化されにくいSDGsの価値を実体化し、市民レベルに大きなインパクトを与えるのではないかと、期待して注目しています。
ホスト国として評価されるには「共生」へのポジティブな対応を
東京五輪がSDGsに貢献したと評価されるには、何が必要だと考えますか。
バリアフリー化された競技場や周辺施設、街中に設置された多言語案内などが「東京で五輪を開催して良かった」と評価される対象になるのは想像に難くないでしょう。しかし問題は、コンフリクト、つまり争いや利害の衝突などが起こった時に、いかに私たちがホスト国としてポジティブに対応できるのかということ。これが、評価軸としても、非常に重要ではないかと思っています。
一例として、五輪開催中は外部から人が入らないよう公園を閉鎖したらどうかという議論が起こった地域がありました。治安や騒音などに対する不安は理解できます。しかし、部外者は締め出す、という発想だけではなく、どうすれば訪れた人たちと一緒に気持ちよく過ごせるか、公園などの公共財をどうすればより良い形で皆と共有できるかを考えることもできると思うのです。そこには知恵と工夫が必要になります。外国語の案内表示を立てたり、皆で何かイベントを行ったりと、費用や労力を負担する必要も出てくるかもしれません。でも、それが「共生」というリアルな体験ではないでしょうか。世界から評価されるという点では、私たちが地域や個人のレベルで「共生」や「グローバル」といった意識を持つことも不可欠だと思うのです。
社会学的想像力で見出す、SDGsの新たな価値
SDGsの視点で、東京五輪の先に目指すべき未来とはどのようなものだと思われますか。
C・W・ミルズという社会学者が著書のタイトルにした「社会学的想像力/Sociological Imagination」という言葉があります。社会学的に物事を見るためには、今、目の前で起こっていることを、個人の体験として捉えるだけでなく、想像力をもって社会的事象として捉えることが大切だという考え方です。これは、SDGsの視点で、東京五輪を見ることにも置き換えられます。私は長年柔道をやっているのですが、先日、東京五輪の初種目にもなった男女混合団体戦の試合を初めて観戦し、伝統的に女性の参入壁が高かった柔道という競技において、男女一緒に力を合わせてチームで勝利を目指す、まさにSDGsにもあるジェンダー平等という価値が形になった一例を目の当たりにしました。この柔道の男女混合団体戦で実現しているジェンダー平等を、「こんな例もあるのか、すごい」で終わらせるのではなく、学校や職場、地域の活動などでどのように活かせるかと想像力を働かせ、社会の仕組みの中に普遍化することができれば、未来への一歩に繋がります。東京五輪がもたらすさまざまな現象や体験を、想像力をもって捉えることで新しく生まれるSDGsの価値が、きっと「レガシー」になるでしょう。
米原 あき(よねはら あき)
東洋大学 社会学部社会学科 教授/Ph.D.(Education Policy)/専門社会調査士
専門分野:比較教育政策学、国際社会学、国際協力論、人間開発論、SDG評価、政策評価、社会統計、社会調査
研究キーワード:SDGs・人間開発、公共政策評価(プログラム評価)、社会統計・調査
著書:Human development policy in the global era [大学教育出版]ほか
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