連記式投票は女性議員を増やすのか
―5400人のサーベイ実験で検証―
連記式投票は女性議員を増やすのか ―5400人のサーベイ実験で検証―
早稲田大学ウェブサイトもご確認ください。
| 発表のポイント ○複数の候補者に投票できる連記式の選挙制度では、有権者が候補者の性別にも注目し、男女のバランスを意識して投票する傾向が強まることを確認しました。 ○ しかし、3人を選べる場合でも、最初に男性候補を選ぶ傾向が強く、単記式と比べて必ずしも女性候補の当選増にはつながらないことが分かりました。 ○ 日本の有権者5400人を対象としたサーベイ実験により、単記式か連記式かという投票の仕組みの違いが、有権者の候補者選択に影響することを実証しました。 ○ 以上の結果は、選挙制度の設計は女性政治家の増加に影響しうる一方、制度改革には効果と限界があることを示す重要な知見です。 |
日本では女性議員の割合が依然として低く、政治におけるジェンダー格差の是正が大きな課題となっています。その手掛かりとして注目されるのが、かつて戦後直後の衆議院選挙で採用された「連記式」(※1)の投票制度です。有権者が複数の候補者に投票できる制度であり、女性当選者の増加を後押しした可能性が指摘されてきました。しかし、この制度のもとで有権者が実際にどのように候補者を選ぶのかは、十分に検証されてきませんでした。
早稲田大学 政治経済学術院の尾野嘉邦(おの よしくに)教授、学習院大学 法学部の三輪洋文(みわ ひろふみ)教授、早稲田大学政治経済学術院の粕谷 祐子(かすや ゆうこ)教授による本研究では、日本の有権者5400人を対象としたサーベイ実験(※2)を実施し、1人のみを選ぶ単記式(※3)と、複数の候補者を選べる連記式での投票行動を比較しました。実験の結果、連記式では、有権者が男女の候補を組み合わせて選ぶ傾向が強いことが分かりました。しかし同時に、1人目として男性候補が選ばれやすくなり、女性候補の当選増には必ずしも結びつかないことが分かりました。本研究の結果は、女性政治家を増やすための制度改革には一定の効果が見込まれる一方で、その効果には限界もあることを示します。
本研究は2026年5月29日に「Political Science Research and Methods」に掲載されました。
論文名:Voting for Gender Balancing? The Effect of a Multiple-Vote System on Women’s Representation
(図1)サーベイ実験で被験者に提示された架空の候補者リストの例(論文中の図1) 候補者の性別や学歴などの情報は無作為に提示されており、6人の候補の中から1人だけに投票する回答者グループ(単記式条件)と3人に投票する回答者グループ(連記式条件)があります。
(図2)連記式条件下における候補者性別選択の結果(論文中の図2を改変)
図2の通り、3人に投票する回答者グループ(連記式条件)の投票パターンを分析すると、2人目に男性候補を選んだ回答者は3人目に女性候補を選び、2人目に女性候補を選んだ回答者は3人目に男性候補を選ぶ確率が高まっていることが示されました(下段)。なお、1人目に選んだ候補の性別は、2人目に選ばれる候補の性別に影響を与えていませんでした(上段)。
(1)これまでの研究で分かっていたこと
政治における女性の代表は、民主主義の在り方を考えるうえで重要なテーマです。これまでの研究では、女性議員の割合が国によって大きく異なることに着目し、その要因が検討されてきました。なかでも、比例代表制(※4)やクオータ制(※5)は、女性議員を増やしやすい制度として知られています。一方、小選挙区制をはじめとする多数決制の選挙制度では、女性が当選しにくい傾向が指摘されてきました。
近年では、同じ多数決制のもとでも、有権者が複数の候補者に投票できる制度は、議員の多様性を高める可能性があると議論されています。しかし、これらの研究の多くは選挙結果の比較に基づく観察研究であり、有権者が実際にどのように候補者を選んでいるのかまでは十分に明らかにされていませんでした。
日本でも、戦後直後の衆議院選挙で連記式が採用され、多くの女性当選者が生まれたことがありました。そのため、連記式が女性の政治参加を後押ししたのではないかと論じられてきました。しかし、連記式のもとで有権者がどのように複数の票を使い、それが女性候補者の当選可能性にどう結びついたのかは、十分に検証されてきませんでした。こうした背景から、投票制度が有権者の選び方に与える影響を直接的に検証する必要がありました。
