極めて安定な新規カンナビノイド生物学的等価体の不斉合成に成功

カンナビノイドの医薬的応用へ期待

早稲田大学

2025年3月7日

早稲田大学

極めて安定な新規カンナビノイド生物学的等価体の不斉合成に成功 カンナビノイドの医薬的応用へ期待

 

詳細は早稲田大学HPをご覧ください。

 

発表のポイント

●医療用途でのカンナビノイドの利用が注目を集めており、その生理活性を活かした薬理学的研究や、より効果的な生物学的等価体の開発が進められています。

 ● 本研究では、これまでに例のない1,7-エンインを原料としたエナンチオ選択的[2+2+2]付加環化反応を開発し、適切な配位子の選択により、高いエナンチオ選択性とほぼ完全な位置選択性を達成。さらに、極めて安定な新規カンナビジオール生物学的等価体の候補化合物の合成に成功しました。

 ● 特に、カンナビノイド受容体に対する新規な生物学的等価体の合成は、医薬品開発において重要な意味を持ち、本研究により、カンナビノイドの医薬的応用が期待されます。

 

早稲田大学理工学術院の柴田 高範(しばたたかのり)教授らの研究グループは、ロジウム触媒を用いて、1,7-エンインと非対称アルキンの[2+2+2]付加環化反応を報告しました。適切な配位子の選択により、極めて高いエナンチオ選択性※1 とほぼ完全な位置選択性を達成し、さらに生成物の合成変換により新規な軸不斉※2 を有するカンナビノイド生物学的等価体※3 の候補化合物の合成を行いました。

本研究成果は、2025年2月5日にアメリカ化学会により発行される「Journal of the American Chemical Society」にオンライン版で公開されました。

 

図1 原料の1,7-エンインから、不斉触媒を使い分けることで、2つの位置異性体を高不斉収率で合成

図2 中心不斉を有する生成物を軸不斉を有するカンナビジオール(CBD)生物学的等価体の候補化合物へ合成変換

 

(1)これまでの研究で分かっていたこと

カンナビノイド※4 は近年、医療用途における利用が注目を集めており、その生理活性を活かした薬理学的研究や、より効果的な生物学的等価体の開発が進められています。特に、全身に存在するカンナビノイド受容体と結合することで様々な薬理学的作用を及ぼすことが知られているカンナビジオールやΔ⁹-THC ※4の構造を模倣する分子設計が求められています。このような背景より有機合成の観点において、ベンゾ[c]クロメノール骨格※5 の合成が重要です。

 

一方、従来より遷移金属触媒を用いた[2+2+2]付加環化反応※6が広く研究されており、ロジウム、イリジウム、ニッケル、ルテニウムなどが活性な遷移金属触媒として報告されました。特に、キラルなロジウム触媒を用いるエナンチオ選択的な反応の報告例は多いですが、そのほとんどは原料として反応性が高い1,6-エンインを用いる反応で、六員環の構築が可能な1,7-エンインを原料とする高エナンチオ選択的[2+2+2]付加環化反応の報告例はこれまでありませんでした。

 

(2)今回の研究で実現したこと

本研究では、これまで未開拓であった1,7-エンインを原料としたエナンチオ選択的[2+2+2]付加環化反応の開発を目指しました。その結果、カチオン性ロジウム触媒と適切な配位子を組み合わせることで、カンナビノイド類に含まれるベンゾ[c]クロメノール骨格の高選択的合成を実現しました。

 

また、計算化学的解析により、エナンチオ選択性の起源を解明し、使用する配位子の違いが反応の位置選択性に与える影響を明らかにしました。さらに本手法を応用し、中心キラリティを軸性キラリティへ変換することにより、新規な軸不斉を有するカンナビノイド生物学的等価体の候補化合物の合成を達成しました。本化合物は、構造的にカンナビジオールに類似しつつも、高い安定性を持つことが示され、カンナビノイド受容体に対する親和性の向上が期待されます。

 

(3)そのために新しく開発した手法

本研究では、カチオン性ロジウム触媒を用いた1,7-エンインと非対称アルキンの[2+2+2]付加環化反応の最適化を行いました。特に、エナンチオ選択性および位置選択性を制御するために、配位子の選択が重要でした。計算化学的手法を用いた解析では、最適配位子である(S)-DTBM-BINAPの場合、強いC=O···H-C(sp2)相互作用を形成することが選択性を高める要因であることが示唆されました。もう一方の位置異性体を与える最適配位子である(R,R)-BenzP*では、空間的な嵩高さによる選択性を示し、それぞれ異なる選択性の制御機構が存在することが示唆されました。

