EY調査、消費者の充電インフラ不足への懸念が世界全体でのEV需要を減速 EY Global Mobility Consumer Index
●電気自動車(EV)の購入意向を示す消費者の割合は対前年比で3ポイントの微増(58%)にとどまっており、その理由として充電インフラ不足を挙げる人が多い。
●自動車全体の購入意向者は米国で10ポイント減った一方、英国で11ポイント増えており、英国は欧州諸国の中でも購入意向者の割合が最も大きい。
●欧州と中南米では中国ブランドに関心を持つ人の59%が中国ブランドを検討する理由にコストパフォーマンスを挙げているが、25%強が中国ブランドについてよく知らないと回答。
EYは、電気自動車(EV)などモビリティの購買動向に関する最新の調査「EY Global Mobility Consumer Index(MCI)」を発表しました。5回目となる本調査によると、世界全体で電気自動車需要が減速しています。EV購入検討者は、充電インフラ不足を最大の懸念点としています。
日本や米国、英国を含む世界の28カ国、19,000人が回答した本調査の結果によると、EV購入予定者は世界全体で昨年の55%から58%に増えた一方、需要は、2020年から2023年の4年間で30%から55%に大幅に増加した後、横ばいになったことが分かりました。
その背景には、回答者の27%が最大の懸念点として充電インフラ不足を挙げ、25%がEVの航続距離が心配だと回答し、18%がEVは充電に時間がかかりすぎると述べているなど、購入に踏み切れない懸念があることがわかります。本調査では、バッテリー交換費用の高さを不安にあげる購入検討者が26%いるということが、初めて明らかになりました。
消費者のEV購入動機では、2024年の燃料費価格の高騰を理由に挙げた人が37%と、最大となりました。一方、環境への配慮はここ最近、優先順位を下げており、環境への配慮を動機要因に挙げた回答者は、2021年の49%から、2024年には34%に減少しました。
自動車全体で見ると、購入意向は世界全体で44%から51%に上昇しています。ただ米国では、自動車の購入意向者が昨年の60%から50%に減り、EV購入意向者は、48%から34%に大幅に減少しました。米国ではこのようにEV購入意向が全体的に低下する反面、ハイブリッド車は緩やかに上昇しています。
一方、欧州市場では今後2年間に自動車を購入する意向の人が増えています。なかでも英国では購入意向者が2023年の45%から今年は56%と急増し、他の欧州諸国を上回りました。ノルウェーでも今後2年間に自動車を購入する意向の人はこの1年間で34%から50%に増えました。ただ、英国で長期的な自動車購入意向者が大幅に増えたとはいえ、それがEVの購入意向にはつながっておらず、EV購入意向者は今年、2023年の54%から59%に増えたにすぎません。
EYグローバル自動車セクターリーダーのUlrika Eklöfのコメント:
「本調査の結果は、自動車、エネルギー、ガバメント・パブリックの各セクターへの警鐘ととらえるべきです。電気自動車は未来のモビリティ像ですが、今回の調査結果から、インフラや航続距離、バッテリーの交換費用をめぐる問題で、まだ対応が必要であることが分かりました。インフラと航続距離の問題をはじめ、かなりの数の消費者がEVに懐疑的な姿勢を崩していません。そして、これらの問題は依然から懸念されてきたことです。こうした懸念に対処すべく、エコシステム全体でたゆまぬ取り組みを続ける必要があります。そうしなければ、今まで以上の期待感を消費者に抱いてもらう必要のある時期に、EV離れを招く恐れがあります」
■消費者は中国のEVブランドにシフトしつつあるのか
中国ブランドはここ最近、国外を中心に大躍進を遂げています。欧州ではEV販売台数に占める中国車の割合が2019年の0.4%から2023年には8%に拡大しました。
ブランド選好の面から見ると、好きなEVブランドトップ3に少なくとも1つの中国ブランドを挙げたEV購入意向者の割合は、アジア太平洋地域が30%に上った一方、中南米(ブラジル、メキシコ、コロンビア)が16%、欧州が12%にとどまったことが今回のデータから分かりました。また、中国のEVブランドを検討する最大の理由について、欧州の回答者はコストパフォーマンスが良いと思われること(59%)や安価でありながら魅力があること(51%)を挙げているのに対して、アジア太平洋の回答者はコストパフォーマンスをさほど重視していません。
本調査の結果から、消費者の意識が世代により異なることも明らかになりました。ミレニアル世代の回答者もZ世代の回答者も、中国のEVブランドの購入を検討する主な理由にコストパフォーマンスの良さを挙げた一方、信頼度では意見が割れました。中国ブランドに対する信頼度を、購買に至るまでの過程を構成する要素とみなす人は、Z世代が36%にとどまったのに対して、ミレニアル世代は41%でした。
EYグローバル自動車ソリューションリーダーのMartin Cardellは、次のように述べています。
「中国ブランドはこの12カ月間で、かなり目覚ましい成果を上げることができました。世界全体でベストセラーとなり、欧米市場に強引に割り込み、伝統あるメーカーの販売シェアを奪い始めています。中国ブランドは、消費者に魅力的な価値提案をし、同等のガソリン車やディーゼル車にはない機能を備えるテクノロジーを搭載した、手頃な価格帯のEVを充実した品ぞろえで提供しています。その一方で、アジア太平洋地域以外を中心に、ブランド認知度の低さと、信頼面の問題の拡大が依然として課題です。中国ブランドは今後も、現地でのパートナーシップやキャンペーンの強化に投資を行い、プレゼンス(存在感)のさらなる確立に取り組むとみています」
■コネクテッドカーが持つ機能に対する認知度が上昇
自動車のコネクティビティ技術では、グローバルな自動車メーカーが消費者を獲得すべく、しのぎを削っていますが、さらに取り組みを進めていく必要がまだあります。今回の調査の対象となった消費者は、ナビゲーションに役立ち、安全性・セキュリティを向上させる技術を中心に、コネクテッド技術への関心が高く、60%以上がそうした技術があれば利用すると思うと回答しています。一方、他のサービスについては、この数字が低く、保守点検では37%、性能アップグレードにいたってはわずか21%です。
