メルマガからリリース配信へ切り換えた決め手は
科学技術の専門分野に特化した配信カテゴリ
―WPI-MANA設立の経緯を教えてください。
中山 世界に通用する、世界から見える研究所を作ろうと2007年に「World Premier International Research Center Initiative(WPI:世界トップレベル研究拠点プログラム)」が文部科学省の事業として発足しました。東北大、東京大、京都大、大阪大の4大学と物質・材料研究機構からの提案が採択され、それぞれWPI拠点を作りました。現在は14のWPI拠点が世界トップレベルの研究を推進しています。WPIプログラムは、優秀な研究者を引き込んで頭脳循環を促し、さらに研究支援の体制を充実させた研究システムを作り上げるというものでした。WPI-MANAは、ナノテクノロジーを駆使して物質・材料開発に新機軸を生み出す研究拠点として、物質・材料研究機構(NIMS)内に発足しました。ナノを使った建築学、「Nanoarchitectonics(ナノアーキテクトニクス)」というコンセプトを掲げており、この研究拠点に来ればこんな面白いことができる、という情報発信に力を入れています。
―どんな手法で情報を発信しているのですか?
中山 ホスト機関であるNIMS(国立研究開発法人 物質・材料研究機構)の場合、プレスリリースは国内の新聞社を主要な対象として発信していますが、WPI-MANAでは、世界中の関連研究者、関連機関に対してメールマガジンを通じて、研究成果を配信していました。しかし、メールマガジンの場合は、開封したかどうか、本当に読んだかどうかを判断するデータ取得が難しく、ワイヤー配信への切り換えを決断しました。
―共同通信PRワイヤーに着目したきっかけは?
中山 しばらくは、メルマガ配信用の記事を書いていた方などを通じて独自にリリース配信をしていたのですが、思ったほど閲覧数が伸びず、配信方法の見直しを行いました。アウトリーチチームから「これだけのメディア数の配信先を扱っている会社があります」という報告を受け、科学技術関係やIT関係がまとまった配信先カテゴリを提供する共同通信PRワイヤーに目がとまりました。配信方法の見直しと同時にリリースで紹介する研究成果の書き方も再検討して、リリース配信を仕切り直す事にしました。最初は様子見で、年間契約ではなく1回ずつの契約でスタートしました。
―そのころの感触はいかがでしたか?
中山 反響がポンと伸びましたね。メールマガジンは2,000通送っても、開封されているのは数%だろうと想定していましたが、共同通信PRワイヤーで配信後の閲覧数は、その想定数を上回っていて、「明らかに伸びた」という印象を持ちました。
海外リリース配信が論文の引用や注目度に影響
北米回線にヨーロッパ化学回線を追加し閲覧数も急増
―研究者は、世界の研究成果をどうやって入手しているんでしょうか?
中山 研究者は、自分が研究する分野に近い論文は良く読みますが、ちょっと離れた分野の論文を深く読もうとは思いません。そもそも読んでみようという気にならない事がほとんどです。ところが、たまたま研究成果を見た研究仲間などから「こんな研究があるみたいですよ」という情報を得ると、その紹介記事や論文を見てみようかという気になるんです。情報を発信する側のスタンスとしては、周りから情報を流し込んでいくという感じです。薄く広く情報の網目を張り巡らせることで、様々な重要情報に行きつく経路を準備するイメージですね。
―その後も海外リリース配信を続けていただいていますが、どのようなメリットをお感じですか?
