視覚障害者を孤立させない 行政との連携強化に 「行政職員向け盲導犬オンラインセミナー」初開催

日本盲導犬協会

2020年11月19日

公益財団法人 日本盲導犬協会

                                

 

報道関係各位

 

視覚障害の人にとって、福祉の行政窓口は障害者手帳の交付や安全に移動するための手段や訓練、音声パソコンの使い方など日常生活に不可欠な情報を尋ねる大切な場所です。また、音声信号機を増やして欲しいといった要望を伝え、暮らしやすい街づくりに反映する重要部署です。福祉窓口のサービス向上は視覚障害者のQOL(生命・生活の質)に直結します。

公益財団法人 日本盲導犬協会(理事長:井上幸彦)では、その福祉窓口とコンタクトし連携してきましたが、新型コロナウイルスの影響でままならない状況となりました。そこでオンラインの活用へと転じましたが、この機会に、協会の訓練センターがある近隣県にとどまらず対象を全国に広げ、しかも県や市町村の本庁舎だけでなく、どこからでも参加できる利点を生かし出先機関なども含め、全国規模での盲導犬オンラインセミナーを202012月から開催いたします。

 

セミナーは二部に分けて1時間。まず盲導犬の貸与の仕組みや盲導犬との家庭での生活の仕方、申し込み方法など、盲導犬全般への疑問に答える1部。ここでは視覚障害の方へ向けた生活の便利グッズ、利用できるサービスなどの「情報提供の重要性」についても触れます。

2部では盲導犬同伴の行動に社会がどう対応するか、飲食店や医療機関など受け入れ側の責務と、地域での啓発活動促進」を訴えます。

 

 

「盲導犬の取得手続きなど視覚障害支援に関する情報を何とか当事者へ届けたい」「事業者や市民に対し、誰もが活躍できる社会の実現に向けたメッセージを発信したい」――この2点を日本盲導犬協会と行政が連携しながら進めていきたいと考えています。どうかこの取り組みを取材していただき、報道していただけますようお願い申しあげます。

 

 

■「行政職員向け盲導犬オンラインセミナー」の詳細

 

1.開催日時

2020:

1211日(金)14

2021:

126日(火)14

225日(木)14

321日(日)14

 

2.対象者

都道府県・市町村、視覚障害に関わる相談支援事業所、地域包括支援センター、就労支援に関わる事業者など

 

3.参加方法

ウェブ会議システムZoomを使用

 

4.場所

公益財団法人日本盲導犬協会 神奈川訓練センター

〒223-0056 神奈川県横浜市港北区新吉田町6001-9

※参加者はオンラインで参加

 

5.応募詳細

日本盲導犬協会ホームページをご覧ください

https://www.moudouken.net/center/kanagawa/news/article/page_355.php

 

 

盲導犬ユーザーの体験談

 

藤本悠野さん&ウクル(東京都)

(ブラインドテニスに夢中です。全国大会にもウクルと2人で遠征します。盲導犬と一緒に誰にも気兼ねなく好きな時に出かけることができるようになりました)

 

都内で4つの区に住み、その度に福祉サービスの利用申請など福祉課のお世話になりましたが、盲導犬の話が出たことは1度もありません。窓口でもらう「福祉のしおり」に「補助犬の給付」の項目はありますが、対象は障害者手帳「1級」となっていて「自分(2級)は対象じゃないんだ」と、長年、盲導犬は全盲の方が持つものという認識でした。4年ほど前に知り合いが日本点字図書館で盲導犬の体験歩行をされ、ロービジョン(全盲ではなく、見えにくい視覚の状態)でも持てるらしいと教えてくれました。それがきっかけで日本盲導犬協会に問い合わせたら、あれよあれよと話が進み今に至った次第です。

区に盲導犬について何か助成が受けられるのかなど問い合わせもしたのですが誰も分からず、調べてもらうのに時間がかかりました。結局、受けられるサービスは何もなくて、保健所に飼い犬の登録をしただけでした。

身体障害者手帳2級では、白杖がなくても歩ける方もいらっしゃいます。ただ私のように、盲導犬と歩くことでQOLが向上する場合もあるので、選択肢の一つとして情報が提供されるといいなと思います。例えば協会のパンフレットなどを渡してもらうとか、体験会もあるみたいですよと一言添えてもらえる、それだけで違うのかなと思います。

見えるわけでも見えないわけでもなく、行政のサービスにしても、精神面にしても、孤立しがちなロービジョンの人を、協会のようなプロの方々につなぐ橋渡しをしてもらえたらと思います。

 

 

ユーザー若山さん&盲導犬トラヴィス(宮城県石巻市)

(今日もトラヴィスと一緒に、石巻市役所へさっそうと歩いて向かいます。変われた自分を見て、同じ悩みを持った人が少しでも前向きになってもらえたらと思います)

 

3年間、自宅で閉じこもっていました。家族につらく当たってしまう自分を変えようと、まずは白杖の購入を決意し、1年ほどは白杖のみで歩行しましたが、物や人に白杖を当てる抵抗感や歩く速さの物足りなさを持つようになり、盲導犬の体験歩行会に参加しました。実は白杖購入の際、サイズ合わせに自宅へ来てくれたのが日本盲導犬協会だったのです。その縁が体験会につながりました。

トラヴィスと歩くようになって、外出機会がぐっと増えました。活動範囲も広がり、宮城県石巻市のNPO団体「一歩を楽しむ石巻」を立ち上げるまでに。閉じこもりがちな視覚障害者へ「まずは一緒にお茶でも」と気軽に声をかけています。一歩外へ出かける機会がいかに大事か、自身の体験から痛切に思います。盲導犬をもつ前に行政へ相談に行ったとき、一番気になったのは「同じ当事者の方の暮らしぶり」でした。どんな福祉機器を使っているのか? 同じ地域に当事者がいるのか? コミュニティーがあるのか?

