広報は経営機能である——発信屋さんを脱し、「信頼の蓄積」に変える視点

「広報の仕事が、単なる配信作業になっていないか」――。そんな課題を抱える担当者は少なくないはずです。 経営者の9割以上が広報を「経営機能」と認める一方で、現場ではその力が活かしきれていないギャップがあります。本稿では、大手新聞社記者や上場企業の広報部長を経て、現在はベンチャー企業の広報責任者を務める中釜由起子(テックタッチ株式会社 Head of PR/Marketing)が、その突破口を提示。広報実務に関する書籍の執筆も手がける筆者が、日々のプレスリリースを「作業」から「経営の約束」へと昇華させ、広報が「社長の右腕」へと進化するための視点と技術を解説します。

1. 「情報の流通」に留まる広報の限界

広報担当者の日常は、常に「発信」のプレッシャーの中にあります。 次々に生まれる新製品のニュース、社内イベントの告知、経営層からの急なリリース依頼。それらをいかに速く、正確に、そして多くのメディアに届けるか。日々の業務が「情報の流通(デリバリー)」に終始してしまっている現場は少なくありません。

しかし、広報(PR)の真価は、単なる情報の伝達にあるのでしょうか。 どれだけ効率的にリリースを配信し、一時的な露出を獲得したとしても、その情報の背後に「なぜ、今、私たちがこれを行うのか」という思想が欠けていれば、社会の共感を得ることは難しく、企業の信頼資産として積み上がることもありません。 広報の役割を「情報の出口」としてのみ捉えている限り、その機能が経営の中核として認められることは稀です。今、私たち広報担当者に求められているのは、実務としての「発信」の前段階にある、「価値の定義」という経営的なプロセスに踏み込むことです。

2. 認知と信頼が経営を左右する ― 広報が担う「見えない価値」

実際、広報を経営機能として捉える考え方は、現場の経営者の間でも広がっています。日本広報学会が2024年に実施した調査では、経営者の95.2%が「広報は経営機能である」という考えに賛同しています(※)。

しかし、そこには大きなギャップがあります。重要性は理解しつつも、「具体的にどう経営機能として活かすか」の設計図が描けていないのです。

広報を経営機能とするために避けて通れないのが「リーダーの関与」です。広報を「余裕がある時の作業」と捉えるか、「経営の根幹」と捉えるかで組織は激変します。信頼はお金で買えず、日々の姿勢の積み重ねでしか築けません。だからこそ、広報担当者がすべてを肩代わりするのではなく、経営者自身の言葉で「自社の価値」を整理してもらうプロセスが必要なのです。 完璧な文章である必要はありません。経営者に自ら思考してもらい、言語化のプロセスに関与することこそが、「広報=他人事の作業」から「PR=自分事の経営戦略」へと意識を塗り替えるのです。

※日本広報学会:上場企業経営者を対象とした「広報の定義」に関する意識調査(2024)https://www.jsccs.jp/info/news/press-release-2025-03-18.html

3. 「広報」を「PR(パブリック・リレーションズ)」へと捉え直す

では、経営者が自ら語りたくなるような「経営の設計図」を、広報はどう提示すべきか。その鍵は、「広報」と「PR」という言葉の捉え方の違いにあります。
一般的にイメージされる「広報」が、情報を広く報じる「伝える技術(伝達)」に重きを置いているのに対し、本来の「PR(パブリック・リレーションズ)」とは、社会(パブリック)との良好な「関係性(リレーションズ)」を構築・維持する活動そのものを指します。例えるなら、「広報」が建物という成果物を魅力的に見せる「装飾」に近い役割だとすれば、「PR」はその建物が建つ「地盤」を整えることに似ています。どれほど立派な情報を発信しようとも、社会との関係性という地盤が揺らいでいれば、その発信は砂上の楼閣に過ぎません。
広報(伝達技術)を、PR(社会との関係構築という経営機能)へと昇華させる。この視点を持つことで、初めて経営者と「地盤(企業の在り方)」について対話できるようになります。

PRとは、社会という大きなコンテクスト(背景)の中で、自社がどのような旗を掲げ、どのような責任を果たしていくかという「経営の根幹」です。この地盤が強固であって初めて、広告による認知拡大や、採用における人材獲得、あるいは営業活動といった、あらゆる企業活動が最大化されるのです。

