
任意開示は、良い内容を書けば伝わるとは限りません。同じ情報でも、その価値は「どこに出し、誰に届けたか」で変わります。IR広報で問題になるのは、開示した情報が読まれないことより、企業価値の評価に反映されないことです。届けたい相手に、埋もれずに届く発信方法を選べているかが、その差を左右します。本記事では、任意開示を投資家や記者に届けるための発信方法の設計について解説します。
目次
IR広報におけるプレスリリースの特殊性
新商品のプレスリリースなら、「いつ、どのメディアに、どう届けるか」は広報の判断で決められます。一方、上場企業のIR情報では、法律や証券取引所のルールによって開示の時期や方法が定められているものがあります。こうした制度上のルールを踏まえたうえで、発信方法を設計する必要があります。
ここで、IR広報が置かれている状況を、二つの調査から見ていきます。
まず、任意開示を行う企業が増えています。代表的な任意開示資料の一つである統合報告書を発行する企業は、2017年の330社から2025年には1,225社へと増加し、8年間で約3.7倍になりました。このうち上場企業は1,134社にのぼります(出典:企業価値レポーティング・ラボ「国内自己表明型統合報告書 発行企業等リスト2025年版」)。
一方で、投資家の実感は異なります。2025年度に生命保険協会が企業と投資家の双方に行った調査では、対話に際して企業に感じる課題として「対話の材料となる情報の開示が不十分」と回答した投資家が51.3%にのぼりました。任意開示を行う企業が増えても、投資家の半数以上は、対話の材料が足りないと感じています。
さらに、同じ調査で、自社の体制や取り組みにおける課題として同項目を挙げた企業は28.5%でした。生命保険協会は、これを企業と投資家の認識ギャップと位置づけています(出典:生命保険協会「企業価値向上に向けた取り組みに関するアンケート」2025年度)。

開示の量を増やすだけでは、投資家の情報ニーズを満たすことにはつながらない。ここから見えてくるのは、何を出すかと同じくらい、どう届けるかが問われているということです。
上場企業の情報開示は、大きく次の三つに分かれます。
| 法定開示 | 適時開示 | 任意開示 | |
|---|---|---|---|
| 根拠となるルール | 金融商品取引法・会社法など | 証券取引所の規則(有価証券上場規程) | 企業が自主的に行う開示(法定開示・適時開示の対象外) |
| 何を | 法律で定められた情報・書類 | 投資判断に重要な影響を与える会社情報 | 法定開示・適時開示の対象ではない、投資家等に有用な企業情報 |
| いつ | 法令で定められた期限等に従う | 開示すべき事実の決定・発生等の後、速やかに | 企業が判断したタイミング |
| どこに | EDINET等(開示書類・根拠法令により異なる) | TDnet | プレスリリース、自社IRサイト、TDnetの「PR情報」等 |
| 代表例 | 有価証券報告書、半期報告書、臨時報告書など | 決算短信、業績予想の修正、M&Aなどの重要事実 | 決算説明会資料、統合報告書、事業・製品に関する情報など |
IR広報がプレスリリースで取り扱う情報の多くは、右端の任意開示に当たります。法定開示と適時開示は、EDINETやTDnetでの開示が義務づけられており、プレスリリースはその代わりにはなりません。プレスリリースは、適時開示を済ませたうえでの補足発信や、任意開示の手段として使います。
三つの制度の詳しい違いはこちらの記事からご確認いただけます。
法定開示と適時開示は、表の通り出し方が法令やルールで決まっており、工夫の余地は多くありません。一方の任意開示は、出すかどうか・どの発信方法で届けるかを、企業が判断できます。この自由度があるからこそ、届け方によって結果に差が出ます。ただし、投資判断に重要な影響を及ぼす未公表の情報を、一部の投資家や市場関係者にだけ先に伝えることは避ける必要があります。IR広報では、公平な情報提供を前提として発信方法を設計することが重要です。
任意開示の価値は、何で決まるか
任意開示を行ったとき、受け手がその情報をどれだけ信頼し、判断や記事の材料として扱うかは、「誰が、どの発信方法で届けたか」によって異なります。同じ資料でも、投資判断の根拠として参照されることもあれば、その内容や存在が認識されないまま流されることもあります。