当時、自分が疑問に思ったことを、今度は自分が情報提供者になって解決したい。視覚障害に関する情報交換や啓発活動を市役所と共に行うようになりました。現在は役所に盲導犬のパンフレットやポスターが設置されるほど、精力的に交流を重ねています。

 

 

ユーザー髙さん&盲導犬エレナ(広島県呉市)

(盲導犬と歩くと「散歩した」という感じがします)

 

50歳代前半で広島市の自立訓練施設に入所して3か月間、泊まり込みで白杖の歩行訓練を受けました。通院していた広島県呉市の眼科医院で「そろそろやった方が」と勧められたのがきっかけです。その眼科医院は実はロービジョンケアに取り組んでいるんです。10年ほど前に呉市で視覚障害のシンポジウムがあり、その眼科医が「ロービジョンケア」などと熱く語っていました。「へえ、そんなのがあるんだ」と驚き、眼科を替えたのです。

 自分が将来的に見えなくなっていくのは分かっていたので、30歳代の半ばでマッサージの資格を取って仕事を替え、東京の会社から視覚障害者用支援機器や教材を取り寄せ勉強していました。眼科を替えたのもその流れです。生きていく上での情報は、やはり同じ視覚障害の仲間が詳しいです。ネットで調べるのが好きです。

 盲導犬ユーザーになったのは? 白杖歩行訓練で行った施設で、盲導犬の体験歩行が行われることを知って、実際にやってみて納得し、昨年、呉市で最初のユーザーになったのです。

 

 

ユーザー山上隆幸さん&盲導犬イルミ―(静岡県伊豆の国市)

(イルミーは常に私を見守っていて、家の中でも動くと目で追っています。旅行が大好きなので、可能になったら、今年の分まであちこち出かけたいと思います)

 

緑内障でだんだん見えなくなって、家族の手引きで外出をしていたのですが、家族に用事があったりするとそれもままならず、1か月くらい外を歩けず筋力が落ちていくのを痛感していました。白杖で歩くのはちょっと抵抗があって、このまま寝たきりになるのか、そんな不安の中にいました。そんな時、市役所から手紙がきて「白杖歩行体験」のお知らせが届いたんです。思い切って参加しました。日本盲導犬協会の指導員の方が教えてくれて、歩いたのは1,2時間程度でしたが、練習すれば1人で歩けるようになるかも、と期待が持てました。市役所からの情報はほんとうにありがたかった。

2回目は、県の視覚障害者支援センターからの誘いで、富士ハーネスで2泊3日の白杖訓練をうけました。この時、盲導犬の体験もさせてもらったのですが、とにかく歩くスピード感が違うことに感動したのを覚えています。

自身の体験から、同じように視覚障害で外出ができないでいる人に情報を届けたいと考えたんです。市役所から視覚障害の方へ発送する封筒の中に、「お茶でも飲みませんか」と自分の連絡先を添えた案内チラシを同封できないか、お願いに行きました。残念ながらかなわず挫折でしたが、今はメーリングサービスを利用して仲間と情報発信をしています。伊豆の国市で、視覚障害の方同士が情報交換できるようなつながりをつくれたらと考えています。

 

 

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視覚障害者支援 現場の課題■

①厚生労働省によると視覚障害者は31万人(障害者手帳保持)ですが、日本眼科医会は09年に米国の「失明」「ロービジョン」の基準で視覚障害者数を164万人と推計しており、誰にとっても人ごとではありません。人生半ばで見えない、見えにくい状態になり、生きることさえ困難と考えてしまう方もいます。

 

②現在の盲導犬の数はおよそ900頭。障害当事者に対しても補助犬の使用がもたらす効果が十分に認知されていないと言えます。

 

③視覚障害者が直面する困難は「移動」「生活」「読み」に大別され、例えば「移動」については白杖歩行、同行援護、盲導犬歩行と選択肢がありますが、当事者にとってはそれぞれどこで訓練を受けることができ、費用面はどうなっているのかなど、選択する際の情報はたくさん欲しいところ。「生活」や「読み」も含め、ワンストップで福祉窓口から必要な情報を入手できたら助かります。しかし、盲導犬含め必要な情報が当事者に届いているとは言い難い状況です。

 

④盲導犬についていえば、日本盲導犬協会は障害者差別解消法の施行(16年)を機に、17年春から毎年、ユーザー(使用者)に飲食店や医療機関、交通機関、スーバー・コンビニ、ホテルなどで盲導犬同伴に際して「拒否を受けたかどうか」の調査をしていますが、55%→59%→60%→63%と漸増しています。盲導犬を利用する視覚障害者の活動しやすい社会づくりに向けて、盲導犬についての知識の普及が急がれます。

※厚労省も啓発活動の強化を示唆して、2020年3月、自治体向けた「身体障害者補助犬使用者の効果的な普及・啓発活動のあり方ガイドブック」を作成。

https://www.mhlw.go.jp/content/000665268.pdf

 

 

 

行政担当者との連携■

協会は毎年、都道府県や市区町村など2000に上る自治体に「盲導犬の活動状況・取得手続き」などを「協会案内」などと共に送付し、さらに連携強化に向けてアンケート調査などをお願いしています。そのうち回答がくるのは300件ほどにとどまっています。今回のオンラインセミナーなどを手がかりに、できるだけ多くの自治体と関係性を作っていきたいと考えます。

 

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