AIで有機結晶の機能を高出力化

機械学習を活用し、従来と比べ3.7倍大きい力を効率的に実現

早稲田大学

2025年4月3日

早稲田大学

AIで有機結晶の機能を高出力化 機械学習を活用し、従来と比べ3.7倍大きい力を効率的に実現

 

詳細は早稲田大学HPをご覧ください。

 

発表のポイント

 ● 光駆動性の有機結晶に光を照射し、従来と比べ最大3.7倍の大きな発生力を達成しました。

 ● 2種類の機械学習(LASSO回帰とベイズ最適化)を活用して実験条件を絞り込み、従来法の少なくとも73倍の実験効率化に成功しました。

 ● 安全かつ非接触な光制御技術として、リモート操作が求められるアクチュエータや医療分野への応用が期待されます。

 ● 新規分子設計にも展開可能で、次世代の高性能機能性材料の開発に波及効果が期待されます。

 

早稲田大学データ科学センターの谷口 卓也(たにぐち たくや)准教授、同大理工学術院の朝日 透(あさひ とおる)教授、同大大学院先進理工学研究科一貫制博士課程5年(研究当時)の石崎 一輝(いしざき かずき)らの研究グループ(以下、本研究グループ)はこのたび、機械学習を使って光駆動有機結晶の発生力を向上させることに成功しました。従来の光駆動有機結晶は発生できる力が小さく、実用化に向け課題が残っていました。そこで本研究グループは、分子設計と実験条件最適化にそれぞれ機械学習を用い、その手法を組み合わせることで、より高い出力を効率的に得ることに成功しました。従来の少なくとも73倍のスピードで条件探索を行い、最大で3.7倍もの力を実現することができました。

 

本研究成果は、英国の王立科学会が発行する「Digital Discovery」誌にて2025年3月20日(木)に速報版としてオンライン公開されました。

図:開発手法の概要図

 

これまでの研究で分かっていたこと

有機結晶は有機分子で形成された結晶であり、用いる分子に応じて多様な構造と機能を示します。その中でも光によって変形する光駆動有機結晶は、軽量で遠隔制御可能なアクチュエータ※1として注目されています。これまでの研究では主に結晶の変形自体について研究され、様々な変形挙動が明らかにされてきました。変形時に結晶が物体に接触していると、発生した力により仕事を行うことができます。変形が完全に阻止されたときに最大の力が観測され、これはアクチュエータの重要な性能指標である「発生力」として定義されます。

 

光駆動有機結晶の発生力を制御することは、実用化に向けて重要です。発生力は結晶の物性、サイズ、光強度といった複数の要因に依存します。小さな力は光強度を下げることで容易に出力できる一方、発生力は結晶サンプルに依存した限界値があるため、大きな力を出力したい場合には適した実験条件を見出すことが困難です。また、これらの実験条件と発生力との関係性は、まだ十分に理解されていません。もし既存の光駆動有機結晶の発生力(~10ミリニュートン(mN)程度)よりも出力を大きくすることができれば、その応用範囲は広がる可能性があります。そのためには、実験条件と発生力の関係性を広範な探索空間で調べる必要がありました。

 

(2)新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと、そのために新しく開発した手法

本研究では、光駆動有機結晶の発生力を最大化することを目指して、分子設計と実験条件の最適化に2種類の機械学習を用いました。光駆動有機結晶として機能する分子はさまざま知られていますが、本研究グループはサリチリデンアミン分子※2に着目しました。サリチリデンアミン分子は一段階の化学反応で合成することができ、反応物のアミン化合物を変えるだけで異なるサリチリデンアミン分子を簡便に得ることができます。

 

どのようなサリチリデンアミン分子を合成すればよいかについて知見を得るために、ヤング率※3に影響を与える分子の部分構造を機械学習の1つの手法であるLASSO回帰※4により調べました。ヤング率は最も基本的な機械的特性であり、発生力に影響を与えるパラメータです。LASSO回帰により、特定の部分構造がヤング率と有意な正の相関または負の相関を示すことが明らかになりました。主に、水素結合を形成する部分構造が正の相関因子として、ベンゼン環およびハロゲンが負の相関因子として同定されました。これらの知見に基づき、ヤング率を多様化するサリチリデンアミン分子の設計が可能となり、下図に示すサリチリデンアミン分子を合成し、結晶化を行いました。

 

図1 本研究で合成したサリチリデンアミン分子

 多様なヤング率と結晶サイズのサリチリデンアミン結晶を作製できたので、発生力を最大化するための実験条件をベイズ最適化により探索しました。ベイズ最適化は、少ない試行回数で効率的に目的関数を最大化することを目指す機械学習の手法です。初期データとして10通りの条件下で発生力を測定し、得られた結果をもとに次の実験条件を能動的に提案していきます。ベイズ最適化による能動的な結晶サンプリングにより、合計110回の測定において37.0 mNの発生力を達成しました(下図)。この値は従来の発生力(~10mN程度)よりも3.7倍大きい値です。また、この値を探索空間における大域最大値と仮定した場合、本手法の探索効率は単純な総当たり(グリッドサーチ)と比較して、73倍以上の効率化であることが示唆されました。さらに、有機結晶を対象にベイズ最適化を活用した研究はほとんどなく、本研究で有機結晶研究におけるベイズ最適化の活用例を見出すことができたことにも意義があります。

 

図2 ベイズ最適化における発生力の推移

 