この「情報の価値」は、次の2つの要素に分けられます。
- 信頼性:発信元が確かで、情報源として信用されやすいか
- 到達先:情報が届く相手(機関投資家・個人投資家・アナリスト・記者など)の範囲
どちらか一方でも欠けると、情報の価値は正しく評価されません。内容が正確でも、届けたい相手に届かなければ、受け手にとっての価値は生じません。逆に広く届いても、発信元が信用されなければ、投資判断の材料としては扱われにくくなります。

到達先について、投資家の実態を示すデータがあります。日本経済新聞社が個人投資家1,667人に行った調査によると、財務や株価の情報を得る情報源として「新聞」を挙げた人は全体平均で44.6%。これに対し、「投資先企業のホームページ」は25.0%にとどまりました(出典:日本経済新聞社「個人投資家調査」2025年1月、調査機関:日経リサーチ)。
投資家が企業の情報に触れる経路は、企業自身の発信だけではありません。自社サイトに載せるだけでは、投資家の目に触れる機会は限られます。そして、信頼性と到達先はいずれも「どの発信方法で届けたか」で変わります。任意開示の価値は、中身を書き終えた時点では決まらず、どこに出し、誰に届けるかまで含めて決まります。
発信方法で、到達先と信頼性を高める
信頼性と到達先を広げるうえで重要なのが、自社サイトだけで完結させず、プレスリリースを通じて報道機関や経済メディアへ情報を届けることです。さらに、メディアがその情報を取材・編集し、記事として取り上げれば、企業自身の発信とは異なる第三者の視点が加わります。企業からの一方的な発信ではなく、第三者であるメディアを介して情報が伝わることで、受け手からの信頼を得やすくなります。
では、メディアによる第三者の視点には、どのような意味があるのでしょうか。個人投資家を対象とした調査によると、企業のIR情報に関する課題として「企業にとって都合の悪い情報が得にくい」が58.4%で最も多く挙がりました(出典:リンクソシュール「個人投資家の投資方針別情報収集動向についての調査レポート」2023年12月調査)。つまり、自社発信の情報は、受け手から「都合の良い面だけを見せているのではないか」という前提で読まれることが示唆されています。第三者であるメディアが記事として扱えば、この前提は変わると考えられます。
自社サイトでの発信は、自社とすでに接点のある層への情報提供が中心になりやすいという特徴があります。一方、プレスリリースをメディアに届け、メディアが記事として取り上げれば、企業自身の発信に加えて、第三者による確認や判断を経た情報として読者や視聴者に伝わります。これにより、情報に対する信頼を得やすくなります。
また、メディアを通じて発信されることで、そのメディアの読者や視聴者など、自社とこれまで接点のなかった層にも情報が届く可能性が広がります。第三者による記事化は、情報への信頼を高めるとともに、情報の到達先を広げる役割を果たします。
自社サイトに載せるだけでは、情報は自社発信のまま、既存の関心層にとどまります。これに対し、プレスリリースを信頼性の高いメディアに届け、第三者の目を通すと、到達先が自社を知らない層へ広がり、第三者から言及されることで情報の信頼性が高まります。


企業のプレスリリースを多くのメディアに届ける役割を担うのが、プレスリリース配信サービスです。企業・団体から発信された情報を、新聞社や放送局、雑誌、Webメディアなどへ届け、取材や記事化のきっかけをつくります。
共同通信PRワイヤーは、通信社である共同通信を母体とするプレスリリース配信サービスです。共同通信がニュース記事を新聞社や放送局などに配信するのに対し、共同通信PRワイヤーは企業・団体のプレスリリースをメディアへ配信しています。
通信社を母体とする強みは、単に多くのメディアへ情報を届けられることだけではありません。メディアとの関係性や、報道機関が情報を扱う際に重視する発信元の信頼性、情報の質やニュース性、正確性、速報性といった観点を踏まえて、配信サービスを設計しています。こうした背景から、配信されたプレスリリースが、メディアに「信頼できる情報ソース」の一つとして受け取られやすいことが、共同通信PRワイヤーの特徴です。
