高齢者の「自分らしく生きる力」をどのように測るか

— 「何を測るか」が、「何を実現できるか」を決める—

 

 

2025年12月11日

 

報道関係者各位

大阪医科薬科大学

 

高齢者の「自分らしく生きる力」をどのように測るか

— 「何を測るか」が、「何を実現できるか」を決める—

 

・機能的能力の世界標準尺度を開発し、各国の高齢者縦断調査に統合する必要がある。

・世界標準尺度は、ヘルシーエイジングにおける公平性とモニタリングを可能にする。

・将来的な機能的能力の個別化評価は、個人の価値観を反映するために重要である。

 

 

【研究の概要】

世界保健機関(WHO)が提唱したHealthy Ageing(ヘルシーエイジング)は、「自分が価値を感じることを行い、自分らしく生きる力であるFunctional Ability(機能的能力)を養い、維持する過程」とされています。WHOは2021年から2030年を「Decade of Healthy Ageing(ヘルシーエイジングの10年間)」と定め、その進捗を測るために各国に対して

機能的能力のモニタリングを促しています。

 

 

大阪医科薬科大学 医学部 医療統計学研究室 西尾 麻里沙、伊藤ゆり教授、京都大学 社会疫学分野 近藤尚己教授、WHO Department of Sexual, Reproductive, Maternal, Newborn, Child, Adolescent Health and AgeingのJotheeswaran Amuthavalli Thiyagarajanらの研究グループは、この「機能的能力」を、世界でどのように測定すべきかを論じました。各国で定義や測定方法が異なる現状を整理し、機能的能力の概念の明確化、国際的な測定枠組みの統一、AIと機械学習を活用した個別化評価の展望を提示しました。

 

本論考は、2025年11月に老年学の国際誌『Age and Ageing』(英国老年医学会誌)にオンライン掲載されました。

 

【研究の背景】

世界的に高齢化が進むなか、WHOは、人が高齢になっても個人の価値観に基づいた生活を続けられるよう支援する考え方として、ヘルシーエイジングを提唱しました。その中核にある「機能的能力」は、身体的・精神的な健康状態だけでなく、社会的なつながりや意思決定の力などを含む包括的な概念です。しかし、国や地域によって異なる定義や測定方法が用いられており、国際的な比較や政策評価を困難にしています。本論文は、「機能的能力とは何か」を改めて問い直す学術的・政策的な論考です。

 

 

 

著者らは、①WHOが定めた機能的能力の5つのドメイン(基本的ニーズを満たす能力、学び・成長し・意思決定する能力、移動する能力、人間関係を築き維持する能力、社会に貢献する能力)を基盤とした共通理解の重要性、②各国が行なっている高齢者縦断調査に機能的能力の概念と測定尺度を統合する必要性、③AIや機械学習を活用した機能的能力の個別化評価の可能性を指摘しました。これらの視点は、国際比較可能な測定の枠組みをつくるための土台となり、今後のデータ整備や政策立案に貢献するとしています。

 

【社会的影響】

本論考は、『「何を測るか」が、「何を実現できるか」を決める』というメッセージを掲げ、ヘルシーエイジングの理念を再確認するものです。今後は、WHOが行う世界高齢者調査(Global Ageing Population Survey: GAPS)などの大規模社会調査において、この議論を具体的な指標づくりとデータ整備へつなげることが期待されます。また、機能的能力の個別化評価が進めば、高齢者一人ひとりの「自分らしく生きる力」をより的確に支えるこ

とができると考えられます。

 

 

【用語説明】

ヘルシーエイジング(Healthy Ageing

ヘルシーエイジングは、2002年にWHOによって策定された政策枠組みである、「アクティブエイジング(Active Ageing)」に代わるコンセプトとして提唱されました。ヘルシーエイジングは、「高齢になってもウェルビーイングであり続けるための機能的能力を発展させ、維持する過程」と定義されています。

 

機能的能力(Functional Ability

機能的能力は「価値を感じる行動をすることを可能にする能力」と定義されています。機能的能力には、「基本的ニーズを満たす能力」、「学び・成長し・意思決定する能力」、「移動する能力」、「人間関係を築き維持する能力」、そして「社会に貢献する能力」が含まれています。

 

【研究者のコメント】

2030年までの世界的なイニシアチブであるヘルシーエイジングを各国の健康関連政策に組み込み、実現していくには、“何を測るのか”という原点に立ち返ることが重要です。世界共通の基準で『自分らしく生きる力』をとらえることができれば、国を超えて高齢者の幸福を支える仕組みづく

りが進むと考えています。

 

 

【特記事項】

本研究は、日本学術振興会 特別研究員制度(課題番号25KJ0365)の支援を受けて実施されました。

 

タイトル: Towards a Global Scale for Functional Ability: What Gets Measured and Gets Done — But Are We Measuring the Right Thing? (世界共通の機能的能力尺度へ―「何を測るか」が、「何を実現できるか」を決める―)

著  者: 西尾麻里沙、伊藤ゆり、近藤尚己、Jotheeswaran A Thiyagarajan

掲 載 誌: Age and Ageing 2025; 54: afaf323

DOI: https://doi.org/10.1093/ageing/afaf323

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