研究の波及効果や社会的影響

本研究では、分子設計におけるLASSO回帰と実験条件最適化のためのベイズ最適化を統合した機械学習アプローチが、光駆動有機結晶の開発において有効であることを実証しました。これにより、光による非接触・遠隔操作が望まれる小型ロボットやアクチュエータ、医療器具など、多岐にわたる領域へ応用できる可能性があります。エネルギー効率の高い材料開発にも寄与し得るため、環境負荷を低減しつつ高付加価値を生む技術として期待されます。また、機械学習との組み合わせは研究開発の効率を向上させるため、幅広い機能性材料の迅速な創製につながる点も大きな意義です。

 

課題、今後の展望

本研究では特定の光駆動有機結晶を対象としましたが、他にも多様な有機結晶が存在します。これらを対象に加えることで、37 mNを超える発生力の実現に向けて探索をさらに拡大する必要があります。また、照射光の波長など発生力に影響を与える要素を増やすほど、最適化に必要な試行回数は膨大になっていきます。そのため、ロボットと機械学習を組み合わせた自動的かつ自律的な実験システムを構築し、効率的にスクリーニングすることが重要です。これらの課題に取り組むことで、より実用的で高出力な光駆動有機結晶の開発が加速すると期待されます。

 

研究者のコメント

ベイズ最適化を活用した研究は近年増えてきていますが、有機結晶を対象にした研究はほとんどありませんでした。ベイズ最適化にもさまざまな方法が考えられるので、本研究の実験スキームに適した方法を思案することに労力を使いました。本研究により有機結晶研究におけるベイズ最適化の活用例を見出すことができたので、他の研究にも波及効果があることを期待しています。

 

用語解説

※1 アクチュエータ

エネルギーを動きに変換する機器や材料を指します。例えば、モーターは電気エネルギーを回転という動きに変換します。光駆動有機結晶は、光エネルギーをさまざまな動きに変換します。

 

※2 サリチリデンアミン分子

特定の化学構造をもち、光照射によって別の分子構造に変化する分子。光照射を止めると元の分子構造に戻る。

 

※3 ヤング率

物体が変形する際の変形のしにくさを表す指標です。値が高いほど変形がしにくいです。

 

※4 LASSO回帰(Least Absolute Shrinkage and Selection Operator)

機械学習の手法の一つで、不要な変数を削減しながら予測モデルを構築する方法です。

 

論文情報

雑誌名:Digital Discovery

論文名:Machine Learning-Driven Optimization of Output Force in Photo-Actuated Organic Crystals

執筆者名(所属機関名):Kazuki Ishizaki*c, Toru Asahi*b and Takuya Taniguchi*a

a-早稲田大学データ科学センター、b-早稲田大学理工学術院、c-早稲田大学大学院先進理工学研究科

掲載日(現地時間):2025年3月20日(木)

掲載URL:https://doi.org/10.1039/D4DD00380B

DOI10.1039/D4DD00380B

 

8)研究助成(外部資金による助成を受けた研究実施の場合)

研究費名:日本学術振興会 科学研究費助成事業 研究活動スタート支援

研究課題名:光トリガー相転移結晶の定量的解析と機能開拓(19K23638)

研究代表者名(所属機関名):谷口卓也(早稲田大学)

 

研究費名:日本学術振興会 科学研究費助成事業 新学術領域研究(研究領域提案型)

研究課題名:光トリガー相転移によるメカニカルソフトクリスタルの創製(20H04677)

研究代表者名(所属機関名):谷口卓也(早稲田大学)

 

研究費名:日本学術振興会 科学研究費助成事業 若手研究

研究課題名:有機固体材料のマテリアルズインフォマティクス基盤構築(22K14747)

研究代表者名(所属機関名):谷口卓也(早稲田大学)

 

研究費名:日本学術振興会 科学研究費助成事業 若手研究

研究課題名:機械学習によるHOF材料の安定性シミュレーション(24K17748)

研究代表者名(所属機関名):谷口卓也(早稲田大学)

 

研究費名:JST ACT-X

研究課題名:機械学習を活用した有機固相転移の計画的創出(JPMJAX23DD)

研究代表者名(所属機関名):谷口卓也(早稲田大学)

 

研究費名:八洲環境技術振興財団 研究助成

研究課題名:太陽紫外光を力学エネルギーに変換する有機結晶材料の創製

研究代表者名(所属機関名):谷口卓也(早稲田大学)

 

研究費名: 2023年度 早稲田-ENEOSシーズ探索研究

研究課題名: 機械学習を用いた太陽紫外光によって駆動する光アクチュエータ結晶の高出力化

研究代表者名(所属機関名):石崎一輝(早稲田大学)

 

研究費名: 2024年度 早稲田-ENEOSシーズ探索研究

研究課題名: 自動自律実験システムを用いた太陽紫外光によって駆動する高出力光アクチュエータ結晶の探索

研究代表者名(所属機関名):石崎一輝(早稲田大学)

 

研究費名: academist Prize 第3期 研究活動費

研究課題名:材料科学における簡易的な自律的実験遂行システムの確立

研究代表者名(所属機関名):石崎一輝(早稲田大学)

本プレスリリースは発表元が入力した原稿をそのまま掲載しております。また、プレスリリースへのお問い合わせは発表元に直接お願いいたします。

プレスリリース添付画像

このプレスリリースには、報道機関向けの情報があります。

プレス会員登録を行うと、広報担当者の連絡先や、イベント・記者会見の情報など、報道機関だけに公開する情報が閲覧できるようになります。

プレスリリース受信に関するご案内

このプレスリリースを配信した企業・団体

  • ※購読している企業の確認や削除はWebプッシュ通知設定画面で行なってください
  • SNSでも最新のプレスリリース情報をいち早く配信中