(2)今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと、そのために新しく開発した手法
本研究は、有権者が複数の候補者に投票できる制度が、女性議員の増加につながるのかを明らかにすることを目的としました。特に、投票制度の違いが有権者の候補者の選び方にどのような影響を与えるのかを、直接的に検証することを試みました。
この目的のために、日本の有権者5400人を対象としたサーベイ実験を実施しました。回答者に6人の架空の候補者プロフィールを提示し、その中から1人だけを選ぶ単記式と、3人まで選べる連記式のいずれかの条件で投票してもらいました。候補者プロフィールでは、性別、年齢、経歴などの情報をランダムに変化させることで、どの要素が候補者の選択に影響するのかを分析しました。
分析の結果、連記式のもとでは、有権者が男女の候補者を組み合わせて選ぶ行動が増えることが確認されました。特に、2番目や3番目に選ばれる候補については、異なる性別の候補を選ぶ傾向が強まることが分かりました。また、この結果は、優先順位の低い選択になるにつれて候補者の選択肢が狭まることによる見せかけの傾向ではないことも確認されました。これは、有権者が候補者の性別の組み合わせを意識して行動している可能性を示すものです。
さらに、こうした傾向は、男性有権者や、女性候補への支持が低い層においても確認されました。つまり、必ずしも女性に好意的でない有権者であっても、連記式のもとでは一定程度、性別を分けて選ぶ行動が見られることが分かりました。
一方で、連記式では最初に選ばれる候補として男性が優先される傾向が強く見られ、1人にしか投票できない単記式においてよりも高い確率で1人目として男性候補が選ばれていました。そのため、連記式では女性への支持が一定程度広がるにもかかわらず、最終的な当選者全体では女性が増えない、あるいは減少する可能性があることが明らかとなりました。
本研究は、選挙制度の投票の仕組みが有権者の行動を通じて選挙結果にどのような影響を及ぼすのかを、実験的手法によって明らかにした点に特徴があります。従来の選挙結果の比較だけでは捉えにくかった、有権者の選択過程そのものを直接検証した点に新規性があります。
これらの結果は、投票制度の設計が女性政治家の増加に与える影響について、単純な効果だけでなく、限界や副作用も含めて理解する必要があることを示しています。
(3)研究の波及効果や社会的影響
本研究は、投票制度の違いが、有権者の行動を通じて選挙結果に影響することを具体的に示しました。特に、複数の候補者に投票できる連記式の制度では、有権者が男女の候補者を組み合わせて選ぶ行動が増えることが確認されました。興味深いことに、このようなバランスを取る行動は候補者の学歴や年齢などでは見られず、性別についてのみ確認されました。このことは、有権者が複数の候補に投票する際に、特に候補者の性別を意識して選んでいる可能性を示しています。
一方で、連記式は女性候補への支持を広げる効果を持つものの、それが女性議員の増加には必ずしも直結しない可能性があることも明らかになりました。この結果は、制度を変更すれば自動的に女性議員が増えるとは限らないことを示しています。
こうした知見は、女性の政治代表を促進するための制度設計を検討するうえで重要です。例えば、投票制度の見直しだけでなく、候補者の選定や有権者の意識など、複数の要因をあわせて考える必要があることを示唆しています。
また、本研究は、日本の過去の選挙制度に関する議論を検証する材料を提供する点でも意義があります。歴史的な制度の評価や今後の制度改革を議論する際に、実証的な根拠の一つとして活用されることが期待されます。
(4)課題、今後の展望
本研究は、有権者の選び方に焦点を当てたサーベイ実験に基づいており、実際の選挙のすべての要素を再現しているわけではありません。特に、政党の影響や候補者の知名度、選挙運動、戦略的な投票行動などの要因は十分に反映されていません。そのため、本研究の結果を実際の選挙結果への影響については慎重に解釈する必要があります。
また、本研究は日本の有権者を対象としており、他国の制度や政治環境でも同様の結果が得られるかは今後の検証が必要です。とりわけ、政党の役割が強い選挙制度や、候補者の選定過程が異なる場合には、異なる結果となる可能性があります。
今後は、政党の関与や候補者の配置などを考慮した研究を進めることで、選挙制度と実際の選挙結果との関係をより精緻に明らかにする必要があります。また、連記式の投票制度のもとで女性候補への支持がどのように広がるのか、その条件を明らかにすることも重要です。
