軟骨無形成症に対する新規治療薬の候補を発見!
「難治性骨系統疾患の根治法の確立」につながる成果
2024年12月19日
岐阜薬科大学
岐阜大学
軟骨無形成症に対する新規治療薬の候補を発見!
-「難治性骨系統疾患の根治法の確立」につながる成果-
岐阜薬科大学薬理学研究室の貞盛耕生大学院生(JST次世代研究者挑戦的研究プログラム研究学生)、久保拓也学部生、岐阜薬科大学薬理学研究室・岐阜大学大学院連合創薬医療情報研究科・岐阜大学高等研究院One Medicineトランスレーショナルリサーチセンター(COMIT)の檜井栄一教授らの研究グループは、北里大学、京都薬品工業株式会社、東京大学との共同研究により、CDK8(※1)阻害剤が軟骨無形成症に対する新規治療薬となる可能性を見い出しました。
軟骨無形成症(Achondroplasia)は、およそ20,000人に1人の割合で発生するといわれている希少性かつ難治性の骨系統疾患です。FGFR3(※2)遺伝子の変異による軟骨細胞の機能異常により、手や足の短縮を伴う低身長や特徴的な顔立ちを呈します。成人身長は125~130 cmであり、日常生活で多くの制約を受けるとともに、様々な合併症がでてきます。軟骨無形成症の治療薬としてボソリチドが承認されていますが、新生児や乳幼児を中心とする患者への安全かつ負担の少ない治療法の確立は、喫緊の課題といえます。
研究グループは、CDK8が軟骨無形成症の病態進展に寄与することを発見し、CDK8が軟骨無形成症治療における有望な創薬ターゲットとなることを明らかにしました。本研究成果は、様々な難治性骨系統疾患の『根治』を指向とした新規治療法の確立に貢献することが期待されます。
本研究成果は、国際学術誌『Biochimica et Biophysica Acta - Molecular Basis of Disease』に掲載されました(オンライン版公開日:日本時間 2024年12月13日)。
本研究のポイント
・軟骨無形成症に対する安全かつ体への負担の少ない治療法の開発が望まれています。
・軟骨無形成症の軟骨細胞においてCDK8の発現が増加することを見い出しました。
・研究グループが独自に開発したCDK8阻害剤KY-065を用いることで、軟骨無形成症の軟骨機能が回復し、長管骨が伸長することが確認できました。
・本成果は、軟骨無形成症に対する新たな知見・解決法を提供するとともに、難治性骨系統疾患の予防・治療法の確立に貢献することが期待されます。
研究の背景
軟骨無形成症は、FGFR3遺伝子の変異による軟骨細胞の機能異常により、四肢の短縮を伴う低身長や特徴的な顔立ちを呈します。およそ20,000人に対して1人の発生率といわれている希少性かつ難治性の骨系統疾患です。軟骨無形成症の治療薬としてヒトC型ナトリウム利尿ペプチド(CNP)類縁体のボソリチド(連日皮下投与)が承認されていますが、同薬剤とは異なる作用点をもち、新生児・乳幼児を中心とする患者への負担が少ない治療薬候補の探索とその実用化は喫緊の課題です。
研究グループはこれまでに、リン酸化酵素CDK8が、がん幹細胞(Oncogene 2021)や、間葉系幹細胞(Stem Cell Reports 2022)の機能に重要な役割を果たしていることを明らかにしてきました。
本研究では、「軟骨無形成症の軟骨細胞の機能異常にCDK8が関与しているのか?」を検討するとともに、研究グループが独自に開発した経口投与可能なCDK8阻害剤KY-065を用いて、「CDK8の機能を抑えると、軟骨無形成症の病態が改善できるか?」について検証しました。
【 研究成果の概要】
図1:ACH軟骨細胞にKY-065を作用させると軟骨機能が改善する。
研究グループはまず、軟骨無形成症モデルマウス由来の軟骨細胞(= ACH軟骨細胞)を用いて、遺伝子およびタンパク質発現解析を行いました。その結果、ACH軟骨細胞では、CDK8の発現が遺伝子およびタンパク質レベルで増加していることがわかり、軟骨無形成症の病態進展にCDK8が関与する可能性が示唆されました。
そこで、「軟骨細胞のCDK8がどのように軟骨無形成症の病態進展に寄与するのか?」を明らかにするため細胞実験を行いました。ACH軟骨細胞は、野生型マウス由来の軟骨細胞と比較して、軟骨細胞分化の指標であるアルシアンブルー染色およびアルカリホスファターゼ染色の染色性が低下します。一方、ACH軟骨細胞にCDK8阻害剤KY-065を作用させると、両染色の染色性が著明に増強することが判明しました(図1A-C)。
さらに、KY-065を添加したACH軟骨細胞では、STAT1(※3)のSer727のリン酸化が著しく抑制されることが確認されました。一方、STAT1のTyr701のリン酸化やErk1/2のリン酸化には著明な変化は認められませんでした。すなわちKY-065は、CDK8の働きを抑え、STAT1シグナル経路を部分的に遮断することで、軟骨細胞の機能を回復させていることが示唆されました。