 

(4)研究の波及効果や社会的影響

本研究で開発された合成手法は、ベンゾ[c]クロメノール骨格を提供する簡便、かつ信頼性の高い方法であり、様々な官能基の導入、炭素鎖伸長が可能です。特に、カンナビジオール受容体に対する新規な生物学的等価体の合成は、医薬品開発において重要な意味を持つことが期待されます。本研究で得られた化合物は、カンナビノイド類の医薬的応用を拡大する可能性があります。

 

(5)今後の課題

得られたカンナビノール類縁体の生理活性評価を進め、実際の医薬品開発への応用可能性を明らかにすることが重要です。さらに、本手法を他の多環式化合物の合成に応用することで、新規な生物活性物質の創出につながる可能性があります。今後は、触媒系のさらなる改良や、反応メカニズムのより詳細な理解を進めることで、さらに効率的な合成手法の開発を目指します。

 

(6)用語解説

※1 エナンチオ選択性

右手と左手のように互いに鏡像の関係にある分子を鏡像異性体(エナンチオマー)と呼び、エナンチオ選択性とは、2つの鏡像異性体のうち、一方の鏡像異性体を優先的に合成すること。

 

※2 軸不斉

鏡像の関係にあることを「不斉」と言います。分子に生じる不斉において、ある軸周りの非対称により生じる不斉が軸不斉です。その代表例が、図2に示したような2つのベンゼン環の間の単結合が立体障害により自由回転できないことに起因する不斉であり、医薬品や機能性材料の分野で重要な構造です。

 

※3 生物学的等価体

医薬関連化合物において生物学的に同じ役割を果たす他の部分構造を生物学的等価体(bioisostere)と呼びます。薬物の主要な生物活性に影響を与えることなく、医薬に含まれる官能基を他のものに置換することで、活性を改善させる目的に有効となるアプローチです。

 

※4 カンナビノイド、カンナビジオール、Δ⁹-THC

カンナビノイドは、104種類ある薬用作物「大麻草」に含まれる生理活性物質の総称です。近年、先進国を中心として、医療利用が進んでいます。カンナビジオールやΔ⁹-THCはカンナビノイドの一種。

 

※5 ベンゾ[c]クロメノール骨格

酸素を含んだ六員環であるピラン環に2つのベンゼン環が縮環した三環式骨格をもつ芳香族アルコールであり、カンナビノイド類を含め、多くの天然物に共通する骨格です。

 

※6 付加環化反応

π電子系を持つ二つの分子が付加反応を起こして、環状化合物を生成する反応であり、原料と生成物で、原子損失がない原子効率100%の理想的な反応です。Diels-Alder反応を代表例として、有機反応の中でも重要な炭素−炭素結合形成法としての基幹反応です。

 

(7) 論文情報

雑誌名:Journal of the American Chemical Society

論文名:Ligand-Governed Regio- and Enantioselective [2 + 2 + 2] Cycloaddition of 1,7-Enynes: Assembly of the Benzo[c]chromen-1-ol Backbone and Access to Enantioenriched Cannabinol Bioisostere

執筆者名:いずれも所属は早稲田大学

King Hung Nigel Tang博士(先進理工学研究科博士課程。博士学位取得後、現在は理工学術院総合研究所招聘研究員)

Taichi Kishi(先進理工学研究科修士課程。修士学位取得後、現在は民間企業研究員)

Natsuhiko Sugimura博士(物性計測センターラボ職員)

Yuto Horio(先進理工学研究科修士課程2年)

Takanori Shibata(理工学術院教授)

掲載日(現地時間):2025年2月5日

掲載URLhttps://doi.org/10.1021/jacs.4c18319

 

(8) 研究助成(外部資金による助成を受けた研究実施の場合)

研究費名:Special Research Projects and the Japan Science and Technology Agency (JST) Support for Pioneering Research Initiated by the Next Generation (W-SPRING), JPMJSP2128

研究課題名:New Environment‐Friendly Strategy for the Synthesis of Valuable Organic Materials via C–H Activation

研究代表者名(所属機関名):King Hung Nigel Tang (早稲田大学 大学院先進理工学研究科 博士課程、現在 理工学術院総合研究所 招聘研究員)

 

研究費名:大学共同利用機関法人 自然科学研究機構 Research Center for Computational Science, Project 24-IMS-C390

研究課題名:触媒的[2+2+2]付加環化反応における位置選択性の反応機構解析

研究代表者名(所属機関名):柴田 高範 (早稲田大学理工学術院)

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