最先端材料科学研究:カリウムイオン電池実用化への道のり
グリーン革命に不可欠な代替電池技術
2025年7月8日
国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)内のSTAM編集室では,NIMSとスイスのEmpaが刊行を支援するオープンアクセスジャーナル「Science and Technology of Advanced Materials」誌(https://www.tandfonline.com/stam)から論文を厳選して紹介しています.
2025年7月4日に発表された論文の解説を,7月8日に配信いたします.
図の説明:カリウムイオン電池は,実用間近のナトリウムイオン電池より高いエネルギー密度を実現できる可能性を持っている.高エネルギー密度は再生可能エネルギーの活用では特に重要になる.
韓国・東国大学のLim Eunho教授らの研究チームは,『Science and Technology of Advanced Materials』にレビュー論文を発表し,持続可能なグリーン転換に不可欠な電池技術の最近の進展と課題について考察し,リチウムイオン電池の代替技術開発に必要な研究の方向性を提案しています.
リチウムイオン電池は,ノートパソコン,スマートフォン,電気自動車など,電子機器利用の急激な発展において不可欠な役割を果たしてきましたが,その普及拡大に伴い,重大な課題に直面しています.というのも,リチウムは資源が偏在しています..このため,需要の増加により,リチウムはいまや高価値な戦略的資源へと変貌した上に,今後,その需要はますます増加すると予想されているからです.
代替案として,より得やすい材料を使った電池技術の可能性が模索されています.たとえば,ナトリウムイオン電池は選択肢の一つで,すでに商業化も間近です.しかし,カリウムイオン電池はさらに優れた電池技術になると期待されており,特に再生可能エネルギーなどの大規模エネルギー貯蔵で重要になる,高いエネルギー密度を実現できる電池技術となる可能性があります.「カリウムイオン電池は,カリウムの豊富さとコストの観点から有望な代替策として浮上していますが,その可能性を現実のものにするには,カリウムイオンの特性に最適化された先進的負極材料の開発が不可欠です」とLim教授は説明します.
Lim教授らのレビュー論文では,カリウムイオン電池の潜在能力を実現するための必要となる研究が概説されています.この中で,種々の負極材料の強みと弱み,およびそれぞれが依拠する電気化学的メカニズムが体系的に分析され,弱点を克服するための戦略や,性能と安定性とのトレードオフもまとめられています.本論文の重要なポイントの一つは,カリウムイオン電池の容量と寿命を決定する要因として,電気化学パラメーターと物理構造の相互関係が浮き彫りになった点です.これに基づき,著者らはカリウムイオン電池技術を進歩させるために必要となる今後の研究方向性を提示しています.
Lim教授は,カリウムイオン電池の潜在的可能性を実現し,その限界を克服する新たな材料の設計を目指しています.「私の研究では,コスト効率が良く,高性能で安全なカリウムイオン電池用負極材料の開発に焦点を当てます」と語ります.また,彼は高度な評価技術を用いて,電池材料内で起こる基本的な現象も明らかにする計画です.「これら現象のメカニズムを理解することが,材料設計と電極構造の最適化には不可欠なのです」と彼は説明します.「究極的に,私の目標は,現在のリチウムイオン電池の負極に匹敵,またはそれを上回る材料を開発し,カリウムイオン電池の商業化に貢献することです」.
論文情報
タイトル:Recent progress and challenges in potassium-ion battery anodes: towards high-performance electrodes
著者:Jeseon Lee, Juyeon Lee & Eunho Lim*
* Department of Chemical & Biochemical Engineering, Dongguk University, Seoul, 04620, Republic of Korea (E-mail: eunholim[at]dgu.ac.kr)
引用:Science and Technology of Advanced Materials Vol. 26 (2025) 2518746
最終版公開日:2025年7月4日
本誌リンク https://doi.org/10.1080/14686996.2025.2518746(オープンアクセス)
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- 名称 国立研究開発法人物質・材料研究機構
- 所在地 茨城県
- 業種 各種団体
- URL https://www.nims.go.jp/
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