たんぱく質摂取と筋力トレーニングによる筋力増強効果を、メタアナリシスを用いた詳細な用量反応解析で解明

国際学術誌Sports Medicine - Openに掲載

meiji

 株式会社 明治(代表取締役社長:松田 克也)は、早稲田大学スポーツ科学学術院の渡邉 大輝助教、宮地 元彦教授の研究グループとの共同研究により、たんぱく質摂取量と筋力増強との詳細な用量反応関係(どれくらいの摂取で、どの程度の効果が見込めるか)を、筋力トレーニングを併用する場合と併用しない場合のそれぞれで、メタアナリシス※1により世界で初めて明らかにしました。

 当研究成果は、2022年9月4日にスポーツ医学分野で著名な国際学術誌であるSports Medicine – Open(Sports Med Open. 2022 Sep 4;8(1):110. doi: 10.1186/s40798-022-00508-w)に掲載されました。

 当社は健康維持に大切な「筋肉」に関して、効果的なたんぱく質摂取とトレーニングの関係性などの研究を続け、お客さまのより健康な身体づくりに貢献してまいります。

 

【研究の概要】

研究の経緯

 当研究グループでは、筋肉とたんぱく質摂取と筋力トレーニングの詳細な関係性を明らかにするため、多数の研究データに基づく信頼性の高いメタアナリシス研究に取り組んできました。これまでにも、筋肉量とたんぱく質摂取量との詳細な関係性は明らかにしていますが、今回の研究では、筋肉が発揮する力である「筋力」に着目しています。「筋力」の増強は、運動能力向上や転倒リスク低下などにつながるほか、「筋力」の強い人は将来の循環器疾患やがんの発症、ひいては死亡のリスクが低いことが多くの研究から報告されています。

 これまで、たんぱく質摂取量と筋力増強との用量反応関係に関する知見はほとんど存在していませんでしたが、本研究では、筋力トレーニングを併用する場合と併用しない場合のそれぞれの条件で検証し、たんぱく質摂取量と筋力増強との詳細な用量反応関係を世界で初めて明らかにしました。

 

主要な結果

①たんぱく質の摂取による筋力増強の大きさは、総たんぱく質摂取量が約1.5 g/kg体重/日に達するまで、1日当たり0.1 g/kg体重(体重60 kgの人ではたんぱく質6 g)多くなるごとに、0.72%ずつ高まることが分かりました。高齢者の加齢による筋力低下と比較すると、約半年分の筋力低下の軽減に相当します。

②年齢や性別に関わらず、たんぱく質摂取量の増加は筋力トレーニングによる筋力増強効果を増幅させることを確認しました。

③たんぱく質摂取量の増加による筋力増強効果は、筋力トレーニング併用時にのみ発揮されることが明らかとなりました。

 

期待される効果

筋力トレーニングを行う際に、たんぱく質摂取量を増やすことで筋力増強効果が大きくなる

普段、運動を積極的に行っていない方でも、たんぱく質摂取量を増やして、適度な筋力トレーニングを実施することで、効率的に筋力を増強させることができます。

たんぱく質摂取量の増加による筋力増強の余地が大きい結果を踏まえ、食事や運動の工夫・改善を促すことで、身体能力向上や、高齢者の体力維持などに役立つ

日本人の平均たんぱく質摂取量は1.2 g/kg体重/日付近であることから、1.5 g/kg体重/日まで約15~20 g/日の差があり、多くの人々についてたんぱく質摂取量の増加による筋力増強の余地が大きいことも分かりました。これらの研究成果をもとに、食事や運動の工夫・改善を通じて、身体能力向上や、高齢者の体力維持などに役立つことが期待されます。

 

【参考】今回の研究結果により進歩した「筋力」と「筋肉量」に関する知見

 当研究グループが継続して取り組んできた筋肉とたんぱく質摂取との関係性に着目した研究から、たんぱく質摂取の効果は、「筋力」については筋力トレーニング併用時にのみ発揮され、「筋肉量」については筋力トレーニングの有無いずれにおいても発揮されることが分かりました。「筋力」は運動能力や日常の動き・転倒防止などと密接に関わる一方で、「筋肉量」は基礎代謝など全身のさまざまな化学反応の活性化、メタボリック症候群リスクの低下などと密接に関わります。いずれか一方を高めるだけでも健康への価値がありますが、十分なたんぱく質摂取とトレーニングを組み合わせることで、より健康な身体を目指せると考えます。

