世界初!石油を内包するシリカコンクリーションの成因を解明
~シリカによる岩石空隙のシーリング・長期物質保存技術に応用可能~
令和3年2月25日
国立大学法人東海国立大学機構 岐阜大学
世界初!石油を内包するシリカコンクリーションの成因を解明
~シリカによる岩石空隙のシーリング・長期物質保存技術に応用可能~
【概要】
国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学博物館の吉田 英一 教授、門脇 誠二 講師、大学院環境学研究科の隈 隆成 博士後期課程学生、城野 信一 准教授、宇宙地球環境研究所の南 雅代 教授、理学部の高木 なつ子 技官、高知大学理工学部の長谷川 精 講師、岐阜大学教育学部の勝田 長貴 准教授、名古屋市科学館の西本 昌司 主任学芸員および英国地質調査所の研究グループは、石油(瀝青油)を閉じ込めたシリカ(シリカ(SiO2)=ガラスの主成分)の球状コンクリーションを発見し、その形成プロセスと、形成速度が非常に速い(数年程度)ことを初めて明らかにしました。
名古屋大学を中心とする研究グループは、これまでに様々な球状コンクリーション(注1)の形成メカニズムを解き明かし、土木工学などへの応用性のある研究を展開しています。
今回、米国・ユタ州から産出した石油を内包する球状シリカコンクリーションを詳しく調べ、腐食によって酸性となった魚の糞(有機物)のまわりで、地層中のアルカリ性の地下水が中和反応を起こすことにより、地下水に溶けていたシリカ(SiO2)が短時間のうちに沈殿し、閉じ込められた糞(有機物)が、その後の地質学的熟成で石油に変化したことを、世界で初めて突き止めました。
炭酸カルシウムや酸化鉄でできた球状コンクリーションの成因は、これまでの研究で明らかとなっていましたが、シリカを主成分とするコンクリーションについては、明確な成因や形成時間などは謎に包まれていました。今回の研究によって、シリカの濃集には生物起源の有機物の腐食と、それに伴う中和反応が不可欠であることが明らかになりました。
シリカコンクリーションが非常に速く形成することが明らかとなり、将来的には、現在開発中の炭酸塩球状コンクリーション化の応用によるシーリング化技術とともに、岩石中の亀裂や空隙などを通る地下水の水みち閉塞技術への応用が期待されます。また、シリカコンクリーションは、人類史において石器として利用されてきた重要な石材(フリント)の一部であり、その成因解明は考古学上の新発見につながる可能性もあります。
この成果は、Nature系電子版の「Scientific Reports」2021年2月19日付に掲載されました。
石油を内包する球状シリカコンクリーション
【ポイント】
・石油を含む球状シリカコンクリーションの成因を明らかにした。
・シリカコンクリーションの成因(シリカ成分(SiO2)の濃集)には、有機物(魚の糞など)の腐食に伴う中和反応が重要な役割を果たすことがわかった。
・シリカコンクリーションの成因(シリカ成分(SiO2)の濃集)は、これまで非常に遅い(数万年程度はかかる)と考えられていたが、数年程度と非常に速く形成されることを示した。
【研究背景と内容】
シリカは、地球表層の岩石で最も多く含まれる成分であり、シリカ鉱物(石英など)は、地表での風化に対して強く、化学的に安定した鉱物である。そのシリカ成分が、80~90%以上も濃集した球状コンクリーションの成因について、なぜ、一箇所にそれほどの高い濃度で濃集するのか、どのくらいの速度で濃集するのかなど、必然性も含めて明確にはわかっていなかった。本研究グループは、米国・ユタ州でシリカコンクリーションを発見し、その内部に石油を内包するユニークなシリカコンクリーション(図1、2)を詳細に分析することで、その形成メカニズム及び形成速度を考察した。
その結果、内部の石油成分部分は、元は魚の糞であり、糞中の有機物が腐食することによって周辺のpHが低下し、地下水中に溶け込んでいたシリカ成分(SiO2)が糞を取り囲むように沈殿し、徐々に厚くシリカの殻を形成し、有機物成分を内包することを明らかにできた。そして、その後の温度上昇に伴う地質学熟成によって、有機物が石油へと変化していったことも明らかにすることができた(図3)。
この有機物からの腐食に伴う有機酸の拡散とシリカ成分の中和による沈殿速度は、基本的にD = VL(D:腐食酸の拡散係数、V:形成速度、L:シリカコンクリーションの縁辺部分の反応幅)という関係式と図表(図4)で統一的に示される。これは他地域で見ることのできるシリカコンクリーションの形成速度の見積もりにも応用可能である。
【研究成果の意義】
本研究の意義は、非常に硬くて緻密なシリカコンクリーションの形成メカニズムとその形成速度を明らかにしたことである。とくに、形成速度が従来の概念を覆すほど速いと分かったことは、シリカによる岩石空隙などの閉塞といった工学的分野にも応用が可能であることを示す。今回の石油成分を内包するシリカコンクリーションの存在は、数千万年もの間、石油成分がコンクリーションから漏れ出すことなく、長期に渡って保持されてきたことを示しており、これまで進めてきている炭酸カルシウムコンクリーションの応用化と同様に、岩石亀裂などの長期的に安定なシーリング技術としての応用が期待される。
また、シリカコンクリーションは、工学的分野のみならず、人類史研究においても石器石材の観点で注目されている。とくにネアンデルタール人~ホモ・サピエンスへの人類進化史において、石器づくりのためにシリカを主成分とする石材(フリント)を様々な産地から手に入れる行動が発達した。その石材の成因の解明は、産地同定などにも適用できる可能性があり、人類の行動進化に関する多くの謎の解明にもつながると期待される。
【用語説明】
(注1)球状コンクリーション:炭酸カルシウムや鉄酸化物を主成分とする地層中(堆積岩のみ)で見出すことのできる球状の岩塊
【論文情報】
雑誌名:Scientific Reports
論文名:Syngenetic rapid growth of ellipsoidal silica concretions with bitumen cores
著者:H.Yoshida, R.Kuma, H.Hasegawa, N.Katsuta, S.Sirono, M.Minami, S.Nishimoto, N.Takagi, S.Kadowaki & R.Metcalfe
DOI:10.1038/s41598-021-83651-w
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このプレスリリースを配信した企業・団体
- 名称 国立大学法人東海国立大学機構岐阜大学
- 所在地 岐阜県
- 業種 大学
- URL https://www.gifu-u.ac.jp/
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