温暖化によるアユ生態の南方化

海水温の上昇が海洋生活を短縮、長良川の長期データで解明

岐阜大学

2026年6月15日

長野大学

岐阜大学

岐阜県

温暖化によるアユ生態の南方化 ~海水温の上昇が海洋生活を短縮、長良川の長期データで解明~

 

 

本研究のポイント

・ 岐阜県水産研究所に長年蓄積されてきた長良川のアユのデータを活用し、アユが冬の海で過ごす期間は海水温と密接に関係しており、この海洋生活期間が温暖化による海水温上昇によって短縮していることを初めて突き止めました。

・ この結果は、ある特定地域におけるアユの生態が、温暖化によって≪南方の生態―南方ほど海洋生活期間が短い―≫に近づいていることを意味します(アユ生態の南方化)。

・ 過去の研究から、長良川では、温暖化の影響による秋の産卵・孵化の遅延が確認されています。しかし、冬の海洋生活期間が短くなっているために、見かけ上は春の遡上時期に顕著な変化は起きていないと考えられます。

・ 本成果により、川と海を行き来するアユ仔稚魚期の生態の理解が深まるとともに、アユ資源管理方策への貢献が期待されます。

 

 

研究概要

 アユは秋に川で生まれ、海に下りて冬を過ごし、春に再び川へ戻る魚です。一般に、アユの海での生活期間は南方ほど短いことが知られており、川や海の水温がこれに関連していると考えられていました。しかし、その詳しい要因は未解明であり、加えて近年の温暖化の影響についてはまったく分かっていませんでした。

 長野大学共創情報科学部の永山滋也教授は、岐阜大学環境社会共生体研究センターの原田守啓センター長、岐阜県里川・水産振興課の藤井亮吏氏、岐阜県水産研究所の大原健一氏と共同研究を行い、長良川河口堰で捕獲した遡上アユの日齢と河川・海水温の関係を調べました。その結果、冬季のアユの海洋生活期間が海水温と密接な関係にあること、また温暖化に伴う海水温の上昇によって海洋生活期間が短くなっていることを突き止めました。

 本研究成果は、国際学術誌『Journal of Fish Biology』のオンライン版において、日本時間2026年6月11日に掲載されました。

 

 

研究背景

・ アユは日本を代表する水産重要種であり、明治時代の水産増殖学的研究に始まり、これまで盛んに研究されてきました。しかし、河川や海における生態学的研究は相対的に少なく、身近でありながらいまだ謎が多い魚でもあります。

・ アユは秋に産卵・孵化します。川で孵化したアユの仔魚はただちに海へと下り、冬の間、波打際などのごく沿岸で過ごしたのち、春、川に遡上します。アユの海洋生活期間は南方ほど短いことが知られています。それゆえ、海洋生活期間は、川や海の水温に関連すると考えられてはいましたが、その支配的な要因や近年の温暖化による影響については、十分に分かっていませんでした。

・ 近年、アユ資源管理の高度化のために、川だけではなく海も含むアユ生態のさらなる解明が求められていました。



研究方法

 岐阜県水産研究所に蓄積されていた1995~2025年(うち8カ年)の遡上アユの日齢データを使用しました。遡上アユは長良川河口堰の魚道(海から5.4km地点)で3~6月に捕獲された個体であり、耳石※1の輪紋を計数することにより個体ごとの日齢を把握(図1)し、これを海洋生活期間(日数)とみなしました。また、捕獲日と日齢から孵化日を推定しました。国土交通省の公開データから、2012年以降の長良川の河川域(31.2km地点)、河口域(3.0km)、および伊勢湾奥の水温を取得し、産卵孵化(河川域)と河川遡上(河口域)の引き金となる水温の到達タイミングやそれらの期間についても年ごとに整理し、海洋生活期間との関係を解析しました。

1. 長良河口堰で捕獲した遡上アユ(左)、摘出した耳石(中)、研磨した耳石の輪紋の様子(右)

