非圧縮8K映像を扱う実システムに、4コア標準外径マルチコアファイバ伝送ユニットを世界で初めて実装
2025年3月27日
ポイント
■ 4コア標準外径マルチコアファイバ8本を有するマルチコアファイバケーブルを開発
■ 非圧縮8K映像を扱う実システムにマルチコアファイバ伝送ユニットを導入
■ 既存の各種情報配管や建物内部の僅かなスペースを用いた、超大容量情報伝送が可能に
国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT(エヌアイシーティー)、理事長: 徳田 英幸)未来ICT研究所、アストロデザイン株式会社(アストロデザイン、代表取締役社長: 鈴木 茂昭)及び株式会社フジクラ(フジクラ、取締役社長CEO: 岡田 直樹)は、4コア標準外径マルチコアファイバ8本を有するマルチコアファイバケーブルを開発し、非圧縮8K映像を扱う実システムに、超大容量データ伝送ユニットとして実装することに、世界で初めて成功しました。
非圧縮8K映像システムでは、1映像当たり毎秒70ギガビット程度のデータを伝送する必要があり、1台の非圧縮8Kカメラごとに単芯のシングルモードファイバ1本が使われます。開発したマルチコアファイバケーブルは、直径3 mmのケーブル内に、2種類の標準外径(125 μm)シングルモード4コア標準外径マルチコアファイバを合計8本有しており、非圧縮8K映像システムで従来使われていた、単芯のシングルモードファイバ32本分に相当します。
今回、マルチコアファイバケーブルを用いた伝送ユニットを導入することにより、僅かしか余裕のない情報配管や建物内のスペースを通し、クリーンルーム内に設置された複数の8Kカメラからの大容量映像データを、別の建物に有る8K映像合成装置までの300 mを伝送し、安定したシステム動作を実現することに成功しました。
本成果により、従来は導入が難しかった、情報配管や配線スペースに余裕のない建物内や建物間をまたいで、非圧縮8K映像システム等の大容量データ伝送が必要となるシステムを導入することが可能になります。
図1: マルチコアファイバ伝送ユニットを導入した8K映像システム
開発の背景
近年8K映像がテレビ放送や映画などで使われるようになってきています。特にスポーツ観戦用の放送では、スタジアム等に何台ものカメラを並べて映像取得する従来の方式から、少数の8Kカメラで全体を撮影し、その中から必要な部分を、画像処理を介して取り出し用いる方法に変わりつつあります。これは、8K映像の超高解像度性があって初めて可能になった方法です。このように8K映像は超高解像度性を有するため、遠隔医療や、航空機や競技用自動車のシミュレーター等、テレビ放送や映画以外の分野にも適用する試みが成されるようになってきました。
NICTでは、研究DXの一環として、クリーンルームに8K映像システムの導入を進めてきました。8K映像をクリーンルーム内の監視に導入することにより、カメラから遠く離れた場所の詳細な監視、広い領域の一括監視、肉眼を超える高精細映像での監視等が可能になり、問題発生時の正確な場所の迅速な特定や、問題の内容把握が容易に行えるようになります。
特に非圧縮8K映像は、超高解像度の映像を遅延無くリアルタイムで得ることが出来るため、実際に肉眼で見るよりも高精細なデバイス作成プロセスの状態把握や、遠隔共同実験等への応用が期待されます。一方で、非圧縮8K映像は、1映像当たり毎秒70ギガビット程度のデータを伝送する必要があるため、1台の非圧縮8Kカメラごとに単芯のシングルモードファイバ1本が使われてきました。したがって、カメラの台数が多くなると、多くの光ファイバケーブルが必要になります。現代の建物内部や建物間の情報配管には、既に大量のイーサネットケーブルや電力ケーブルが設置されていることがほとんどで、新たに何本もの光ファイバケーブルを追加して設置するだけの充分なスペースを確保できない場合が多く、8K映像システム導入を難しくする原因となっていました。
8K映像システム
今回クリーンルームに導入した8K映像システムは、非圧縮8Kカメラ、圧縮8Kカメラ、マルチコアファイバ伝送ユニット、8K映像合成装置、8K映像制御装置、8Kモニタ等から構成されます(図1参照)。
非圧縮8Kカメラと8K映像合成装置は、マルチコアファイバ伝送ユニットを通して、双方向接続されます。撮影された非圧縮8KのRAWデータ、LAN信号、その他の制御信号は、12波長のCWDM信号(1,270、1,290、1,310、1,330、1,350、1,370、1,470、1,490、1,510、1,530、1,550、1,570 nm)として、アップリンク6波長、ダウンリンク6波長ずつ割り当てられ、双方向合計毎秒69.3ギガビットの光信号として、シングルモードファイバ1コア内を双方向多重伝送されます。この非圧縮8K映像は、8K映像合成装置内で他の8K映像と合成されたのち、8K映像制御装置を介して、8Kモニタに出力されます。
