長野県下伊那地域における赤石山地の新たな地質図が刊行

5万分の1地質図幅「大河原」

産総研

ポイント

・ 赤石山地における中央構造線の活動に関した詳細な地質情報を公開

・ 標高差2000 mを超える急峻な山岳地域に分布する沈み込み帯深部由来の基盤地質構造が明らかに

・ 赤石山地の地質災害軽減とインフラ整備へ地質情報の利活用が期待

 

 

国立研究開発法人 産業技術総合研究所(以下「産総研」という)は、長野県下伊那地域の地質調査の結果をまとめた5万分の1地質図幅「大河原」(以下「本図幅」という)を刊行しました。本図幅地域(図A)は、比較的道路が整備されていた5万分の1地質図幅「高遠」・「市野瀬」地域と異なり、詳細な地質図は整備されていませんでした。赤石山地は、伊豆―小笠原弧の衝突によって日本で最も早い速度で隆起するために急峻な斜面が多く、昨今の豪雨によって、土砂崩落に起因する国道152号線の寸断が多発しています(図B)。特に本図幅地域では、1961年に破砕した鹿塩マイロナイトが大規模に崩落する地すべり災害(三六災害の一つ)によって、42名が犠牲となりました。このような地域生活を脅かす災害が「いつ」起きるかを予測することは困難ですが、災害リスクの高い地域が「どこ」なのかは、詳細な地質情報を整備することで明らかにできます。そこで産総研では、2017~2022年にかけて地表踏査と室内作業を実施し、標高差2000 mを超える山岳地域の詳細な地質図を新たに作成しました。本図幅では、中央構造線の断層活動によって破砕された岩石が分布する鹿塩せん断帯や、地すべり災害が発生しやすい超苦鉄質岩類を含む三波川変成コンプレックスの分布に関して、地質図と説明書で詳細に解説しています(図B)。本図幅地域では、すでにリニア中央新幹線の南アルプストンネルに関連した大規模開発が開始されていることもあり、本図幅が今後のインフラ開発やダム・トンネル・道路等の維持管理における基礎資料として社会に役立つことが期待されます。

 

下線部は【用語解説】参照

 

メンバー

中村 佳博(産総研 地質情報研究部⾨ 地殻岩石研究グループ 主任研究員)

山崎  徹(産総研 地質情報研究部⾨ 地殻岩石研究グループ 上級主任研究員)

宮崎 一博(産総研 地質調査総合センター連携推進室 国際連携グループ 招聘研究員)

高橋  浩(元産総研 地質情報研究部⾨)

 

入手先

本図幅は、3月14日より産総研地質調査総合センターのウェブサイトからダウンロードできます(https://www.gsj.jp/Map/JP/geology4.html)。また、産総研が提携する委託販売先からも購入できます(https://www.gsj.jp/Map/JP/purchase-guid.html)。

 

用語解説

地質図・地質図幅

地質図は植生や土壌をはぎ取った下の地層・岩石の様子を表した地図のことで、「地」球の性「質」を表した地「図」です。地質図は、土木・建築、防災・減災、観光、資源探査など幅広い分野で利活用されています。

地質図を緯度経度で囲まれた四角の区画で示したものを地質図幅といいます。産総研地質調査総合センターでは、全国各地域の地質を調査・研究し、主に5万分の1と20万分の1地質図幅を整備・刊行しています。5万分の1地質図幅は、地質図幅の中で最も高精度の地質図で、詳細な地質情報が記載されているものです。日本全国で1274区画あり、整備を進めています。20万分の1地質図幅は、日本全国で124区画あり、全国整備が完了していますが、古くに刊行された図幅の改訂を行っています。刊行された地質図幅は、地質調査総合センターのウェブサイト(https://www.gsj.jp/Map/JP/geology4.html)から見ることができるとともに、印刷物が一般向けに販売されています。

 

鹿塩(かしお)マイロナイトおよび鹿塩せん断帯

マイロナイトとは、地下深部で岩石が延性的に変形した断層岩の総称です。本図幅地域では、大鹿村鹿塩地区でマイロナイトが広範囲に観察できることから「鹿塩片麻岩」または「鹿塩マイロナイト」と呼ばれています。鹿塩マイロナイトは、赤石山地から紀伊半島まで連続的に分布が確認されており、中央構造線と呼ばれる地質断層から幅数キロメートルにわたりマイロナイトが帯状に分布します。この帯状の分布地域を、特に「鹿塩せん断帯」と呼びます。鹿塩マイロナイト自体は緻密な岩石ですが、脆性的な変形を被ることで、脆く壊れやすい岩石として軟弱な地盤を形成しています。

 

三六災害

三六災害とは、昭和36年6月下旬伊那谷を中心に発生した梅雨前線集中豪雨災害の通称です。この集中豪雨では、中央構造線沿いの大西山東崖の破砕した鹿塩マイロナイトが崩壊し、大鹿村下市場・文満地区がほぼ全戸浸水し、崩落土砂の流出によって42名が犠牲となりました。他にも本図幅地域内の四徳地区や北川地区では、土石流と地すべりが谷を埋め尽くし、全戸避難を余儀なくされました。

 

中央構造線

中央構造線とは、日本の基盤地質構造を二分する最も長大な地質断層の一つです。西は九州佐賀関半島から四国、紀伊半島を経て赤石山地北部まで衛星写真で追跡できるほど明瞭な断層谷を形成しており、一部は活断層として現在も活動しています。特に赤石山地の中央構造線には、約6900万年前の最初期から現在までの複雑な断層運動の歴史を有しており、日本列島の成り立ちと基盤地質の構造発達史を議論する上で最も重要な断層の一つとして広く認識されています。

 

超苦鉄質岩類

本図幅における超苦鉄質岩類とは、かんらん岩と風化した蛇紋岩の総称です。かんらん岩は、かんらん石、斜方輝石、単斜輝石や斜長石という造岩鉱物から構成されていますが、風化の影響で滑石や蛇紋石へ変化しています。滑石や蛇紋石は、地下で水と接して存在することで、周囲の岩石より容易に滑りやすく、山間地で発生する地すべりの原因の一つとなっています。超苦鉄質岩類の分布は、基盤岩の地質構造に大きく左右されています。そのため詳細な地質図を整備することで、地すべりの起きやすい岩相分布を把握することが可能です。

 

三波川(さんばがわ)変成コンプレックス

三波川変成コンプレックスとは、群馬県藤岡市三波川地域に見られる片状の変成岩を由来とする岩石の総称です。白亜紀に海洋プレートとその上の堆積物が地下深部へ沈み込み、高い圧力と温度によって変成した岩石から構成されています。その後の地殻変動によって三波川変成コンプレックスは、中央構造線に沿って九州から関東山地まで同様の性質を持つ変成岩が広範囲に露出しています。

 

 

プレスリリースURL

https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2025/pr20250314_2/pr20250314_2.html

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  • エリア
    東京都
  • キーワード
    研究開発、地質図、下伊那、地質図幅、長野県、赤石山地、中央構造線
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