強相関ディラック電子系物質における光誘起相転移を理論的に発見
強相関ディラック電子系物質における 光誘起相転移を理論的に発見
詳細は 早稲田大学Webサイト をご覧ください。
発表のポイント ◆ 光誘起相転移は国内外で盛んに研究されているが、「強相関ディラック電子系」と呼ばれる、強いクーロン反発力が働くディラック電子系の光誘起相転移については、それを記述する理論的な枠組みが確立していなかった。 ◆ 強相関ディラック電子系物質「アルファ型有機塩 α-(BEDT-TTF)2I3 」を使い、どのような光誘起相転移が起こるのかを理論的に解明した。この物質では、2種類の異なる「絶縁体状態」を光照射によって切り替えられることを発見した。 ◆ この現象は、円偏光が持つ2つの異なる性質、つまり振動電磁場により電子を励起・活性化する性質と、系の時間反転対称性を破る性質に起因することが分かり、今後、新たなデバイス機能の開拓や技術に応用されることが期待できる。 |
早稲田大学理工学術院の望月 維人(もちづき まさひと)教授および金沢工業大学基礎教育部数理・データサイエンス・AI教育課程の田中 康寛(たなか やすひろ)講師は、「相対論的量子力学」に従う「ディラック電子」が互いに強く相互作用し合っている「強相関ディラック電子系物質」において、2種類の異なる絶縁体状態を光照射によって切り替えられることを理論的に発見しました。
本研究成果は、アメリカ物理学会発行の『Physical Review Letters』にて、2022年7月18日(月)にオンラインで掲載されました。
図1: 強相関ディラック電子系物質「アルファ型有機塩 α-(BEDT-TTF)2I3」に円偏光レーザーを照射することで、電荷秩序絶縁体とトポロジカル絶縁体という異なる絶縁性状態を自在に切り替えることができる(概念図)。切り替わりのはざまに現れるディラック半金属状態も含めて、3つの電子状態はそれぞれ特徴的なエネルギーバンド構造を持つ。
■研究の波及効果や社会的影響
今回の研究で明らかになった、電荷秩序絶縁体からディラック半金属、トポロジカル絶縁体への光誘起相転移は、光照射によって固体の電子的な秩序とトポロジカルな性質の両方を同時に操作できる可能性を示したものです。従来、光誘起相転移は、物質の伝導特性や電気的性質、磁気的性質を超高速に操作できる特徴を生かして、新たな電子デバイスへの応用原理として注目されてきました。今回の研究成果から、強相関ディラック電子系物質では、電子間の強い斥力相互作用と電子構造のトポロジーの複合効果により、これまでにない多彩な光誘起相転移が起こることが期待できます。本成果は、新たなトポロジカル電子デバイスの実現に道を開く成果と考えられます。
■研究者のコメント
本研究は、古くから研究されてきた光誘起相転移の中でも、物質が持つ「電子間相互作用」と「トポロジカルな性質」の両方が現れる稀有な例であり、そこに独自性と新奇性があると考えています。この研究によって、新たなデバイス機能の開拓や技術応用が進展することを期待しています。
■論文情報
論文名:Dynamical phase transitions in the photodriven charge-ordered Dirac-electron system
(光駆動された電荷秩序のあるディラック電子系における動的相転移)
執筆者名(所属機関名):田中 康寛(金沢工業大学基礎教育部数理・AI・データサイエンス教育課程)
望月 維人(早稲田大学理工学術院先進理工学部応用物理学科)
掲載日:2022年7月18日(月)
掲載URL:https://link.aps.org/doi/10.1103/PhysRevLett.129.047402
DOI:10.1103/PhysRevLett.129.047402
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