最後に、細胞実験で得られた結果が、動物実験でも再現できるかを検証しました。軟骨無形成症モデルマウスは、著明な長管骨の短縮を示しますが、同マウスにKY-065を投与すると、長管骨の伸長が確認できました。さらにその長管骨を詳細に解析したところ、成長板軟骨層の形態が回復し、肥大化軟骨細胞層の肥大化も観察されました(図2)。
図2: KY-065の投与は、軟骨無形成症モデルマウスの長管骨を伸長させ、軟骨の形態も回復させる。
以上の成果より、CDK8阻害剤KY-065は、STATシグナルを減弱させ、軟骨無形成症の軟骨の機能異常を回復させ、長管骨を伸長させることが明らかになりました。すなわち、軟骨細胞のCDK8は軟骨無形成症の治療標的であり、CDK8阻害剤が同疾患の治療薬候補となる可能性が示されました(図3)。
図3: CDK8阻害剤KY-065は、STAT1Ser727のリン酸化を抑制し、STATシグナルを減弱させることで、軟骨無形成症の軟骨機能の異常と長管骨の短縮を回復させる。
研究成果の意義・今後の展開
CDK8阻害剤KY-065は経口投与可能であり、軟骨無形成症の患者(特に新生児・乳幼児)への負担を軽減することが可能です。また、既存薬ボソリチドとは異なる作用点を持っており、KY-065とボソリチドとの併用により相加相乗効果が期待できます。
本研究は、CDK8阻害剤が軟骨無形成症に対する新規治療薬の候補となる可能性を示した世界初の報告となります。本研究成果は、軟骨無形成症に限らず、軟骨細胞の機能異常や恒常性維持の破綻によって引き起こされる難治性骨系統疾患(タナトフォリック骨異形成症など)に対する革新的治療法を提供し、アンメット・メディカル・ニーズ(※4)の解消にも貢献することが期待されます。
用語解説
※1 Cyclin-dependent kinase 8(CDK8)
CDKと呼ばれるリン酸化酵素の遺伝子グループの一つ。CDK遺伝子の8番目。近年、がん幹細胞や間葉系幹細胞の幹細胞性を制御することが報告されている。
※2 Fibroblast growth factor receptor 3(FGFR3)
細胞の表面に存在するタンパク質。軟骨無形成症の95%以上の患者にG380R変異(380番目のグリシンがアルギニンに変異)が認められ、過剰なFGFR3シグナルが入力する。
※3 Signal transducer and activator of transcription 1(STAT1)
STATと呼ばれる転写因子の遺伝子グループの一つ。STAT遺伝子の1番目。増殖や分化、生存などの様々な細胞機能を制御することが報告されている。
※4 アンメット・メディカル・ニーズ
未だ有効な治療方法が確立されていない疾患に対する医療ニーズ。
掲載論文
雑誌名:Biochimica et Biophysica Acta - Molecular Basis of Disease
論文名:CDK8 inhibitor KY-065 rescues skeletal abnormalities in achondroplasia model mice
(CDK8阻害剤KY-065は軟骨無形成症モデルマウスの骨格異常を改善する)
著者名:Koki Sadamori, Takuya Kubo, Tomoki Yoshida, Megumi Yamamoto, Yui Shibata, Kazuya Fukasawa, Kazuya Tokumura, Tetsuhiro Horie, Takuya Kadota, Ryotaro Yamakawa, Hironori Hojo, Nobutada Tanaka, Tatsuya Kitao, Hiroaki Shirahase, and Eiichi Hinoi.
(貞盛耕生, 久保拓也(同等筆頭著者), 吉田智喜, 山本めぐみ, 柴田結衣, 深澤和也, 徳村和也, 堀江哲寛, 門田卓也, 山川遼太郎, 北條 宏徳, 田中信忠, 北尾達哉, 白波瀬弘明, 檜井栄一)
本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業 基盤研究B(一般・特設)(研究代表者:檜井栄一)、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)難治性疾患実用化研究事業(研究代表者:檜井栄一)などの支援を受けて行ったものです。 |
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このプレスリリースを配信した企業・団体
- 名称 国立大学法人東海国立大学機構岐阜大学
- 所在地 岐阜県
- 業種 大学
- URL https://www.gifu-u.ac.jp/
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