酸化反応によって溶けた後、ひとりでにもう一度固まる不思議なゼリー状物質を発見!

岐阜大学

2024年6月21日

岐阜大学

酸化反応によって溶けた後、ひとりでにもう一度固まる

不思議なゼリー状物質を発見!

 

【本研究のポイント】

・水を固めてゼリー状物質を形成するアミノ酸誘導体型分子を見つけました。

・開発したゼリー状物質が、酸化反応によって溶けて水溶液状態になった後、しばらくすると、もう一度ゼリー状態に戻るという珍しい現象を発見しました。

・ゼリー状物質が酸化に応答するメカニズムを分子構造およびナノ構造体の変化から解き明かしました。

 

【研究概要】

 岐阜大学工学部化学・生命工学科の池田 将 教授、岐阜大学大学院連合創薬医療情報研究科 新谷 勇喜 (博士課程2年) さんらの研究グループは、山形大学 大学院有機材料システム研究科の片桐 洋史 教授との共同研究で、アミノ酸誘導体型分子からなる新たな水系のゼリー状物質を作り出しました。さらに、得られたゼリー状物質が、酸化反応によって溶けて水溶液状態になった後、自発的にもう一度ゼリー状態に戻るという珍しい現象を発見しました。このようなゼリー状物質の内部には、抗体などのバイオ医薬品や細胞を包埋できることが知られており、新たな医療用材料としての応用開拓が期待されます。

 本研究成果は、世界最大の出版社のひとつであるWiley-VCH刊行の学術雑誌「Advanced Functional Materials」に、日本時間2024年2月13日にオンライン版 (Open Access) で発表されました。また、本研究成果をCG (Computer Graphics)で表現したイラストが、Back Coverに選ばれ、6月19日に出版されました。なお、CGは本研究内容と岐阜に縁のあるイメージ案を元に、サイエンス・グラフィックス株式会社 辻野 貴志氏 によって制作されました。

 

 

1 研究概要 アミノ酸誘導体 (Fmoc-CBzl) は水溶液中で自己集合してナノファイバーネットワークを形成することでゼリー状物質 (ゲル) を形成します。本研究では、このゼリー状物質が酸化反応によって溶けた後、もう一度ゼリー状態に戻るという珍しい現象を発見しました。

 下のイラストは、学術雑誌「Advanced Functional Materials」のBack Coverに選ばれたCG (Computer Graphics) (Copyright 2024 Wiley-VCH.)

 

【研究背景】

 ゼリー状物質は、食品や化粧品など私達の生活の中で幅広く利用されている馴染みのある物質といえます。ゼリー状物質は、溶媒が固まっている状態に相当する弾性(注1)を示し、液体と固体の中間的な性質を持ちます。液体である水をそのようなゼリー状態にするためには、溶質であるゲル化剤と呼ばれる物質が水の中にネットワーク化した構造体を作る必要があるとされています。水系のゼリー状物質は、ヒドロゲルと呼ばれ、生体適合性材料として医療面での応用が期待され、広く研究されています。

 池田教授らの研究グループは、水中で自己集合(注2)する分子をデザイン・合成し、それらの分子を水中で自己集合させることによって得られるナノファイバーネットワークからなるヒドロゲルの開発に関する研究に注力しています。

 

[参照:過去に本学からもプレスリリースした研究成果]

•2014年5月16日: バイオマーカーを見分けて溶けるゲル状物質を開発 ~診断材料や薬物放出材料として期待~ 

https://www.gifu-u.ac.jp/news/research/2014/05/entry16-6487.html

•2021年7月27日: 世界最小クラスのアミノ糖誘導体から還元反応によって溶けるゼリー状物質を開発 

https://www.gifu-u.ac.jp/news/research/2021/07/entry27-10925.html

•2023年1月21日: ナノスケールの箱庭で、ペプチド分子を集めた草原をつくり、DNA分子を伸長してナノサイズの花を咲かせることに成功 -生体適合性の高い新たなナノ材料として、その応用に期待- 

https://www.gifu-u.ac.jp/news/research/2023/01/entry21-12122.html

 

