XRISM (クリズム) 衛星が解き明かした高温ガスの3次元構造 〜「レアタイプ」超新星残骸の発見〜
2025年7月29日
立教大学
報道関係各位
XRISM(クリズム)衛星に搭載された軟X線分光装置 Resolve(リゾルブ)を用いた観測で、特異な構造を持つ超新星残骸「W49B」の姿が明らかになりました。観測計画・解析を主導した立教大学理学部の澤田真理助教をはじめ、本学の教員や大学院生による長年の取り組みの結晶ともいえる今回の発見。星の最期に何が起こるのか――その謎に、新たな光が当てられました。
POINT① 奇妙な天体「W49B」の運動を捉えて分かった真の姿。星の進化や爆発の理解に影響を与える、新しいモデルの構築につながる?
図1:「W49B」の想像図 ©JAXA
「 W49B 」は通常のリング状の超新星残骸とは異なるひしゃげた形をした天体です。その 3 次元構造は長年の謎で、これまでは、中心から外側へ円盤状に膨らんだ形を横から見ているとする説が有力でした。ところが、 XRISM による観測で残骸を構成するガスの運動が詳しく解析され、これまでの説を覆す新たな姿が浮かび上がりました。一方の端は地球に向かって近づき、もう一方は遠ざかっており、中央付近は大きく動いていないことが分かったのです。この結果から導き出されたのは、「鼓(つづみ)」のような双極構造。なぜ「 W49B 」がこのような形になったのか、その全てが解き明かされたわけではありませんが、今回の観測によって特異な 3 次元構造が初めて判明しました。星の進化や爆発の理論に、新たな地平を切り開く発見といえます。
これまでの説を覆す、「鼓(つづみ)」状構造
図2:「鼓(つづみ)」状構造の図 ©JAXA
一方が近づき他方が遠ざかる、東西で反対向きの「双極状」運動をしていた(図2)。
高速回転をともなう特殊な爆発だった? 親星の恒星風が作った洞穴の中を進むように膨張している?
…いずれにしてもこれまで例がない特殊な超新星残骸。星の進化や爆発の理論に波及する可能性も。
POINT② 50 mKという極低温で精密な測定を実現。天体の動きや組成も分かる、Resolve分光器
ガスの微細な運動を捉えたのが、マイクロカロリメータ「Resolve」です。X線のエネルギー量を正確に測るためには、センサーを絶対零度に限りなく近い50 mK(ミリケルビン)まで冷却し、その温度を±2.5 μK(マイクロケルビン)という驚異的な精度で制御しなければなりません。そのため、わずか5ミリメートル四方のセンサーに対し、大人が手を広げても抱えきれないほどの大掛かりな冷却装置が組み込まれています。この繊細かつ壮大な装置のうち、センサーに近い部分はNASAが中心となって開発。一方、冷却装置の大部分やデジタル波形処理装置などは、JAXA が中心となり澤田助教・山田准教授・北本特別専任教授も主要メンバーとして参加する日本のチームが担当。国際協力のもと、かつてない観測精度の装置を作り上げました。
図3、4:高さ1.7mのResolve分光器全体像(上)とその内部にあるX線を感知するセンサー(下)。
© JAXA, NASA
POINT③ 12年以上を費やした計画が実を結んだ多くの天文学者にとって待望の結果
「W49B」の観測計画は、XRISMの先代にあたるHitomi (ASTRO-H) 衛星の打ち上げ前、2012年頃から始まっていました。天体の謎に迫る観測の機会を天文学者たちが待ち続ける中、立教大学の教員や大学院生はHitomi・XRISM両衛星の開発に力を尽くしてきました。国際共同研究の元、その長年にわたる努力が実を結び、ついに一つの成果にたどり着いたのです。
壮大な宇宙の謎に挑むXRISMプロジェクト。その中心で重要な役割を担ってきた立教大学
図5_XRISM衛星 ©JAXA
壮大な宇宙の謎に挑むプロジェクトにおいて、立教大学はその中核を担ってきました。澤田助教、山田准教授、北本特別専任教授を中心に、教員・大学院生が NASA や JAXA 、他大学の研究者と連携しながら、 Resolve の開発や運用、観測計画の立案、データの解析に至るまで幅広く関与してきました。
中でも大学院生の協力は欠かせないものでした。彼らは研究者と共に現場に立ち、開発段階の試験や測定に携わってきました。粘り強く検証を繰り返し、プロジェクトを支える大きな力となりました。失敗も貴重な学びの機会と捉え、研究の本質に立ち返りながら着実に歩みを進めてきた姿勢が、確かな成果へと導いたといえるでしょう。
図6(左)/NASA ゴダード宇宙飛行センターで実施したセンサー性能評価試験 ©NASA, M. Eckart
