赤ちゃんの誕生や新動物の入園など話題豊富な動物園
PRワイヤーは強力な武器になる
-広報の体制について教えてください。
鈴木 専任2人とSNSで対応している私とで3名。売店のグッズ販売責任者と外部のPR担当者も入れると8名ですね。多い方だと思います。中心的な業務はリリースの発信で、情報のピックアップや現場との調整をしています。リリースは、メディアを通して私たちのメッセージを一般の方に伝えるための手段ですね。
-さまざまなSNSと組み合わせていると思いますが、リリースとはどういう存在ですか?
鈴木 スタートアップのきっかけや導入時に非常に重要です。日々情報の発信を続け集積できることがSNSの良さですが、リリースは戦略性を持って何かを立ち上げたり広がりを作ったりする時のきっかけになります。
-PRワイヤーを知ったきっかけと導入までの経緯は?
鈴木 かれこれ20年近く前、観光協会の理事をやっていた時にも情報発信にPRワイヤーを使っていて、この手法っていいなと思っていましたので、那須どうぶつ王国でも採用しました。契約前は、メディアから取材申し込みがあっても現場の都合などでお断りするケースも多かったんですが、現園長の新体制になってから営業・広報の強化という流れができ、その中で必然的にPRワイヤーを採用しました。
-取材の申し込みを断ることがあったんですか?
鈴木 運営が変わる前の体制では飼育現場の業務が最優先で、利潤の追求につながるメディアの活用とは相容れないことも多かったかもしれません。民間の動物園でも運営する企業によってメディア対応には温度差があります。那須どうぶつ王国の場合は、私どもの理念や直接お伝えしたい内容が伝わる報道や番組なら、基本的には全面協力しています。また、当園の理念に添わない場合は、はっきりとお断りすることもあります。
-PRワイヤー採用の決め手は?
鈴木 メディアの皆様にしっかりと情報が伝えられる仕組みがあること。動物園では常に情報が豊富にあり、恵まれた環境にありますが、そんな動物園こそPRワイヤーを活用して情報の発信を積極的にやっていこうと。その武器になると考えて即、採用しました。
-2010年2月に年10回配信いただける年間プランにご契約いただきました。広報業務に変化はありましたか?
鈴木 はい。リリース配信は正確性を求められますし、野生動物に関しての発表は非常にデリケートな部分があります。間違った情報は会社の信用を傷つけますから園長と広報、現場の間でしっかりとしたコミュニケーションが必要になってきます。その結果として、社内の部署同士の連携・調整や、園長との確認作業などがスムーズにできるようになりました。
細かくセグメントされたメディアリストを
地方からの情報浸透にも戦略的に活用
-従来から地元の記者クラブにも情報提供していますよね。
鈴木 那須塩原市にある記者クラブには十数名のメディアの方がいて、情報交換のための懇親会も毎年1、2回やっています。基本的には、地元の記者クラブを優先し、その上でPRワイヤーでも発信します。私はリリースを「生きた媒体」だと思っていて、例えば戦略性を持って発表するときに、記者の方に「何か適切なアドバイスはありませんか」とご相談することもあります。その中でしっかりした生きた情報を生きた表現で戦略性を持って出す。そうして出来上がったリリースを記者の方へ配布するのと同時にPRワイヤーを通じてウェブ上でもメディアに配信するという、その両方が非常に重要です。
-リリースを出す基準はありますか?
鈴木 今年、カピバラが那須どうぶつ王国内の温泉につかっている写真がニューヨーク・タイムズで採り上げられるという驚きの出来事がありましたが、あれは実は定番の行事。そんな風物詩のようなニュースもあれば、動物の赤ちゃんの誕生や新しい動物の入園などの随時のものもあります。それに加えて、今年11月6日を期限に希少動物たちの命をつなぐための資金調達を目的としたクラウドファンディングを行った時のように、新しいお客様と新しい価値観を作るような、実験的な意味合いでリリースを出す場合もあります。とてもチャレンジフルですけど、非常に重要です。それによって新しい芽が出てくる。チャレンジは進化するためには不可欠です。
-動物からヒトの姿へと変化したフレンズたちが大冒険を繰り広げるメディアミックスプロジェクト「けものフレンズ」ともコラボしましたね。
鈴木 このコラボは3年間継続的にやってきました。漫画好きなコアな層に合わせてPRワイヤーの配信カテゴリーを選択して発信したのは効果的だったと思います。漫画を通して野生動物への興味、関心につなげる試みは「けものフレンズ」の他にも、シートン動物記の挿絵を描かれている世界的にも著名な漫画家姫川明輝先生から、クラウドファンディングで絶滅危惧種のライチョウの保全をテーマにして描き下ろし漫画をご提供いただきました。
-状況に応じて時には俊敏に動いて、社会に共鳴させていくということですか?