 今回の研究では、ヒドロゲルを形成するシンプルなゲル化剤として、アミノ酸誘導体型分子を新たに見つけました。さらに、そのゼリー状物質が、酸化反応によって溶けて水溶液状になった後、しばらくするともう一度ゼリー状態に戻るという珍しい現象を発見しました。

 

 

【研究成果】

 天然アミノ酸の1つであるシステインを原料として、化学合成することで得られるアミノ酸誘導体型分子 (以下、Fmoc-CBzlと呼ぶ 2A) が水中で自己集合し、ナノファイバーネットワークからなるヒドロゲルを形成することを見つけました。さらに得られたヒドロゲルの性質を調べたところ、過酸化水素 (H2O2) の添加に伴う酸化反応によって溶けて水溶液状態になることを見出しました。ここまでの実験結果は、予想の範囲内でしたが、しばらく様子を観察し続けると、再びヒドロゲル状態に戻るという予想外の不思議な現象を偶然、発見しました (2B) 。

 

2 ヒドロゲルの性質 (A) Fmoc-CBzlの化学構造、ガラス瓶内に調製したFmoc-CBzlヒドロゲルの写真 (ゼリー状であるため、ガラス瓶を横に倒しても流れていない)、Fmoc-CBzlが水溶液中で自己集合することで形成するナノファイバーネットワークの顕微鏡画像 (B) 過酸化水素 (H2O2) の添加に伴う酸化反応による応答挙動 (ゲル → ゾル → ゲル 相転移挙動)

 

 そこで、この現象を様々な分析手法で詳しく調べたところ、Fmoc-CBzlのスルフィド部位が、酸化反応によってスルホキシド部位に変換されていること、および生成したスルホキシド部位のキラリティに由来する2種類の異性体 (Fmoc-CBzl-(R)-O, Fmoc-CBzl-(S)-O, 図3A) の間で自己集合能が異なることを見出しました。この種の異性体 (ジアステレオマー(注3)) が異なる自己集合能を示すことは理論的に説明できますが、スルホキシド部位の立体異性 (硫黄原子 (S) に酸素原子 (O) が結合している向きが異なるだけの違い) に起因する現象として実験的に示された例はそれほど多くありません。より具体的には、Fmoc-CBzl-(R)-Oは、原料であるFmoc-CBzlと同様にナノファイバーネットワークを形成しますが、もう片方の異性体であるFmoc-CBzl-(S)-Oは、ナノファイバーではなく、ネットワーク化しないナノ粒子を形成することを、それぞれを分離精製して、明らかにしました (図3A)。さらに、ナノファイバーを形成するFmoc-CBzl-(R)-OおよびFmoc-CBzlの自己集合様式は、X線結晶構造解析によって原子レベルで解明しました。

 

 ナノスケールの構造体の変化を調べるために顕微鏡を用いて、Fmoc-CBzlヒドロゲルの酸化反応による応答挙動を観察した結果、ヒドロゲル状態で存在していたナノファイバーネットワークが酸化反応の進行と伴に消失し、ナノ粒子に変化した後、しばらくすると再びナノファイバーネットワークが自発的に出現することを突き止めました。このようなナノ構造体の構造変化 (ナノファイバーネットワーク → ナノ粒子 → ナノファイバーネットワーク) は、巨視的な状態変化 (ヒドロゲル → 水溶液 (ゾルとも呼ばれる) → ヒドロゲル) とよく相関することを解明しました (図3B) 。つまり、巨視的な状態変化は、酸化反応によってナノファイバーネットワークを形成していたFmoc-CBzlが少なくなり、その代わり増えてくる、Fmoc-CBzl-(S)-Oの影響でナノ粒子に変化するものの、時間が経過すると、今度はFmoc-CBzl-(R)-Oの影響で再びナノファイバーネットワークに変化したと解釈できます。

