標準的な製法×新組成設計で、より硬くて変形しにくいガラスに
もっと薄く、もっと強いガラスの実現に向けて
ポイント
・ ガラスの標準的な製法である溶融法を用いて、変形しにくく硬いガラスを従来よりも低温で実現
・ 硬いガラスの実現と希少金属含有量の低減を両立
・ 従来よりも硬いガラス繊維や、より薄くて硬い板ガラスへの展開に期待

概 要
国立研究開発法人産業技術総合研究所(以下「産総研」という)材料基盤研究部門 光機能材料創発研究グループ 正井 博和 研究グループ長は、標準的なガラス製造法を用いながらもヤング率130 GPaを超える透明な酸化物ガラスの組成を見いだしました。
ガラスは、スマートフォンやモニターのディスプレイ、電子回路基板、構造材用のガラス繊維など、現代社会を支える基盤材料のひとつです。用途に応じて自在に成形・加工できることが大きな特徴で、求められる性能も用途ごとに異なります。例えば、カバーガラスには薄さや透明性が求められ、ガラス繊維には樹脂や建材に強度を付える役割が求められます。さらに近年では、「より薄く、より強く」──その両立が可能な新しいガラスが求められています。
本研究では、ガラス製造で標準的な溶融法を用いながらも、一般的なガラスの主成分として用いられる二酸化ケイ素(SiO2)をほとんど含まない組成を設計することで、既往の報告よりも高いヤング率(137 GPa)を達成する硬いガラスを作製しました。この手法は、大型ガラスやガラス繊維の作製にも適用可能です。なお、この技術の詳細は、2026年5月1日に「Journal of the Ceramic Society of Japan」に掲載されました。
下線部は【用語解説】参照
※本プレスリリースでは、化学式や単位記号の上付き・下付き文字を、通常の文字と同じ大きさで表記しております。
正式な表記でご覧になりたい方は、産総研WEBページ
( https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2026/pr20260527/pr20260527.html )をご覧ください。
研究の社会的背景
現在、私たちの暮らしの中には、ガラスを用いた製品が数多く存在しています。特に近年では、スマートフォンやPCモニターで使われるディスプレイ用のガラスなどの新たな用途の拡大により、ガラスに求められる性能は年々高度化しています。例えば、スマートフォン向けのガラスには、「より薄く」「より強く」といった特性が一層強く求められています。また、樹脂や建材などに強度を与える材料として活用されるガラス繊維にも、同様に優れた機械的特性が不可欠です。
市販されている強化ガラス、例えば化学強化ガラスや物理強化ガラスは、ガラスの表面に圧縮応力をかけることで表面に生成した傷が広がりにくくなるよう、強度が高められています。しかし、こうした高強度化は、ガラス製造と別に強化処理が必要であるため、材料自体が高強度を有するガラスの実現が長年求められています。
これまで、材料自体が硬く傷の付きにくいガラスの製造には、ガラス化しにくい原料を高温で溶かすためのレーザーの照射、あるいは高価な希少金属を一定量以上使用した組成とする必要がありました。そのため、より低温かつ低コストで作製できるガラス製法が求められていました。
研究の経緯
産総研では、ガラスを中心とした非晶質材料について、既存のガラスにはない付加価値を有する新規ガラス材料の開発を目指して研究を進めてきました。ガラスの製造は、珪砂やソーダ灰、石灰などの原料を炉で約1500〜1600 ℃の高温に加熱して溶かす溶融法が主流です。今回、産業界で幅広く用いられているこの溶融法を用いつつも、ガラスの組成を詳細に検討することにより、高いヤング率を有するガラスを作製しました。
なお、本研究開発は、独立行政法人日本学術振興会 学術変革領域研究(A) 「超秩序構造が創造する物性科学(20H05882、2020~2024年度)」、科学研究費助成事業 基盤研究(B)(22H01785、2022~2024年度)による支援を受けています。
研究の内容
図1には、これまでに報告されている各種ガラスについて、ガラスの溶融温度とヤング率との関係を示します。高いヤング率を示すガラスを得るためには、酸化アルミニウム(Al2O3)や酸化チタン(TiO2)のような結合解離エネルギーの高い原料を用いる必要がありますが、これらの融点が高いために溶融法で作製することは困難です。このため、局所的に非常に高い温度を発生させることが可能な、レーザーの照射による加熱溶融が必要です。しかし、加熱領域が限定されることから、得られる試料は数ミリメートル程度に限られています。溶融法で作製するために、結合解離エネルギーの高い原料と、一般的なガラス材料として最も広く用いられているSiO2とを組み合わせた、SiO2系高弾性ガラスの報告もなされています。しかし依然として、1600 ℃以上の溶融温度が必要でした。
今回、より低温での作製を達成するため、SiO2よりもはるかに低温で融解する三酸化二ホウ素(B2O3)を選択しました。さらに、より低コストでの作製を達成するため、結合解離エネルギーの高い原料の種類と割合を検討しました。その結果、約1400~1600 ℃の溶融温度で130 GPa以上のヤング率を有するガラスを作製できました。得られたヤング率は、光学カメラレンズなどで一般的に用いられているBK7に代表されるようなB2O3–SiO2系ガラスよりも約2倍高い値になります(図1)。さらに、希少金属酸化物の含有量を低くでき、これまでより低コストで作製が可能になりました。