また、コネクテッドカーに関しては全体的に、点検費用に対する懸念がみられ、高すぎると回答した人の割合が世界全体で49%でした。EVを所有する回答者で、これを主な懸念点に挙げた人の割合を地域別で見ると、米国が47%、欧州が45%であったのに対して、中国では39%にとどまっています。EV購入者も同様の傾向を示し、点検費用が高いと回答した人の割合は米国が50%に上る一方、中国が40%です。
データの提供という点については、世界全体で36%がデータを提供することに懸念があると回答しています。興味深いのは、世代間で違いがほとんどないことです。この割合は、Z世代が33%、ベビーブーム世代が34%で、最も懸念しているX世代とミレニアル世代がともに37%でした。
Cardellは、次のように指摘しています。
「コネクテッドカーを推進する理由を消費者にきちんと示す必要があります。今回のデータから、消費者(回答者)が安全性とセキュリティを中心に、コネクテッドカーが備える実用的なコネクティビティ機能を徐々に重視するようになってきており、特定の追加サービスを必須ではないとみていることが分かりました。一方、データ収益化を図る自動車メーカーの取り組みに相変わらず重くのしかかっているのは、コネクテッド機能が高価だという認識と、データセキュリティ面の懸念です。また、プライバシーへの懸念がかなりの割合の回答者に影響を及ぼしていますが、今回の調査の結果から、インセンティブ施策を講じることで、消費者にデータの提供を促すことができる可能性があることが明らかになりました。世界全体の消費者(回答者)の56%が、車両データや個人情報の提供を促すには、金銭的なものであれ、それ以外であれ、インセンティブ施策が必要だと考えています。これは、この分野の完全収益化を目指すメーカーにとって避けて通れない問題となるはずです」
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 アソシエートパートナー 小池 雄一のコメント:電気自動車(EV)の購入意向を示す消費者の傾向については、国内もグローバルと大きな差はありません。しかしながら、その背景については、人口減少プロセスへの突入に向けた新規インフラの抑制や、高齢化・Z世代の台頭に伴う生活や価値観の変化などの国内特有の課題が存在しており、国内の傾向はグローバルに対してより顕著となると考えらます。2023年に経済産業省が発表した「充電インフラ整備促進に関する検討会」*¹の資料によれば、国内の充電インフラは2023年時点で約3万基(普通、急速含む)、今後2030年までに15万基の設置を目指すとしています。これは国内におけるEVの市場規模を現状の5倍程度にとどめるということを暗に示しています。また、前述の発表資料では、「電動車の普及台数の目標」とされており、EVに特化して言及されているわけではありません。これらから政策観点では、グローバルの潮流に対して一定の距離感をもって、国内環境を加味した現実的な目標を掲げていると考えらます。一方、消費者の観点では、IoTの進展をパンデミックが後押しする形で生活環境が大きく変化し、外出の頻度や移動距離が減少する傾向にあります。その影響でそもそも自動車を活用した移動距離が減少しています。加えて、バッテリー残価の影響で中古市場におけるEVの買取価格が消費者の想定を下回ることを市場が理解し始めており、前述した理由も相まって、EVの購入に際しては経済合理性を加味した現実的な判断が求められています。
*1. 経済産業省「充電インフラ設備促進に関する検討会事務局資料」https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/charging_infrastructure/pdf/001_04_00.pdf(2024年11月6日)
EYの製造業・モビリティセクターについて
都市化、消費者の期待の変化、新たなデジタルテクノロジーが、モノの生産と流通から、ヒトの輸送まで、可能性の枠を広げています。モビリティとスマートマニュファクチャリングという新たな分野で既存企業が成功を収めるには、今までにないスピードで自社の変革を図り、革新的なスタートアップ企業のような考え方をし、新たな人材を活用し、顧客と真摯に向き合わなければなりません。EYのチームは、バリューチェーン全体における経験と、主要テクノロジー企業とのアライアンスを通じて、長期的成長に向けて、デジタル化とオプショナリティ(状況に応じた柔軟な選択)を採用しながら、今すぐ効率化を図る方法をクライアントの皆さまに提案しています。自動車・輸送・航空宇宙・防衛・化学・工業製品セクターの企業は、当社が誇る、業界の枠を超えたプレーヤーのネットワークの強みを活用するとともに、当社の多様なアプローチをすぐにでも利用し、将来に向けて体制を整えることができます。
Mobility Consumer Indexについて
EY Mobility Consumer Index(MCI)は、モビリティの未来をめぐる世界の動向について独自のインサイトを提供します。28カ国(日本、オーストラリア、オーストリア、ブラジル、カナダ、中国、コロンビア、チェコ共和国、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、インド、インドネシア、イタリア、マレーシア、メキシコ、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、シンガポール、韓国、スペイン、スウェーデン、タイ、ベトナム、英国、米国)の19,000人の消費者を対象に2024年6月から7月にかけて実施したグローバルな調査の結果を参考に、MCIはモビリティの選択とサステナビリティに対する消費者の意識に関わるインサイトを示しながら、消費者が自動車購入に至るまでの過程を検証することも目指しています。
※本ニュースリリースは、2024年9月9日(現地時間)にEYが発表したニュースリリースを翻訳し、日本の見解を加えたものです。英語の原文と翻訳内容に相違がある場合には原文が優先されます。
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