最先端材料科学研究:セルロースフィルムを「切り紙」ハイドロゲルに

膨潤前レーザー加工がハイドロゲルの新しい可能性を拓く

NIMS

2024年4月25日

 

 

 図の説明: ハイドロゲルのキリガミパターン(上)と乾燥状態から膨潤したハイドロゲル(下)

 

 

 

東京農工大学の研究者らが、ハイドロゲルとして知られる柔らかくて伸張性のある材料に、精巧な構造を作り込む新しい手法を開発した。膨潤前の薄膜にパターンを切り込むことにより、膨潤後に複雑なキリガミ ハイドロゲル構造を形成させる。この研究は、「キリガミ ハイドロゲル」と呼ばれる新しい領域を拡大するものだ。この成果は、Science and Technology of Advanced Materials  (STAM) 誌に掲載された。

 

親水性の分子ネットワークを持つハイドロゲルは、大量の水を含んだ状態(膨潤状態)にある。中川大輔氏と花崎逸雄氏は、膨潤前の,セルロース(植物細胞壁の大部分をなす天然素材)のナノファイバーで構成された乾燥フィルムにあらかじめ設計したパターンをレーザーで刻み込んだ。加工したフィルムに水を加えて膨潤させると、長手方向に引き伸ばしたときに横幅も広がる「オークセティック」と呼ばれる特性を示す。

 

「“切り紙”は、元々は文字通り“紙を切ることで作られたデザイン”のことだったので、一般的には薄いシートが用いられます。一方、私たちが開発した二次元のオークセティックな特性は、シート構造が膨潤し、厚みが充分になった三次元的な状態で現れます。また、一定の含水状態で保管するより、使用前は乾燥状態で保存するほうが便利でしょう。」と花崎氏は言う。「このオークセティック機構は引張と圧縮の変形を多数回繰り返しても維持されます。これは、しなやかな知的材料の設計において重要な要素となるでしょう。」

 

この適応性ハイドロゲルの応用例としては、たとえば,ロボット技術のソフトコンポーネントが考えられる。これにより、操作対象との相互作用が柔軟になる。やわらかいスイッチやセンサー部品にも応用できる可能性がある。また、ハイドロゲルは動きや成長に柔軟に適応できる材料として、組織工学、創傷被覆材、薬物送達システム(DDS)などの医療分野への応用も検討されている。今回、東京農工大学のチームが開発したキリガミ ハイドロゲルは、将来のハイドロゲル応用の選択肢を大幅に広げるものとなるだろう。

 

「設計した特性を維持しながら周囲環境への適応性を発揮することは、材料の多機能化にも有効です。」と花崎氏は締めくくった。

 

 

 

論文情報

タイトル:Adaptive plasticity of auxetic Kirigami hydrogel fabricated from anisotropic swelling of cellulose nanofiber film

著者:Daisuke Nakagawa & Itsuo Hanasaki*

*Institute of Engineering, Tokyo University of Agriculture and Technology, Naka-cho 2-24-16, Koganei-shi, Tokyo 184-8588, Japan (E-mail: hanasaki[at]cc.tuat.ac.jp)

引用:Science and Technology of Advanced Materials: Methods Vol. 25 (2024) 2331959

 

最終版公開日:2024年4月2日

本誌リンク https://doi.org/10.1080/14686996.2024.2331959(オープンアクセス)

Science and Technology of Advanced Materials誌は、国立研究開発法人 物質・材料研究機構(NIMS)とEmpaが支援するオープンアクセスジャーナルです。

 

本件に関する問い合わせ: stam_info[at]nims.go.jp

本プレスリリースは発表元が入力した原稿をそのまま掲載しております。また、プレスリリースへのお問い合わせは発表元に直接お願いいたします。

プレスリリース添付画像

image

このプレスリリースには、報道機関向けの情報があります。

プレス会員登録を行うと、広報担当者の連絡先や、イベント・記者会見の情報など、報道機関だけに公開する情報が閲覧できるようになります。

プレスリリース受信に関するご案内

このプレスリリースを配信した企業・団体

  • 名称 国立研究開発法人物質・材料研究機構
  • 所在地 茨城県
  • 業種 各種団体
  • URL https://www.nims.go.jp/
  • ※購読している企業の確認や削除はWebプッシュ通知設定画面で行なってください
  • SNSでも最新のプレスリリース情報をいち早く配信中