 

発表内容

タイトル

Synergistic Effect of Increased Total Protein Intake and Strength Training on Muscle Strength: A Dose–Response Meta-analysis of Randomized Controlled Trials

日本語訳:たんぱく質摂取量の増加と筋力トレーニングが筋力に及ぼす相乗作用

     ランダム化比較試験に基づく用量反応関係のメタアナリシス

 

方法

1.文献データベース(PubMed、医中誌Web)および先行メタアナリシス研究から、たんぱく質摂取と筋力変化との関係について調べた研究を網羅的に検索しました。 得られた2,044文献から条件に合致する82文献(3,940名分。2週間以上のランダム化比較試験※2が対象。対象者が重大な病気やケガを有する研究、筋肉に作用する機能成分を併用した研究は除く。)を厳選し、詳細なデータを抽出しました。

2.得られた全データを用いて、筋力トレーニングの有無やたんぱく質の摂取量別にメタアナリシスを実施しました。総たんぱく質摂取量(試験食品由来+食事由来のたんぱく質摂取量)が明らかなデータ(69文献、3,269名分)については、総たんぱく質摂取量と筋力変化との用量反応関係を解析しました(スプラインカーブ※3)。

 

結果

解析対象データの特徴

82文献、3,940名、19~87(平均55.6)歳、男女比53:47、総たんぱく質摂取量0.69~3.80(介入群平均1.49, 対照群平均1.09)g/kg体重/日、エネルギー摂取量1,298~3,539(平均2,035)kcal/日

 

1.用量反応解析(総たんぱく質摂取量と筋力増強効果の大きさとの関係性)

 筋力トレーニングを併用した場合、総たんぱく質摂取量が約1.5 g/kg体重/日に達するまで、0.1 g/kg体重/日多くなるごとに、筋力増強効果は平均0.72%ずつ大きくなりました(図1左)。筋力トレーニングをしない場合、たんぱく質摂取の効果は全体的に非常に小さくなることが分かりました(図1右)。

(下図は両条件が揃った0.69~2.0 g/kg体重/日付近のデータを抜粋)

 

図1. 総たんぱく質摂取量と筋力増加率との用量反応関係を表すスプラインカーブ 筋力トレーニング有り(左)、筋力トレーニング無し(右) (どちらも、介入群と対照群の双方のデータを含む)

 

 

2.その他の解析(介入群と対照群との筋力増強効果の差)

≪筋力トレーニング併用の有無≫

①たんぱく質摂取量の増加は、筋力トレーニングとの相乗作用で、元の筋力に対して平均2%分、筋力増強効果を高めました。

②たんぱく質摂取による筋力増強効果は筋力トレーニング併用時にのみ見られ、筋力トレーニング無しでは効果が認められませんでした。

 

≪たんぱく質の追加量≫

③たんぱく質の追加量0.50 g/kg体重/日を基準にサブグループ解析を実施すると、たんぱく質の追加量が0.50 g/kg体重/日より大きい方が、より大きい筋力増強効果を得られました。

 

≪性別、年齢≫

④筋力トレーニング併用時のたんぱく質摂取の増量による筋力増強効果は、性別や年齢に関わらず確認されました。

 

※1 メタアナリシス

メタアナリシスとは、複数の研究結果を統合して分析することで、個々の研究よりも信頼性の高い分析結果を得る手法です。最も質の高い研究エビデンスであるとされています。

 

※2 ランダム化比較試験

試験食品などの効果を公平に評価するため、試験参加者のグループ分けをランダムに行う試験です。メタアナリシスやシステマティックレビューに次いで、信頼性の高い研究エビデンスであるとされています。

 

※3 スプラインカーブ

区間ごとに算出した曲線を滑らかに繋ぎ合わせ、全体の用量反応関係を分かりやすく表したモデルです。

 

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