圧縮8Kカメラでは、撮影した映像を圧縮し1台当たり毎秒40メガビットの圧縮8K映像として出力します。今回の8K映像システムでは32台の圧縮8Kカメラが接続されており、3セットのSFP-10GLR-31モジュールと6本のシングルモードファイバの計6コアを使用して、8K映像合成装置と接続されます。8K映像合成装置内では、他の8K映像と合成されたのち、8K映像制御装置を介して、8Kモニタ等に出力されます。
今回クリーンルームに導入した8K映像システムでは、合計32台の圧縮8Kカメラのうち9台は画像合成装置を経由し、8Kモニタ上で複数の映像を同時に視聴することが可能です。残る23台は、VRグラスを用いることで、リアルタイムにクリーンルーム内を歩いているかのような視聴体験を実現します。
これらの映像はすべてリアルタイムで視聴可能であり、複数の超高解像度8K映像データを遅延なく高速伝送及び処理できる環境が必要となります。そのため、狭小スペースでの大容量データ伝送を可能にする伝送ユニットや、遅延無く大容量データを処理可能な処理システムは専用のハードウェアで構築しています。
今回の成果
(1)4コア標準外径マルチコアファイバ8本を有するマルチコアファイバケーブルを開発
マルチコアファイバは、1本の光ファイバ内に従来は1つのみ配置されていた光信号伝送用のコアを複数配置することで、伝送容量の増大やケーブルの高密度化に貢献する先進的な技術です。今回使用されたマルチコアファイバは、従来のシングルモードファイバと同じガラス外径(125 μm)及び被覆外径(250 μm)の中に4つのコアを配置しています。
マルチコアファイバでは、近接したコアから漏れた信号が他のコアに侵入し、干渉して信号品質が劣化するという課題があります。今回開発した4コア標準外径マルチコアファイバは、コア同士の信号干渉を低減するため、コアの配置や光学特性を最適化して設計しました。この4コア標準外径マルチコアファイバは、NICT 高度通信・放送研究開発委託研究課題20301 「マルチコアファイバの実用化加速に向けた開発研究」(2018-2022)で培った設計・製造技術を応用することで実現しています。
図2は、このマルチコアファイバケーブルの概要図です。本ケーブルは、外径3 mmの被覆内に4コア標準外径マルチコアファイバを合計8本実装しており、従来の光ファイバ32本分に相当する情報伝送が可能です。また、試験目的として、信号干渉特性の異なる2種類のマルチコアファイバを実装しています。さらに、マルチコアファイバの両端には光コネクタが成端されており、マルチコアファイバ多重分離器を介して、画像システムや短距離システムへの導入も可能です。
図2: 4コア標準外径マルチコアファイバ8本を有するマルチコアファイバケーブル
(2)非圧縮8K映像を扱う実システムにマルチコアファイバ伝送ユニットを実装
今回、図1に示すように、マルチコアファイバケーブルを用いた伝送ユニットを開発し、8K映像システムに導入することにより、僅かしか余裕のない情報配管や建物内のスペースを通し、クリーンルーム内に設置された複数の8Kカメラからの大容量映像データを、別の建物に有る8K映像制御装置まで300 m伝送し、システム動作させることが可能になりました。
マルチコアファイバケーブルを用いた伝送ユニットは、4コア標準外径マルチコアファイバ8本を有するマルチコアファイバケーブルと、各4コア標準外径マルチコアファイバと通常の単芯光ファイバ4本とを結合する、マルチコアファイバ用多重分離器から構成されます。マルチコアファイバ用多重分離器は協力企業である株式会社オプトクエスト(代表取締役社長: 東 伸)によって開発されました。
多重分離器(図3参照)はごく小さなレンズを用いた微少空間結合光学系を利用してマルチコアファイバの各コアと4本のシングルモードファイバとの接続を非接触にて接続しています。本方式の利点はシングルモードファイバをマルチコアファイバの各コアに合わせて各々最適に調整することが可能であり、結合誤差を極めて小さくできるため低損失であることと、多様なマルチコアファイバのコア数やコアピッチでも対応できる構成であることです。さらに、光路中に光学部品接合用の接着剤等を使用しないことから信頼性が高く、耐パワー特性にも優れているという利点があります。そして、各部品の固定には高い信頼性が求められる光通信部品で実績のあるYAGレーザ溶接固定を用いています。