 

3 顕微鏡観察による酸化反応応答メカニズムの解明 (A) Fmoc-CBzlの酸化反応によって得られるスルホキシド型分子である2種類の異性体 (Fmoc-CBzl-(R)-O, Fmoc-CBzl-(S)-O) が示す自己集合挙動 (B) Fmoc-CBzlヒドロゲルが示す、過酸化水素 (H2O2) 添加後の応答挙動 (ゲル → ゾル → ゲル 相転移挙動) (2B)を蛍光および原子間力顕微鏡で経時的に観察した結果得られた画像

 

【今後の展開】

 本研究で開発したようなヒドロゲルの内部には、細胞やバイオ医薬品を包埋できることが知られており、新たな医療用材料としての応用開拓が期待されます。

 

【謝辞】

 本研究の一部は、日本学術振興会 科学研究費補助金 (基盤研究(B) No. 23H01815)、東海国立大学機構 融合フロンティア次世代リサーチャー事業•メイク・ニュー・スタンダード次世代研究事業 (国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)「次世代研究者挑戦的研究プログラム」) の支援を受けて行われました。論文のオープンアクセス化に関して本学図書館の支援を受けました。

 

【用語解説】

注1 弾性

外から力 (応力) を加えると変形 (ひずみ) が生じるが、力を解除すると元の形に戻ろうとする性質。

 

注2 自己集合

溶液中で分子が自発的に集合すること。秩序高く集まることでナノスケールにおける多彩な形状の構造体を形成することにつながる。多くの場合、その形成過程は可逆的。

 

注3 ジアステレオマー

同じ分子式からなり複数のキラル中心を有する分子に存在しうる立体異性体のひとつ。鏡像関係にあり物理的性質は同じになるエナンチオマー同士 (旋光性は異なる) とは異なり、ジアステレオマー同士は様々な物理的性質が異なる。

 

【論文情報】

雑誌名:Advanced Functional Materials, 2024, 34, 202312999.

論文タイトル:Oxidation-Responsive Supramolecular Hydrogel Based on a Simple Fmoc-Cysteine Derivative Capable of Showing Autonomous Gel–sol–gel Transitions

著者:Yuki Shintani, Hiroshi Katagiri*, Masato Ikeda*

DOI: 10.1002/adfm.202312999

 

(プレプリント)

雑誌名:ChemRxiv, 2023 (Oct 05, 2023, Version 1).

論文タイトル:Oxidation-Responsive Supramolecular Hydrogel Based on a Simple Fmoc-Cysteine Derivative Capable of Showing Autonomous Gel–sol–gel Transitions

著者:Yuki Shintani, Hiroshi Katagiri*, Masato Ikeda*

DOI: 10.26434/chemrxiv-2023-s538q

 

【研究者プロフィール】

池田 将(責任著者)

岐阜大学 工学部 化学・生命工学科 生命化学コース 教授

岐阜大学大学院 自然科学技術研究科 (兼任)

岐阜大学大学院 連合創薬医療情報研究科 (兼任)

岐阜大学 Guコンポジット研究センター (兼任)

岐阜大学 糖鎖生命コア研究所 (iGCORE) 糖鎖分子科学研究センター (iGMOL) (兼任)

岐阜大学 One Medicineトランスレーショナルリサーチセンター (COMIT) (兼任)

岐阜大学 医学部附属量子医学イノベーションリサーチセンター (兼任)

名古屋大学 未来社会創造機構 ナノライフシステム研究所 (兼任)

 

新谷 勇喜(筆頭著者)

岐阜大学大学院 連合創薬医療情報研究科 博士課程2年 (秋季入学)

東海国立大学機構 融合フロンティア次世代リサーチャー•RESEARDENT

 

片桐 洋史(責任著者)

山形大学 大学院 有機材料システム研究科 教授

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