図7(右)/JAXA筑波宇宙センターでの装置全体の性能評価試験。コロナ禍のためNASAと映像をつないで行われた © JAXA
XRISMは2023年9月の打ち上げ以降、順調に観測を続けています。澤田助教、山田准教授、北本特別専任教授が所属する研究グループは、超新星残骸やブラックホールの高精度なデータを取得し、次々と成果を生み出しています。長い時間をかけて積み上げてきた知と情熱が、宇宙の理解を深める力として結実しようとしています。
立教大学が支えたResolve開発
●分光器の較正(澤田助教)
環境により時々刻々変化する観測機器からの信号出力を補正し、装置の測定精度を最大限に高める作業。打ち上げ前の試験に加え、打ち上げ後も既知の天体のデータを用いた性能検証を実施。
●波形処理システムPSPの開発(山田准教授)
分光センサーで取得した波形データを、衛星上で選別・解析するシステムを開発、動作検証。
●ゲートバルブ透過率の測定(北本特別専任教授)
X線入射口にあるセンサー保護用ゲートバルブは、ベリリウム窓を搭載し、閉じたままでも観測を可能にする。この窓のX線透過率を測定。
XRISMによる観測の成果(抜粋)
●「レアタイプ」超新星残骸の発見
本研究。澤田助教と米国のリバモア国立研究所のG. Brown 博士がリードを務めたW49B 国際解析チーム(26名)の主導による、XRISM Collaboration(139名)の成果。 科学誌 The Astrophysical Journal Lettersに掲載(2025年7月29日/日本時間午前0時)。
●超巨大ブラックホールから噴き出す風の速度構造を発見
超巨大ブラックホール「PDS 456」から噴き出される風が、複雑な速度構造を持つことを世界で初めて発見(図8)。科学誌Natureに掲載(2025年5月15日)。
図8:PDS 456の想像図 ©JAXA
●大質量X線連星系のプラズマの風を観測
「Cyg X-3」において恒星から噴き出すガスや、コンパクト星に落ち込むガスの動きを捉えることに成功(図9)。The Astrophysical Journal Lettersに掲載(2024年12月11日)。
図9:Cyg X-3の想像図 ©NASA
立教大学理学部物理学科
■澤田 真理 助教
2007年京都大学理学部理学科卒業、2012年同大学大学院理学研究科物理学・宇宙物理学専攻博士後期課程終了。NASAゴダード宇宙飛行センターX-ray Astrophysics Laboratory Assistant Research Scientistなどを経て、2023年より現職。
■山田 真也 准教授
2006年東京大学理学部物理学科卒業、2011年同大学大学院理学系研究科物理学専攻博士課程修了。2020年より現職。次世代の精密分光装置である超伝導転移端検出器(Transition Edge Sensor:TES)の開発などに取り組む。
■北本 俊二 特別専任教授
1980年大阪大学理学部物理学科卒業、1985年同大学大学院理学研究科物理学専攻博士後期課程修了。2023年より現職。今回の成果につながる分光装置開発に20年以上関わる。
澤田によるコメント
今回の発見はまさに予想外です。私自身も開発に貢献した新型の装置による美しいスペクトルから、ガスの流れと3次元構造が徐々に明らかになり、好奇心に駆られて夢中で解析しました。日米欧のメンバーからなる国際共同研究チームで議論を重ねて到達した成果です。
今後は、ガスに含まれる元素の比率などを測定することで特殊な構造の起源に切り込むとともに、類似の残骸がどの程度存在するのか、銀河系内の残骸のガスの運動を系統的に調べて検証したいと考えています。
立教大学理学部主催の国際会議を開催
「宇宙精密X線分光と実験室天文学の協奏:次世代観測技術の新境地」
立教大学は、XRISM衛星の開発協力等に貢献してきた知見と技術をもとに、宇宙精密X線分光分野をリードする上で重要な局面を迎えています。今回主催する国際会議では、国外の研究機関より関連研究者を招聘し、対話と協働を深め、本学の研究的プレゼンスをさらに高めます。
日時:10月27日(月)10:00 ~ 29日(水)18:00
場所:立教大学池袋キャンパス太刀川記念館カンファレンスルーム
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このプレスリリースを配信した企業・団体

- 名称 立教大学(学校法人立教学院)
- 所在地 東京都
- 業種 大学
- URL http://www.rikkyo.ac.jp/
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