また、マルチコアファイバケーブルとマルチコアファイバ用多重分離器はマルチコアファイバ用接続コネクタを用いることでマルチコアファイバ同士の接続性を容易にしています。
本マルチコアファイバ用多重分離器及びマルチコアファイバ同士の接続技術はNICT高度通信・放送研究開発委託研究課題150 イ02 「革新的光通信インフラの研究開発 課題:マルチコアファイバ接続技術」(2011-2015)にて研究された成果が用いられています。
図3: マルチコアファイバ用多重分離器
(3)既存情報配管や建物内部の僅かなスペースを用いてマルチコアファイバケーブルを敷設し、超大容量情報伝送を伴う8K映像実システムを安定動作
超高画質の8Kカメラの台数が多くなると、多くの光ファイバケーブルが、カメラと画像合成装置間等で必要になります。現代の建物内部や建物間の情報配管には、既に大量のイーサネットケーブルや電力ケーブルが設置されていることがほとんどで、新たに何本もの光ファイバケーブルを追加して設置するだけの充分なスペースを確保できない場合が多く、8K映像システム導入を難しくする原因となっていました。
今回、実システムに導入可能な、マルチコアファイバケーブルを用いた伝送ユニットを開発し、8Kカメラシステムへ導入しました。これにより、僅かしか余裕のない情報配管や建物内のスペースを通し、クリーンルーム内に設置された複数の8Kカメラからの大容量映像データを、別の建物に有る8K映像合成装置までの300 mを伝送し、安定したシステム動作を実現することに成功しました。
図4(a)において黄色は1本「外径3 mm」のマルチコアファイバケーブル、白色は8本の4コア標準外径マルチコアファイバ(シングルモードファイバ32本分に相当)です。図4(b)は建築物躯体に加工の制限がある、既存の狭小な配線経路の各種ケーブル間を避けて敷設された、マルチコアファイバケーブルです。図4(c)はマルチコアファイバケーブルが敷設された中継ボックス内の様子です。ケーブル数を極端に削減できることから中継ボックス内においても、僅かなスペースを利用して敷設することが可能となり、メンテナンス性も大幅に向上させることができます。また、大量で相当な配線長を敷設する必要があった通信ケーブル(例えばイーサネットケーブル)等を飛躍的に集約でき、省電力、省スペース化を実現できる可能性があります(図4(d)参照)。
本成果により、従来は導入が難しかった、情報配管や配線スペースに余裕のない建物内や建物間をまたいで、非圧縮8K映像システム等の大容量データ伝送が必要となるシステムを導入することが可能になります。
図4: マルチコアファイバ実装状況
今後の展望
今回開発したマルチコアファイバ伝送ユニットを利用することで、従来は導入が難しかった、情報配管や配線スペースに余裕のない建物内や建物間をまたいで、非圧縮8K映像システム等の大容量データ伝送が必要となるシステムを導入することが可能になります。今後は、応用の範囲を更に拡大すべく、マルチコアファイバケーブルの更なる高密度化や、送受信装置の飛躍的な小型化等を可能にするために、更なる研究開発を行っていきます。
各機関の役割分担
・NICT: マルチコアファイバ伝送部を含む全体システムデザインと統括
・アストロデザイン: 8K映像システム開発と実装
・フジクラ: 4コア標準外径マルチコアファイバとマルチコアファイバケーブル開発
論文情報
フジクラ
掲載誌: 2023 Optical Fiber Communications Conference and Exhibition (OFC)
DOI: 10.1364/OFC.2023.M3B.5
論文名: Characteristics of Over 600-km-Long 4-core MCF Drawn from a Single Preform
著者名: Shota Kajikawa, Tsubasa Saito, Katsuhiro Takenaga, and Kentaro Ichii
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このプレスリリースを配信した企業・団体

- 名称 国立研究開発法人情報通信研究機構 広報部
- 所在地 東京都
- 業種 その他情報・通信業
- URL https://www.nict.go.jp/
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