ショウジョウバエで1日の食事のタイミングを決める分子メカニズムを発見

1.概要

摂食行動の概日リズム、すなわち一日の決まった時間に起きる摂食/絶食は、動物の行動を制御し、健康に大きく関わる。摂食リズムは、体内時計と光の入力によって調節される。体内時計は、period (per), timeless (tim), Clock (Clk), cycle (cyc)という時計遺伝子によって構成され、体内の多くの細胞にある。しかし、その詳細はよくわかっていない。本研究では、ショウジョウバエで毎日の摂食リズムを生み出す分子経路を明らかにした。個々のハエの時間ごとの摂食量を解析したところ、12時間ごとに明(昼間)暗(夜間)がある明暗条件下での摂食リズムは、Quasimodoという遺伝子により制御されることがわかった。また、24時間ずっと暗いままの恒暗条件における摂食リズムは、摂食/絶食とそれらの同期という二つの要素で構成されることがわかった。摂食/絶食は、消化/代謝組織のClk/cycによる転写によって生成され、そのタイミングは神経組織の体内時計によって同期されていた。本研究から、ショウジョウバエの摂食リズムを制御する遺伝子と、組織間の役割分担が明らかになった。

 

2.ポイント

●摂食行動の概日リズムの分子メカニズムを解明した。

 ・ 明暗条件では、摂食リズムがQuasimodoという遺伝子で制御されている。

 ・ 恒暗条件では、消化/代謝組織のClk/cyc が食べる時間(摂食)/食べない時間(絶食)を生成する。

 ・ 恒暗条件では、神経細胞の体内時計が、摂食/絶食のタイミングを同期する。

 

3.研究の背景

多くの動物は1日の決まった時間に摂食する。これは捕食者を避けつつ効率的に餌を得るために重要であり、体内では消化器官などが協調して働くことで効率良く消化ができる。この摂食リズムは、満腹感と空腹感、光や温度などの環境要因と、時計遺伝子によって構成される体内時計によって決定される。体内時計を構成する時計遺伝子は、中枢神経に加え消化器官などの末梢組織にも発現しており、摂食は体内時計をリセットすることも知られている。しかし、消化器官での時計遺伝子の摂食リズムへの役割はよくわかっていない。本研究では、ショウジョウバエを用いて、組織ごとの時計遺伝子が摂食リズムを制御する分子メカニズムを明らかにしようとした。

 

4.研究の詳細

マイクロキャピラリーを使って測定するCAFEアッセイと呼ばれる手法によって、ショウジョウバエの昼、夜の摂食量を一匹ずつ二日間にわたって定量した。ハエは通常昼間により多く摂食し(daytime feeding pattern)、恒暗条件においてもこのパターンは維持される。明暗条件では、時計遺伝子変異体でもdaytime feeding patternが維持されていたことから、時計遺伝子は摂食リズムに関与しないことが示された。一方、Quasimodoと呼ばれる遺伝子を欠損させると、daytime feeding patternを示す個体の割合が低下していたことから、Quasimodoが光の入力によって摂食リズムを調節することがわかった。また、恒暗条件では、period (per), timeless (tim), Clock (Clk), cycle(cyc) からなる時計遺伝子が摂食リズムに必要であることは知られていたが、改めてそれぞれの遺伝子を欠損した変異体を比較すると、per/timの変異体と、Clk/cycの変異体は異なる摂食のパターンを示した。per/timの変異体では、食べる時間・食べない時間(摂食・絶食)の区別は見られたが、そのタイミングがバラバラになっていた。一方Clk/cycの変異体では、摂食・絶食の区別がはっきりしないことから、Clk/cycが摂食・絶食を作り出す機能があることがわかった。さらに器官ごとの役割を調べたところ、人間の肝臓や脂肪組織に相当するfat bodyというショウジョウバエの器官でClk/cycを阻害すると、摂食・絶食の区別が失われ、また神経細胞でperを阻害すると、摂食・絶食のタイミングの同調が失われた。これらより、代謝組織でのClk/cycが摂食・絶食の区別を作り出し、そのタイミングを神経細胞の時計遺伝子が同期することが示唆された。

本研究から、明暗条件での摂食概日リズムにおけるQuasimodoの役割が初めて示された。また、恒暗条件での摂食リズムが摂食/絶食とその同期という二つのメカニズムによって作り出されていること、そしてそれらは代謝組織のClk/cyc、神経細胞の体内時計によりそれぞれ担われていることが明らかになった。

 

ショウジョウバエの1日の摂食リズムを決める分子メカニズム。光の入力がある明暗条件では、光の刺激がQuasimodoという遺伝子にコードされるタンパク質を介して、いつ摂食をするべきかを決める。一方、光の入力のない真っ暗な条件でも、体内時計を作る遺伝子によって、食事のタイミングが決められている。摂食・絶食というメリハリは、消化器官のClk/cycによって作られ、それを神経細胞の体内時計が同期することで、毎日決まった時間に摂食行動が起きる。

 

5.研究の意義と波及効果

摂食行動は動物の生命維持の基盤となる行動であり、また食餌と代謝は健康と寿命に大きく関わる。本研究では、摂食リズムを制御する分子メカニズムを発見し、また中枢神経と代謝組織の時計遺伝子の役割をそれぞれ明らかにした。摂食リズムは、様々な組織での遺伝子発現や酵素の活性を同期することで、摂食行動とそれに続く代謝とエネルギー産生を効率よく行う役割を担い、その乱れは肥満や代謝障害につながることが指摘されている。本研究の結果は、将来、不規則な食事による疾患の予防や治療への手がかりとなる可能性がある。

 

6.論文情報

<タイトル> Dissecting the daily feeding pattern: Peripheral CLOCK/CYCLE generate the feeding/fasting episodes and neuronal molecular clocks synchronize them

<著者名> Akiko Maruko, Koichi M. Iijima, Kanae Ando

<雑誌名> iScience

<DOI> 10.1016/j.isci.2023.108164

 

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