幽霊画にマインクラフト 「田んぼアート」が30年かけて夏の定番になるまで

青森県田舎館村の「幽霊画」に、埼玉県行田市の「マインクラフト」。各地の田んぼアートが見頃を迎えた。1993年に青森の小さな村の米のPRとして始まった催しは、どうやって30年以上人を集め続ける夏の定番になったのか。広報の視点で読み解く。

色の違う稲を植え分けて、田んぼに巨大な絵を描く。田んぼアートが各地で見頃を迎えている。発祥の地・青森県田舎館村の今年の題材は、弘前市の寺に伝わる「幽霊画」と、ご当地アイドル「りんご娘」。8色12種類の稲で描き、10月12日まで公開される。埼玉県行田市は今年、ゲーム「マインクラフト」とのコラボレーションだ。見頃は例年7月中旬から8月中旬。つまり、いまがいちばんきれいに見える時期にあたる。

夏の水田を空から見下ろした風景
夏の水田のイメージ(Adobe Stock)。※記事で取り上げた田んぼアートの会場ではありません。

夏の風物詩、で終わらせるにはもったいない

毎年この時期、テレビやネットニュースは「今年のテーマは○○」と季節の絵として田んぼアートを伝える。それで十分楽しい。ただ、広報の仕事をしている目には、もう少し別のものが見える。一過性の話題づくりが難しいと言われるこの時代に、30年以上にわたって毎年確実に人とメディアを集め続けている催しが、地方の役場を主催者にして成立している。これは調べる価値がある。

米のPRイベントが、村の暦になった

始まりは1993年の田舎館村。村おこしとして役場裏の田んぼで始めた稲作体験イベントで、当初は数種類の稲で簡単な絵を描く程度だった。それが年々精緻になり、人口約7,200人の村に、多い年で30万人を超す観光客が来るまでになった。

続いた理由のひとつは、この催しが「暦」を持っていることではないか。春にテーマが発表され、初夏に田植えがあり、夏に見頃が来て、秋に稲刈りで終わる。ひとつの田んぼが、1年のうちに何度もニュースの節目を作る。しかも中身は毎年変わるから、メディアは毎年新しい顔で取り上げられる。フォーマットは変えず、中身だけ替える。30年分の過去作品はそのままアーカイブという資産になる。

絵は、展望台からしか見えない

もうひとつ見逃せないのが、鑑賞場所の構造だ。地上から見れば、田んぼアートは普遍的な青田である。絵として成立するのは高い場所から見下ろしたときだり、だから観客は自然と、田舎館村では村役場の展望施設へ、行田市では古代蓮会館の展望室「行田タワー」へ集まる。

田舎館村の入館料は大人300円。無料で広がっている田園が、展望台を経由することで対価を払う観光コンテンツになり、主催者の手元には入館者数という測れる数字が残る。数字が取れるから「今季◯万人」がまた次のニュースになる。

行田市は入り口をもうひとつ持っている。田植えだ。今年6月の2日間で、ボランティア584人と体験参加322人、あわせて900人余りが自分の手で苗を植えた。植えた人は、夏に自分の植えた絵を見に戻ってくる。そして写真を撮って広げる。完成前から900人の発信者を仕込んでいるようなものだ。

ギネスの肩書きが、マインクラフトを連れてきた

行田市の田んぼアートは2015年9月、「最大の田んぼアート」としてギネス世界記録に認定された。面積27,195平方メートル、制作に加わったのは総勢813人。きっかけは2011年に面積日本一になったとき、推進協議会の担当者が「どうせなら世界一を」とギネス側へ単身連絡したことだったという。

認定直後は展望台のエレベーターが最長3時間20分待ち、1カ月の来場者は4万人を超え、前年同月の4倍以上になった。

注目したいのは、その後だ。認定は一度きりでも、「世界最大」という肩書きは毎年使える。行田市は過去にアニメ「鬼滅の刃」と組み、今年の相手は「最も売れているビデオゲーム」としてギネス認定を持つマインクラフト。「ギネス世界記録同士」という一言が、そのままコラボの説明になっている。

入館者にはゲーム内アイテムがもらえるステッカー特典まで用意した。地方都市の農政部門の催しが世界的IPと組めた理由は、予算の大きさではなく、10年以上かけて積み上げた肩書きと実績のほうだろう。

一度つくった器は、毎年使える

企業広報に引きつけて言えば、目前の「打ち上げ花火」をやめ、「年中行事」を育てるという話だ。単発の話題づくりは当たっても短な賞味期限で消える。年に一度、同じ器で中身を替えて出し続けると、やがて「今年は何ですか」と取材される側に回る。

毎年の調査発表、周年の節目、定点観測のレポート。フォーマットが定着すれば、発信は追いかけるものではなく、待たれるもの(ナラティブの積み立て)に変わっていく。

もっとも、本稿は公開情報から外形をなぞったにすぎない。毎年のテーマをだれがどう決めているのか、世界的IPとの権利調整を役場のどの部署が担ったのか、効果をどんな数字で測っているのか。現場に聞いてみたいことは多い。稲は10月まで田んぼにある。あなたの会社には、毎年中身を替えて使えるフォーマットはあるだろうか。

(金光)

出典:田舎館村「令和8年度 田んぼアート水田風景」/弘南鉄道「2026田舎館村:田んぼアート」/行田市「2026『田んぼアート』in行田」「今年の田んぼアートは『Minecraft』とコラボレーションします」/Minecraft日本公式「マインクラフトが田んぼアートに!」(2026年7月17日)/ギネス世界記録公式「行田市『最大の田んぼアート(Largest ricefield mosaic)』スペシャル・インタビュー」(2016年2月)/政府広報オンライン Highlighting Japan「田んぼアート」(2020年11月)/デイリーポータルZ「青森県田舎館村『田んぼアート』の超絶進化がすごすぎる」/アニプレックス「ギネス世界記録™認定 世界最大の田んぼアートの制作が決定!

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汐塾編集部

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