鈴木 今回のクラウドファンディングに関しては、「希少動物たちを救いたい」、このメッセージの大きな広がりをつくるためにリリースを出しました。実際に支援をいただいたり、ウェブ上で検索する動機付けになったりしましたし、募集期間中に希少な国内固有種であるツシマヤマネコの「けものフレンズ」がデビューして、返礼品のリリースを配信できたのも幸運でした。
-PRワイヤーの利用を始めて新たに感じたことは何ですか?
鈴木 人口の多いエリアだけではなくて、「エリアカテゴリ」という分類のメディアリストがあるので地方メディアに絞って情報発信できるのはすごくいいと思いました。川上から川下へと情報をじわじわと浸透させていくやり方はできそうでできません。広範囲に、地方から浸透していくような感じが絶対に必要なんですが、今のメディアの使い方だとそこが難しいんです。ですから、都道府県を設定して情報発信できる「エリアカテゴリ」があるのは、PRワイヤーの強みだと思っています。それから、若い方は今、テレビを見ませんよね。さらに裾野を広げるためには、それぞれに特徴の違うSNSもミックスしながら戦略性を持って発信する必要がある。希少動物を救うというメッセージは非常に直球で、さらに大きく広がる可能性があると思っています。もっと広げるために今後も共同通信PRワイヤーを活用し、さらに大きな流れにできたらなと思っています。
スナネコの可愛さに惹かれた人も取り組みに共感
クラウドファンディングが生んだ流れ
-旭山動物園の危機と奇跡的な回復という出来事があってから、動物園自体がどういう志を持ってやっているか、
そしてそれをメッセージとしてどう伝えていくかということが問われる時代に突入しましたね。
鈴木 動物園の存在意義が問われていると思います。弊社の社長がよく言うのですが、140年近い日本の動物園の歴史のなかで、飼育技術や積み重ねてきたノウハウがいろいろあります。ですから、動物園の役割はレクリエーションの場としてだけではなく、野生下で絶滅の危機に瀕している動物たちを守るためにその技術やノウハウを実際に活用するという段階に入ってきている。そこを那須どうぶつ王国は積極的にやっていきたいというメッセージを今回、クラウドファンディングを通じて皆さんに投げ掛けたわけです。
-一般の人からの受け取られ方に変化は?
鈴木 何か惹き付けるものが必要だということで今回は、当園でも赤ちゃんの誕生などで人気の、砂漠に生息する野生ネコ「スナネコ」をメインにしました。あの可愛さは格別ですから(笑)。やはり可愛さに惹かれて動物に関心を持つ皆様が多いのは事実ですが、その方々が野生動物の現状を知り、那須どうぶつ王国にご来園いただき保全を身近に感じ「取り組みに共感した」とおっしゃっていただけるなど、うれしい流れが一つ生まれました。野生動物の保全に関心を持つ方は多いが、自分がどう貢献すればいいのか、どこに(自分の意思やお金を)託せばいいのかが分かりにくかったのだと思います。
-新型コロナウイルスの影響は大きいですか?
鈴木 8月の段階で6割減という厳しい状況です。秋にはGoToトラベルの効果もあり、少しほっとしたところですが、来春もまだ状況が不透明な状態なので、今までと同じようなプロモーション展開、費用感では厳しい。まさに、新しい価値を作って収益を上げることが必要です。クラウドファンディングでは3500人の方に支援いただいて、しっかりと信頼関係ができました。ファンの皆さんと双方向で情報交換しながら、動物のための動物園づくりを一緒にしていきたいですね。それと、今まで同様に那須地域との関わりの中から何か新しい価値を生み出せないか?ということも常に考えています。
-職員の方のプレスリリースに対する気持ちは変わってきていますか?
鈴木 クラウドファンディングでは私から指示もしましたが、基本は各現場の広報担当それぞれに判断してリリースを発信していて、職員の意識も知識も向上しています。現在の年10回の配信ペースが倍になっても、情報をセレクトして出していけると思います。
-動物園は娯楽施設ですが、研究機関でもあり、教育機関的な側面もあります。それらをリリースに乗せていくということは考えていますか?
鈴木 国内ではしっかりリリース配信をできていると思いますが、海外への発信は課題だと思います。私たちは海外の動物園関係者にとっても重要な取り組みをしていますが、発信した情報が海外の媒体に届かない。ライチョウの保護増殖事業を行っておりますし、希少な動物の保全活動をしっかりと海外に発信していきたいです。
-他に広報の課題はありますか?
鈴木 会社の魅力をどう伝えるか考えるのはすごく面白いこと。どんな企業にも顧客に響くメッセージは必ず持っている。今回は私たちが取り組んできた「希少動物の保全」に焦点を当てましたが、それを分かりやすく表現する作業は経営そのもの。企業価値だったり、企業が社会的に必要な意味だったり、そういうことを全員が考えながらリリースを作ることはある意味プレゼンテーション。リリースは表現の場でもありますから、魂のこもった力強い、そして温もりのある、もっと魅力的な表現にできるはずだと考えています。
那須どうぶつ王国
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