4. プレスリリースは、社会と結ぶ「最初の約束」

とはいえ、いきなり『言葉にしてください』と言っても、多忙な経営者は戸惑うかもしれません。そこで、広報担当者が「社長の右腕」として並走すべき具体的な舞台が、プレスリリースです。

私たちが日常的に作成しているプレスリリースは、単なる報告書や告知ツールではありません。その本質的な価値は、配信された結果だけでなく、作成するプロセスそのものにあります

「なぜ、この事業が社会に必要なのか?」
「私たちが提供する価値は、誰の、どんな未来を支えるのか?」この問いに向き合い、自社の意志を言葉を尽くして「公(パブリック)」に耐えうる形に翻訳する。この言語化のプロセスこそが、経営の解像度を高める極めて重要な意思決定です。そうして世に出るプレスリリースは、メディアに向けた単なる情報提供ではなく、会社が社会に対して結ぶ「最初の約束」になります。この視点を持つことで、一本のリリースは「単なる配信作業」から「経営の基軸を整える起点」へと昇華されるのです。

「世界一わかりやすいPR×マーケティングの教科書 記事露出を確実に売上に変える、連携KPIの基本」中釜由起子 著

5. 経営者の「想い」を「社会の価値」へ翻訳する技術

では、広報担当者が「情報の伝達者」から「社長の右腕」へと歩みを進めるためには、具体的に何をすべきでしょうか。経営層や事業部から「これをリリースしてほしい」と言われたとき、私たちはつい「いつ、どこに出すか、情報が正しいか」という、情報の出口と装飾に目を向けてしまいがちです。しかし、そこには決定的な「問い」が欠けてはいないでしょうか。

  1. 「必然性の抽出」: なぜ、他社ではなく「私たち」が、今このタイミングでやる必要があるのか。
  2. 「受益者の特定」: この取り組みによって、社会のどの部分に「光」が当たり、誰の課題が解消されるのか。
  3. 「未来の解像度」: 5年後、10年後の社会において、この活動はどのような変化をもたらしているべきか。

経営者の頭の中にある熱量を、そのまま外に出しても、社会の文脈に合っていなければ共感は得られません。反対に、社会のニーズを意識しすぎるあまり空虚な宣伝に終始してしまえば、自社の「芯」を見失ってしまいます。

広報は、記事のネタ探しや経営者が言いたいことをそのまま言語化する”発信屋さん”ではありません。社会の視点を組織に持ち込む立場から、経営に問いを投げかけ、企業の「芯」を言葉にしていく「社会と企業の翻訳者」なのです。広報担当者が経営者とともにこの問いを深めることで、発信されるメッセージの説得力が増し、メディアの記者が「報じるべき価値」を見出す確かな根拠となります。

6. 信頼という「資産」を可視化する指標

「広報の成果は目に見えにくい」という課題に対しても、経営視点を持つことで新たな答えが見えてきます。 短期的なパブリシティの「数」を追うだけでなく、広報がどれだけ「信頼の貯金」を作れたかを指標化する視点が必要です。

例えば、「指名検索数(自然検索数)」の推移は、その企業が社会から「気になる存在」「信頼できる相談相手」として認識されているかを示す、極めて純度の高い指標です。また、採用における応募の質や、営業現場での顧客からの信頼感の醸成など、広報が整えた「地盤」が、いかに他部門の成果に寄与しているか。 こうした「経営指標への寄与」を語れるようになること。それこそが、広報が「コスト部門」ではなく「投資部門(資産形成部門)」として社内で正当に評価されるための鍵となります。

7. おわりに:作業を「資産」に変えていく

メディアと事業会社、その両面を経験してきた私から、今、現場で自らの役割を模索している皆様に伝えたいことがあります。

広報は、会社の中で最も「社会と経営の接点」に立つ、高い視座が求められる仕事です。 日々の配信作業やメディア対応に追われる中で、つい「手段」が目的化してしまうこともあるでしょう。しかし、私たちが紡ぐ一つ一つの言葉が、社会との信頼の架け橋になり、企業の未来を形作っていく事実は変わりません。

PRは派手な成果を速効で約束するものではないかもしれません。しかし、企業や自治体の未来を静かに、そして力強く支える「確かな経営基盤」であり、積み上がるほどに輝く「信頼の資産」なのです。 目の前の作業を、社会との合意形成という「経営機能」へと引き上げていく。その高い視座を持つことが、あなた自身を、そしてあなたの会社を、より強く、しなやかな存在へと変えていくはずです。

この記事の筆者

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PRwire編集部

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