さらに、他国の事例や実際の選挙データと組み合わせた分析を進めることで、選挙制度改革が女性議員の増加にどのような影響をもたらすのかについて、より現実的な見通しを提示することが期待されます。
(5)研究者のコメント
本研究は、戦後直後の日本で女性当選者が多く生まれたのは、連記式という投票制度によるものだったのか、という素朴な問いから始まりました。分析の結果、連記式は有権者に候補者の性別のバランスを意識させる一方、それだけで女性議員の増加につながるとは限らないことが分かりました。有権者が最初の1票を、誰に投じるのかまで見る必要があります。制度改革を考える際には、こうした有権者の行動まで含めて検討する必要があります。
(6)用語解説
※1 連記式
複数人が当選する選挙区において、有権者が複数の候補者に投票できる制度。第二次世界大戦後の日本では、1946年の衆議院議員総選挙において、4から10の候補が当選できる選挙区においては2名連記、11人以上が当選できる選挙区では3名連記の制限連記制が採用された。
※2 サーベイ実験
サーベイ実験とは、アンケート調査のようなサーベイに実験的手法を組み合わせたもので、回答者を
無作為に異なる条件に割り振り、条件ごとの回答傾向の違いを観察します。それぞれの条件ごとに質
問文の内容や指示文を入れ替えることで、そうした操作が回答にどのような因果的効果を及ぼしたの
かを検証することができます。
※3 単記式
有権者が一人の候補者にのみ投票する制度。このうち得票数の多い順に複数人が当選する制度は、単記非移譲式投票と呼ばれる。1990年代の政治改革以前の衆議院(いわゆる中選挙区制)で用いられていたほか、現在も参議院議員選挙の選挙区選挙や地方議会選挙において、複数人が当選する選挙区が該当する。
※4 比例代表制
政党などが獲得した票数に応じて議席を配分する選挙制度。小選挙区制などの多数代表制と比べて、各政党の得票率と議席率の比例性が高くなりやすい。
※5 クオータ制
当選者、候補者、または候補者名簿などについて、性別や民族などの属性に基づき、一定の割合を割り当てる制度。政治分野では、性別に基づくクオータ制が導入されることで、女性議員の割合が高まる傾向があるとされる。
(7)論文情報
雑誌名: Political Science Research and Methods
論文名: Voting for Gender Balancing? The Effect of a Multiple-Vote System on Women’s Representation
執筆者名(所属機関名):
尾野 嘉邦(早稲田大学)*
三輪 浩史(学習院大学)
粕谷 祐子(早稲田大学)
*責任著者
掲載日:2026年5月29日
掲載URL: https://doi.org/10.1017/psrm.2026.10108
(8)研究助成(外部資金による助成を受けた研究実施の場合)
科研費基盤研究A「政治的ジェンダーバイアスの包括的研究」(20H00059)など
本プレスリリースは発表元が入力した原稿をそのまま掲載しております。また、プレスリリースへのお問い合わせは発表元に直接お願いいたします。
このプレスリリースには、報道機関向けの情報があります。
プレス会員登録を行うと、広報担当者の連絡先や、イベント・記者会見の情報など、報道機関だけに公開する情報が閲覧できるようになります。
このプレスリリースを配信した企業・団体
- 名称 早稲田大学
- 所在地 東京都
- 業種 大学
- URL https://www.waseda.jp/top/
過去に配信したプレスリリース
連記式投票は女性議員を増やすのか
本日 11:00
テラヘルツバイオフォトニクスが拓く次世代バイオ計測
6/2 14:00
金属ガラスの電子顕微鏡像に現れた”明るい点”の正体に迫る
5/28 14:00
ニュートリノの「変⾝」が左右する星の最期と超新星爆発
5/25 16:00
卵子を育てる「細胞間のかけ橋」の機能に迫る、内部構造の解明
5/18 14:00
光と原子つなぐ新量子ゲートを提案
5/15 14:00
正しい情報を伝えれば、男女格差への政策支持は高まるか?
5/14 11:00
日本の成人における座りすぎに伴う慢性疾患による経済的負担は年間約2,825億円と推計
5/12 13:00
おしゃれが健康寿命を延ばす 早稲田大学と中央区の文化体験講座
5/8 10:00
量子アルゴリズムを用いて複雑系材料開発を飛躍的に加速
5/1 14:00
酸素欠損を持つ岩塩型TiO・VOで4s電子を発見
4/30 15:00





