テラヘルツ帯に対応した無線通信システムを試作し、286.2GHz帯を用いた長距離・大容量OFDM無線伝送に成功
2025年4月9日
早稲田大学
テラヘルツ帯に対応した無線通信システムを試作し、
286.2GHz帯を用いた長距離・大容量OFDM無線伝送に成功
詳細は、早稲田大学HPをご覧ください。
発表のポイント
● テラヘルツ帯に対応した無線通信システムを試作し、300GHzの周波数帯を用いた大容量通信において、OFDMとしては世界トップクラスの距離70mのリアルタイム無線伝送を実現。
● テラヘルツ帯を用いた高速通信の長距離化は、100Gbps以上の伝送速度をめざす次世代移動通信システムBeyond5G/6Gシステムにおいて、地上、海、空にある移動体をつなげる通信ネットワークでの活用が期待されている。
● 本研究では、東京都新宿区の早稲田大学早稲田アリーナ内において72.4mの距離に対し、伝送速度8.19Gbpsのポイント・ツー・ポイント通信を確認。
早稲田大学理工学術院の川西哲也(かわにしてつや)教授の研究グループは、テラヘルツ帯※1に対応した無線通信システムを試作し、長距離・広帯域伝送の実験に成功しました。図1に示すように、早稲田大学 戸山キャンパス(東京都新宿区)の早稲田アリーナ内で72.4mの距離で、8.19Gbpsの伝送速度を実証しました。300GHz帯の周波数帯を用いた大容量通信において、Orthogonal Frequency Division Multiplexing (OFDM)※2としては世界トップクラスの70mの伝送距離を実証しました。今後はスタジアム等限定エリアの「中距離」の無線ネットワークのユースケースへの展開が期待されます。
図1 今回試作した286.2GHz帯OFDM無線通信システム(早稲田大学 早稲田アリーナ)
(1)研究の背景
次世代移動通信システムBeyond5G/6G※3システムにおいて、テラヘルツ帯伝送システムは高速通信が担うことが期待されています。これまでは、マイクロ波帯(3GHz~30GHz)やミリ波帯(60GHz)が利用されてきました。しかし、利用可能な周波数の帯域幅が限定されているため、伝送速度は数百Mbpsから数Gbpsが限界となっています。5年程度に実用化が想定されるD帯(110-170GHz)とならんで、より高い周波数帯の300GHz帯(252-296GHz)でも通信規格IEEE802.15.3d-2017 [1]の研究開発が近年活発に行われています。
(2)今回の研究成果について
286.2GHzのテラヘルツ領域までに対応するアンテナ、送信機および受信機を試作しました。高利得アンテナには、図2に示すように、4系統のビームフォーミング対応で40dBicの高利得なレンズ付き右旋円偏波パッチアンテナ※4と、47dBiの高利得なレンズ付き直線偏波コニカルホーンアンテナを開発しました。送受信RFアンプおよびミキサーには、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)のプロジェクトにおける共同受託者である日本電信電話株式会社(NTT)先端集積デバイス研究所が開発したテラヘルツ帯RFデバイス [2]を使用しました。今回の伝送実験は、中心周波数を286.2GHzに設定し、位相制御された4系統のRF信号をアンテナ放射後に空間合成することで特定実験試験局に許可される範囲内の等価等方放射電力(EIRP)※5 44dBmの高出力化を実現しました。早稲田アリーナ内で72.4mの距離に対して、帯域幅2.0GHzを使用した条件で、変調方式QPSK(伝送速度3.28Gbps) 、16-QAM(伝送速度6.55Gbps)および32-QAM(8.19Gbps)を用いたOFDM伝送を確認しました。
従来、300GHz帯ではSingle Carrier(SC)を用いた距離645mの通信[3]およびOFDMを用いた距離10mの通信[4]が報告されていました。今回は300GHz帯の周波数を利用した1Gbps以上の伝送容量の通信において、OFDMとして距離70mを超える世界初の伝送実験となりました。OFDMはSCに比べて一般的にスペクトル効率が高く、マルチパスフェージング※6に強いとされており今後多くの用途での活用が期待されます。
図2 実証システムの概要(上:ブロック図、左:受信SNRの距離特性、右:72.4mの実験風景)
(3)今後の展開
multiple-input multiple-output(MIMO)※7により高い伝送容量への拡大を目指すとともに、リンクの利便性を向上するために必要なビームステアリング技術の試作と改良を行います。
【研究プロジェクトについて】
本研究成果の一部は、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)の革新的情報通信技術研究開発委
託研究(JPJ012368C00302 および JPJ012368C04901)および科学技術振興機構(JST)先端国際共
同研究推進事業 ASPIRE (JPMJAP2324)により実施したものです。
【用語解説】
※1 テラヘルツ帯
おおむね周波数100GHzから10THz(波長にして3mm-30μm)の電磁波領域を指す。テラヘルツ帯の中には、無線通信に利用できる周波数帯がいくつか存在する。そのうち、110 GHzから170 GHzはD帯、252GHzから296GHzは300GHz帯と呼ばれる場合がある。
※2 Orthogonal Frequency Division Multiplexing (OFDM)
マルチキャリア変調方式の一種であり、一つの広帯域を複数の狭帯域なサブキャリアに分割してデータを並列に送信する技術。各サブキャリアは数学的な直交性を保つことで、互いの干渉を最小限に抑えながら、効率的なデータ通信が可能になる。
※3 Beyond5G/6G
最近サービスがはじまった移動通信システムは第5世代(5G)とよばれている。これに対して、次世代システムとしてBeyond5Gさらには 第6世代(6G)移動通信システムの開発が進められている。
※4 パッチアンテナ
導電体の平板(パッチ)を誘電体基板上に配置し、接地面と組み合わせたマイクロストリップ構造のアンテナ。
※5 等価等方放射電力(EIRP)
送信機が特定の方向に放射する電力を、等方性アンテナが全方向に放射する電力に置き換えた値。
※6 マルチパスフェージング
無線通信において送信信号が複数の異なる経路を通って受信機に到達することで生じる、時間的・周波数的な信号強度の変動現象を指す。
※7 multiple-input multiple-output(MIMO)
複数のアンテナを配置し、空間多重化やダイバーシティ技術を活用して通信容量や信号品質を向上 させる無線通信技術。
【参考文献】
[1] ”IEEE Standard for High Data Rate Wireless Multi-Media Networks Amendment 2: 100 Gb/s Wireless Switched Point-to-Point Physical Layer”、Sep, 2017, https://standards.ieee.org/ieee/802.15.3d/6648.
[2] H. Hamada et. al., “300-GHz-band 120-Gb/s wireless front-end based on InP-HEMT PAs and mixes,” IEEE J. Solite-State Circuits, vol. 55, No. 9, pp. 2316-2335, Sep. 2020.
[3] A Renau et. al., “Full frequency duplex link over 645m in the 300 GHz band”, Journée du Club Optique Micro-ondes (JCOM 2023), June, 2023, https://hal.science/hal-04160795/document.
[4] Y. Morishita et. al., “300-GHz-band self-heterodyne wireless system for real-time video transmission toward 6G,” in Proc. 2020 IEEE International Symposium on Radio-Frequency Integration Technology (RFIT), pp. 151–153, Sep. 2020.
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- 所在地 東京都
- 業種 大学
- URL https://www.waseda.jp/top/
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