今回得られた透明な高弾性ガラスは、図2の試作品で示すように大面積化が可能です。高いヤング率と比較的低温で成型できる温度特性を兼ね備えており、超薄板ガラスからガラス繊維、複雑形状のガラスまで幅広く作製することができます。

今後の予定
本研究ではガラス組成の検討により、硬く傷の付きにくいガラスの開発に成功しました。一方で、表面の傷つきに対する強さとは別に、強い衝撃などで割れやすいというガラス特有の脆い性質については依然として改善の余地があります。今回実現した硬さに加えて、脆さの改善を両立できれば、ガラスの弱点を克服する、「割れないガラス」の誕生が期待できます。
ガラスは、身の回りから最先端の部材まで、社会を広く支える基盤材料です。今回開発したガラスは、BK7に代表される一般的な光学ガラスに比べて原料コストが高いため、幅広い普及に向けて、より安価な材料を用いた組成の開発を引き続き進めていきます。
論文情報
掲載誌:Journal of the Ceramic Society of Japan
論文タイトル:High-modulus Oxide Glasses Fabricated by the Melt-quenching Method
著者:Hirokazu Masai
DOI:https://doi.org/10.2109/jcersj2.26015
用語解説
ヤング率
材料の変形しにくさを示す特性。単位はPa(パスカル)。標準的なガラスは80 GPa程度であり、100 GPaを超えるガラスは、一般に硬いガラスに分類される。
溶融法
ガラスの一般的な作製法。主として混合した粉末材料を高温の電気炉中で溶かし、その後、液体状態から急冷することでガラスを得る方法。
強化ガラス
ガラス表面に圧縮応力(縮もうとする力がかかっている)層、内部に引張応力(広がろうとする力がかかっている)層を導入することによって、表面に生成した傷が広がりにくくなり、割れにくい特徴を有する。
化学強化ガラス
ガラスの構成成分の1つであるナトリウムイオンを、表面近傍で、よりイオン半径の大きなカリウムイオンに置換することによって、表面に約数十マイクロメートルの圧縮層を形成させ、割れにくくしたガラス。一旦作製したガラスを、カリウムが含まれる溶液に一定時間漬けることによって圧縮層を形成する。
物理強化ガラス
数ミリメートル以上の厚さを有する板状のガラスをガラス転移温度以上から急冷することによって、表面付近に圧縮応力を付与したガラス。
溶融温度
主に粉末原料を高温で加熱することによって、均一な液体状のガラスを得るための温度。一般的な板ガラスでは、粘度をηとした際にlogη=2になる温度。
結合解離エネルギー
化合物中の原子同士を結び付けている化学結合を切断するのに必要なエネルギー。この値が高いほど、結合は切れにくく安定している。
SiO2ガラス
シリカガラスとも呼ばれるSiO2のみを成分としたガラス。極めて高い安定性と高い透明性を有し、光ファイバーや半導体分野等で必須の材料となっている。
BK7
光学用途で幅広く用いられる一般的なホウケイ酸塩ガラス(B2O3とSiO2を原料として含むガラス)。
プレスリリースURL
https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2026/pr20260527/pr20260527.html
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このプレスリリースを配信した企業・団体
- 名称 国立研究開発法人産業技術総合研究所
- 所在地 茨城県
- 業種 政府・官公庁
- URL https://www.aist.go.jp/
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