 

 

研究成果

・ 孵化時期が早いアユほど、より大きい体サイズで早くに河川遡上を始めるという毎年の一貫した傾向が、本研究でもあらためて確認されました。

・ アユの海洋生活期間は、年ごとに50日程度のばらつきはありますが、過去30年間でおよそ12日間短縮している傾向が確認されました(図2)。また、海水温は2012~2024年の間だけでも明確な上昇傾向を示しました(図3)。

・ アユの海洋生活期間は、産卵孵化と河川遡上を誘発する河川水温よりも、冬季の海水温に強く関係しており、海水温が高い年ほど海洋生活期間は短くなりました(図4)。これは、海水温が高いと成長が良好となり、河川遡上の可能な体サイズ(水温依存:大きいサイズほど低い水温で遡上可能)に早く達するためと考えられます。

・ 以上の結果から、温暖化によって伊勢湾の冬季海水温が上昇しており、それに伴ってアユの海洋生活期間が短くなっていることが分かりました。

 

 

 


 

研究の意義

・ 県の研究機関で蓄積された過去のデータを活用することで、現在のアユ資源管理に貢献できる基礎的かつ重要な生態学的知見を導き出すことができました。

・ 既知であった「長良川における秋の産卵遅延」に加えて、今回あらたに、「伊勢湾における冬の海洋生活の短縮」という新たな温暖化影響が明らかになりました。これらは、他地域におけるアユ生態への温暖化影響を理解するうえでも役立ちます。

・ 海への出入りに関係する「産卵(孵化)と河川遡上のタイミング」は、アユの海洋生活期間に影響する潜在的な要因であり、それは河川水温に強く依存しますが、本研究では、その年の海の状況(海水温)がより支配的な要因であると示されました。

・ 内水面漁業の重要種であるアユの生態・資源を考える上で、川だけでなく、海の状況も考慮することが重要であることが示されました。

 

 

今後の展開

・ 顕著な変化が見られない伊勢湾から長良川に向かうアユの遡上タイミングについて、より詳細な検討を実施し、「見かけ」と「中身」の変化およびその要因を把握します。そして、アユの再生産・リクルートに対する気候変動やその他の影響を検討します。

 

 

論文情報

雑誌名:Journal of Fish Biology

論文タイトル:Climate-driven shifts in early life history via shortened marine residence in amphidromous ayu Plecoglossus altivelis

著者:Shigeya Nagayama(永山滋也), Ryouji Fujii(藤井亮吏), Morihiro Harada(原田守啓), Kenichi Ohara(大原健一)

DOI: 10.1111/jfb.70533

Article share:

https://onlinelibrary.wiley.com/share/author/UFMA4AX7KXCGVQFHNYCQ?target=10.1111/jfb.70533

 

本研究は、(独)環境再生保全機構の環境研究総合推進費(JPMEERF20202004,JPMEERF20232M01研究代表者:原田守啓)、JSPS科学研究費補助金(JP24K03128研究代表者:永山滋也)の支援を受けて行ったものであり、岐阜県・岐阜大学が共同設置運営する岐阜県気候変動適応センターにおける共同研究事業の一環として実施したものです。

 

 

用語解説

※1 耳石

魚の頭の中、内耳にあり、主成分が炭酸カルシウムからなる硬い小構造物で、魚のバランス感覚や聴覚に関与している。成長とともに大きくなり、年輪のような層(成長輪)を形成する。そのため、魚の日齢や年齢の推定に用いられる。また、成長時に耳石に取り込まれる微量元素は、その時の周囲の水環境を反映するため、魚の回遊履歴の推定にも用いられる。

 

 

 

 

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  • 名称 国立大学法人東海国立大学機構岐阜大学
  • 所在地 岐阜県
  • 業種 大学
  • URL https://www.gifu-u.ac.jp/

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