世界最小クラスのアミノ糖誘導体から還元反応によって溶けるゼリー状物質を開発

-水中で自発的に集合してナノファイバーネットワーク構造に組み上がるアミノ糖誘導体-

岐阜大学

令和3年7月27日

国立大学法人東海国立大学機構 岐阜大学

世界最小クラスのアミノ糖誘導体から

還元反応によって溶けるゼリー状物質を開発

-水中で自発的に集合してナノファイバーネットワーク構造に組み上がるアミノ糖誘導体-

 

【研究成果の概要】

 岐阜大学工学部化学・生命工学科の池田 将 教授(兼任:糖鎖生命コア研究所(iGCORE) 糖鎖分子科学研究センター(iGMOL)、連合創薬医療情報研究科、生命の鎖統合研究センター(G-CHAIN)、Guコンポジットセンター、名古屋大学 未来社会創造機構 ナノライフシステム研究所(NLS))と、岐阜大学大学院連合創薬医療情報研究科 特別協力研究員 東 小百合博士 (現在:Postdoctoral Researcher, University of Münster, Germany) は、アミノ糖(注1)に化学反応性の人工分子を導入した新たなアミノ糖誘導体をワンステップで合成した。このアミノ糖誘導体の性質を調べたところ、超分子ヒドロゲル(注2)と呼ばれる水の流動性が低下したゼリー状物質を与えることを発見した。

 このゼリー状物質は、アミノ糖誘導体が水中で自発的に自己集合して、直径数10 nm (10–9 m) のナノファイバー (髪の毛の直径の大凡10,000分の1)に組み上がることによってできていることを解明した。さらに、ゼリー状物質が還元反応(注3)によって溶けることを見出した。この性質は、導入した人工分子の化学反応性に起因するもので、分子レベルで予め合理的にモジュール組み合わせ型に設計された性質でもある。今回合成したアミノ糖誘導体は、還元刺激に応答するゼリー状物質を形成するゲル化剤分子としては、世界最小クラスの洗練された分子である。

 本研究成果は、化学系プレプリントサーバーの一つであるChemRxiv(令和3年3月4日)に公開後、アメリカ化学会(ACS)刊行の新たなオープンアクセス(OA)誌JACS Au(ジャックス・ゴールド)に受理され、日本時間 2021年7月22日(木)にweb公開された。

 

【研究成果のポイント】

○自然界に豊富に存在するアミノ糖(分子モジュール1)に対して、還元反応によって脱離する人工分子(分子モジュール2)を導入したアミノ糖誘導体をワンステップで合成した。

○合成したアミノ糖誘導体が水中で自発的に自己集合して、極細繊維(=ナノファイバー)のネットワーク構造に組み上がり、ゼリー状物質(=超分子ヒドロゲル)を与えることを発見した。さらに、得られたゼリー状物質は還元刺激に応答して溶けることを明らかにした。

○還元刺激に応答して溶けるゼリー状物質を形成するゲル化剤分子としては世界最小クラスであり、分子レベルでモジュール組み合わせ型に設計された洗練された分子といえる。

 

 

【研究成果について】

 アミノ糖の1つであるグルコサミン(GlcNH2)に対して、還元反応によって脱離する人工分子(NPmoc基)を導入した新たなアミノ糖誘導体(GlcN-NPmoc)をワンステップで有機合成した (1) 。

1 GlcN-NPmocの合成スキーム

 GlcN-NPmocの水中での分子集合能を調べたところ、透過型電子顕微鏡観察の結果から直径数10 nm (10–9 m) のナノファイバーのネットワーク構造を形成し、超分子ヒドロゲルを形成することを発見した(2)。また、得られた超分子ヒドロゲルの還元刺激に対する応答性を調べたところ、NPmoc基が還元されると同時に脱離反応し、主に元のグルコサミンに戻ることによって超分子ヒドロゲルが溶けること(水溶液になること)を見出した(2)。

 

2 GlcN-NPmocが形成する超分子ヒドロゲルの写真と還元剤添加後の水溶液状態の写真(下)、GlcN-NPmocが自発的に自己集合して形成したナノファイバーネットワークの透過型電子顕微鏡写真(左上)と分子集合状態のモデル(吹き出し内)

 

【今後の展開】

 水を主成分(重さにして99%以上)とするゼリー状物質は、生体適合性が高いことが期待される。今回開発されたような刺激応答性のゼリー状物質は、薬効を示す物質や分子の内包と放出の制御を可能にする薬剤放出マトリクスなどとしての応用が期待される。

 

【用語解説】

(注1)アミノ糖

 アミノ基を含む糖であり、グルコースやガラクトースの2位の水酸基がアミノ基に置換されたグルコサミンやガラクトサミンなどが自然界に豊富に存在する。例えば、アミノ基がアセチル化されたN-アセチルグルコサミンは、グリコサミノグリカンの主成分となっている。また、アミノ糖のなかには抗細菌活性を有するものもある。

 

(注2)超分子ヒドロゲル

 ヒドロゲルは水を媒体とするため、その生体適合性の高さから、薬物放出マトリクスや細胞培養マトリクスなど、さまざまな医療応用が期待されている。超分子ヒドロゲルの内部においては、低分子化合物が水中で自発的に集合することによってファイバーネットワークを形成しており、そのことが水の流動性が低下した状態の要因となっている。

 

(注3還元反応

 物質が酸素を失う、あるいは水素と結合する反応(もしくは電子を得る反応)のことであり、体内でも低酸素状態などにおいて進行するとされている。

 

【プレプリント情報】

著者:Sayuri L. Higashi, Masato Ikeda

タイトル:Development of an Amino Sugar-Based Supramolecular Hydrogelator with Reduction Responsiveness

雑誌名:ChemRxiv, Preprint

DOI番号:10.26434/chemrxiv.14152316.v1

論文公開URL:https://doi.org/10.26434/chemrxiv.14152316.v1

 

【論文情報】

著者:Sayuri L. Higashi, Masato Ikeda

タイトル:Development of an Amino Sugar-Based Supramolecular Hydrogelator with Reduction Responsiveness

雑誌名:JACS Au, 2021, published online

DOI番号:10.1021/jacsau.1c00270

論文公開URL:https://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/jacsau.1c00270

 

【研究者情報】

教授 池田 将(責任著者)

岐阜大学 工学部 化学・生命工学科 生命化学コース

岐阜大学大学院 連合創薬医療情報研究科(兼任)

岐阜大学 糖鎖生命コア研究所(iGCORE) 糖鎖分子科学研究センター(iGMOL) (兼任)

岐阜大学 生命科学研究拠点 生命の鎖統合研究センター(G-CHAIN)(兼任)

岐阜大学 Guコンポジット研究センター(兼任)

名古屋大学 未来社会創造機構 ナノライフシステム研究所(兼任)

 

東 小百合(筆頭著者)

特別協力研究員, 岐阜大学大学院 連合創薬医療情報研究科

Postdoctoral Researcher, University of Münster (Prof. Seraphine V. Wegner), Germany

 

池田 将 教授(左)と東 小百合 特別協力研究員(右)

 

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  • 所在地 岐阜県
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