スノー 2021年3月からは「全米US1回線」に加えて「ヨーロッパ化学回線」にもリリース配信をしたところ、直接、研究内容に関するお問い合わせが増えた印象があるという研究者の方が何人かいらっしゃいました。
中山 サイトでは論文を引用してもらえた数を表すサイテーションの前段階の、いろんな人が注目していることを表す「Altmetrics(オルトメトリクス)」という指標が表示されていることがあります。これは「ネットで何件とり上げられました」というようなことを表す数字で、それが高いと注目度が高いと認識されます。
スノー 「MANA E-BULLETIN」で紹介された研究成果のオルトメトリクススコアが、共同通信PRワイヤーを通して配信した後に上がったと伝えてくださる研究者もいらっしゃいました。見える形で効果があり、続けていて本当に良かったなと思いました。
―PRワイヤーでの配信が学術論文の専門サイトでの反響に影響したということですね。
中山 「MANA E-BULLETIN」では、1件のFeature記事と3件のResearch Highlight記事、合計4件の記事を纏めてひとつの号として専用ウェブサイトで発信、紙面版で発刊しています。それらの記事を個別にPRワイヤーを通して世界配信しています。面白いのは、各記事の閲覧数をまとめた資料を見ると、PRワイヤーを利用してからグンと伸びているんです。コロナ禍以降、ネットを見る方が増えたことが影響してか、さらに伸びました。プロの方に依頼し、Research Highlightのイメージ画像をCGにして研究内容を視覚的に理解しやすくしたことで、またグンと上がり、さらにPRワイヤーで「ヨーロッパ化学回線」を追加した結果、閲覧数が大幅に伸びて、全体に大変良い反響がありました。
スノー 英語以外に(ヨーロッパ化学回線に含まれる現地語訳による)フランス語、ドイツ語、スペイン語と、それぞれの言語ごとにも伸びていますから、全体としては3倍ぐらいにはなっていると思います。
――なぜ「ヨーロッパ化学回線」を追加したのですか?
中山 ヨーロッパにも科学技術系の専門サイトがたくさんありますし、そうしたメディアが含まれているパッケージ回線をお願いしたという感じです。
世の中に科学の意味と必要性を伝える
科学コミュニケーション人材の育成が課題
―「MANA E-BULLETIN」はどのように作っているのですか?
スノー WPI-MANAの若手研究者を中心とした編集委員会を設け、その編集会議でいろいろな候補を挙げて、かなり検討を重ねて記事にする研究成果を選出します。
―今どんな情報が求められているかに敏感な若い研究者が編集委員になるというのは、とても意味のあることですね。
中山 ありがとうございます。名前の上では、私が編集委員長になっているんですが、選定は若い世代に託すようにしています。
―「MANA E-BULLETIN」の記事は、研究者自身が書くのですか?
スノー 外部のネイティブのサイエンスライターに依頼しています。専門用語などは研究者と確認作業を行います。
中山 研究者に書かせると専門的すぎる書きぶりになりがちです。ある程度ニュースを読めるライターに論文を渡して、どう感じ取るかを文章に起こしてもらい、後は科学的に見て本当に間違っているところがないかを研究者がチェックします。
―直径8mmの金(Au)の表面上に載せた分子を車に見立て、針を近づけることで電気を与えて走らせる「ナノカーレース」が今年3月、5年ぶりに開催されることが話題になっています。
中山 「ナノカーレース」に関しては、研究者向けではなくて一般向けの発信です。普段リリースを配信すると3、4紙の新聞に掲載されるというイメージであるのに対して、「ナノカーレース」に関しては10紙を超え、テレビ取材もあります。目新しく親しみやすいニュースだと映っているのでしょう。
―今後の広報戦略や抱えている課題があれば教えてください。
スノー 動画配信に力を入れたいという願望があります。研究グループやラボの活動紹介や、可能であれば機構内ラボツアーをバーチャルで開催したいです。
中山 アウトリーチする際には「取材」が必要ですが、研究者には大きな負担をかけることになります。その負担をいかに減らすかが、広報の一番の課題。これを解決しないとアウトリーチに協力してくれる研究者も増えません。それを解決するために、最近は大学でも教えている「科学コミュニケーション」が必要です。ただし「科学にはこういう意味がありますよ、役に立ちますよ」ということを世の中に伝える人材に対して与えられるポジションが日本にはまだ少なく、安定した職業に就いている方は少ないんです。日本の科学技術を支える重要な専門職だと、私は思いますし、そういう才能や技能を持つ人材の充実が、研究者にかかる負担もの軽減につながると思っています。
WPI-MANA 公式Webサイト | https://www.nims.go.jp/mana/jp |
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ナノカーレース2NIMS-MANAチーム公式Webサイト | https://www.nims.go.jp/mana/nanocarrace2/ |
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YouTube | 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点(MANA) |
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