実際に、共同通信PRワイヤーで配信されたプレスリリースは、約70%が記事として取り上げられています(記事化率70%※)。第三者のメディアが記事にすることで、自社発信では届かない信頼と広がりが生まれます。
※記事化率は、2021年12月に国内メディアへ配信した532本を2022年2月まで追跡した数値です。紙媒体・WEBメディアが対象で、提携メディアへの転載は除外しています。
また、IRにおける情報発信では、どこに情報を届けるかも重要です。共同通信PRワイヤーの国内配信先メディアは約2,350媒体・約3,800カ所にのぼり、日本経済新聞などの産業経済紙、週刊東洋経済や週刊ダイヤモンドといった経済誌をはじめ、全国紙、地方紙、業界紙・専門紙、放送局、Webメディアなど、幅広いメディアをカバーしています。
全国紙をはじめとする幅広いテーマを扱うメディアに加え、地方紙や業界紙・専門紙など、特定の地域や分野に強みを持つメディアにも情報を届けることで、地域や業界ごとの多様な読者・視聴者との接点をつくることができます。
さらに、共同通信PRワイヤーでは、メディアだけでなく証券会社のアナリストにもプレスリリースを直接配信しています。新聞や経済メディアなどを通じて幅広い層へ情報を届けるルートと、企業分析を行うアナリストへ一次情報を直接届けるルートの双方を持つことで、投資家や市場関係者に情報が届く機会を広げています。
IR広報のリリース設計4原則
ここまでの内容を、実務の手順に落とし込みます。任意開示の価値は信頼性と到達先で決まり、どちらも発信方法で変わります。この考え方を、4つの原則として整理します。

原則1:制度開示と任意開示を切り分ける
まず、その情報が法定開示・適時開示・任意開示のどれに当たるかを確認します。義務のある開示は定められたルールに従い、設計の余地があるのは任意開示です。たとえば決算数値そのものは適時開示のルールに沿って出す一方、その背景にある成長戦略や事業の狙いは、任意開示として届け方を工夫できます。両者を混同せず、任意開示に工夫のリソースを向けましょう。
原則2:発信方法から設計する
何を書くかを固めてから配信先を考えるのではなく、届けたい相手を先に決め、その相手に届く発信方法を選び、それに合わせて中身を整えます。たとえば潜在的な投資家に届けたいなら、自社サイトへの掲載だけで終わらせず、経済メディアに届く発信方法を選ぶ、という順序です。信頼性と到達先は、発信方法で変わるためです。
原則3:公平な情報提供を前提にする
株価に影響しうる情報については、一部の投資家にだけ先に伝えることは避け、すべての投資家に同じタイミングで公平に届けます。発信方法を選ぶ際も、この公平性を前提にします。
原則4:届いた結果を確認する
出して終わりにせず、どこに届き、誰に記事化・参照されたかを確認します。どのメディアに取り上げられ、どの層に届いたかを見ておくと、次の発信で相手に合った発信方法を選びやすくなります。信頼性と到達先は、発信を設計する軸であると同時に、結果を検証する軸にもなります。
任意開示を伝わる情報にするチェックリスト
4原則を、発信前に確認できる項目にまとめます。
- この開示は、法定・適時・任意のどれに当たるかを確認したか
- 届けたい相手(機関投資家・個人投資家・アナリスト・記者など)を特定したか
- その相手に届く発信方法を選んでいるか。自社サイトに載せるだけで終わっていないか
- 株価に影響しうる情報を、すべての投資家に公平に届ける形になっているか
- 発信元の信頼性を高める発信方法を検討したか
- 投資家が接する経済メディアやアナリストへの到達を考えたか
- 届いた結果を確認する指標を決めているか
任意開示は、中身と届け方の両方で決まる
任意開示は、良い内容を書けば伝わるものではありません。同じ情報でも、その価値は信頼性と到達先で決まり、どちらも発信方法で変わります。
統合報告書を発行する企業がこれだけ増えても、投資家の半数が「情報が足りない」と感じている。この事実が示しているのは、開示の量を増やすだけでは十分ではない、ということです。何を書くかを考えるだけでなく、どこに出し、誰に届けるかまでを設計する。本記事で示した原則とチェックリストが、その設計の手がかりになれば幸いです。



