「戦略的かつ効果的な広報が不可欠」 骨太方針2026を企業広報の側から読む

7月21日に閣議決定された骨太方針2026は、第1章の最後を広報の話で締めくくった。同じ文書の脚注には、官民で投資を集中させる17の戦略分野と62の製品・技術の名前が並ぶ。ゲームもアニメもマンガも入っている。政策の文書だが、企業の広報にも読む理由がある。

港のコンテナターミナルを真上から撮った写真。色とりどりのコンテナが整然と並び、岸壁のガントリークレーンの下にコンテナ船が停泊している
写真はイメージ

7月21日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2026」、いわゆる骨太方針の第1章は、次の一文で締めくくられている。「本基本方針を含む内閣の重要政策の実現には、戦略的かつ効果的な広報が不可欠である」。続けて、ネット動向の把握、動画発信、テレビや新聞を通じた発信の強化などを並べ、「内外への効果的で戦略的な政策発信・コミュニケーションを抜本強化する」と結ぶ。印刷版で3ページ目、内閣の政策の方向性を述べた章の、最後の一段落である。

政府の広報の話、と読み飛ばす前に

書かれているのは政府自身の広報である。企業の広報担当者には他人事に見えるかもしれない。ただし、同じ文書の別のページを開くと、話は民間の側にも及んでいる。

骨太は1ページ目で、主要先進国において「官民が連携して大規模かつ長期的な財政支出を伴う産業政策が大きな潮流となっている」とし、これを「経済財政運営の在り方そのものに関するコペルニクス的転回」と表現した。そのうえで、官民の投資を集中させる分野を、名前で書き出している。

同じ向きの動きは3月にもあった。世界銀行が3月17日に「Industrial Policy for Development(意訳:発展のための産業政策)」と題した政策研究レポートを公表し、チーフエコノミストのインダーミット・ギル氏が同日のブログにこう書いた。

1993年の報告書「東アジアの奇跡」の助言には、今日のフロッピーディスク程度の価値しかない。世銀は産業政策に汚名を着せることに加担した。

インダーミット・ギル氏のブログ(2026年3月17日・引用は本記事の訳)

産業政策に長く否定的だった機関が、勧告を改めた形になる。ただしこのレポートが主に想定しているのは途上国で、関税や広範な補助金には引き続き警告している。骨太が世銀を引用しているわけでもない。同じ時期に同じ方向へ動いた、という程度に見ておくのが正確だろう。

産業政策をめぐる同じ時期の別々の動きの図。左は3月17日に世界銀行が政策研究レポート「Industrial Policy for Development」を公表したこと、右は7月21日閣議決定の骨太方針2026が産業政策の潮流をコペルニクス的転回と表現したことを並べ、骨太が世銀を引用しているわけではないと注記している
出典:World Bank「Industrial Policy for Development」(2026年3月17日)/内閣府「経済財政運営と改革の基本方針2026」(2026年7月21日閣議決定) 作図:汐塾

産業政策そのものの是非は、本稿の扱う話ではない。ここで注目したいのは、政府が「この分野で官民投資を進める」と名指しで書いた文書の公開が、企業の発信に影響しうるのかという点だ。

閣議決定の脚注に、62の製品・技術が並んでいる

骨太の脚注には、17の戦略分野の名前が並ぶ。AI・半導体、量子、防衛産業、航空・宇宙、造船、創薬・先端医療、防災・国土強靱化、フードテックといった顔ぶれで、最後の17番目がコンテンツである。

別の脚注では、その中の「主要な製品・技術等」62項目が、ひとつ残らず名前で書き出されている。永久磁石、グリーン鉄、植物工場、陸上養殖、食品機械と続いたあと、脚注はこう終わる。「ゲーム、アニメ、マンガ、音楽、実写の62個」。この62項目については、2040年度までの累計で370兆円を超える官民投資が想定されると、本文にも書かれている。

官民投資を集中させる17の戦略分野の一覧図。1番のAI・半導体から17番のコンテンツまでを番号つきで並べ、17番コンテンツの中身としてゲーム、アニメ、マンガ、音楽、実写の5項目を示している
官民投資を集中させる17の戦略分野。名称・順序は脚注6の原文どおり。出典:内閣府「経済財政運営と改革の基本方針2026」(2026年7月21日閣議決定) 作図:汐塾

同じ日に日本成長戦略本部が決めた「官民投資ロードマップ」を開くと、62項目それぞれに5ページずつが割かれ、全体で324ページある。書式はどれも同じだ。現状認識と目指す姿、勝ち筋、投資額、課題、講じるべき政策パッケージ。たとえばゲームの項は、日本発ゲームの海外市場シェアは12%、家庭用ゲーム機市場では約半分を占める一方でモバイルとPCでは数%に満たないと、市場ごとの強弱を具体的に示している。

広報の実務に引きつけて言えば、国が自分たちの産業をどう呼び、どこが強くどこが弱いと見ているかが、誰でも読める形で公開された。自社の事業は62項目のどれに当たるのか。ぴたりと当たらないなら、どの語がいちばん近いのか。一度照合しておくと、リリースに背景の1段落を足せる。記者に「なぜ今これなのか」を一から説明する手間が、その分だけ減る。

需要が制度から生まれると、発信の相手が増える

骨太には、需要の作り方も示してある。複数年度にわたる予算措置、政府調達や規制改革による初期の需要づくり、国際標準づくり。スタートアップについては、政府調達に占める比率3%目標の早期達成と、研究開発への補助を政府調達につなぐSBIR制度(中小企業技術革新制度)の抜本強化が挙がる。

買い手として政府が前に出て、規格や規制が市場の入り口を作る。そうなると、発信の相手に省庁や審議会、規格を決める場が加わる。「パブリックアフェアーズ」と呼ばれてきた仕事だが、専任の担当を置ける会社ばかりではない。専任を置けない会社でその役目を実際に担うのは、プレスリリースであり、業界団体での発言であり、審議会の資料に事例として引かれる自社の実績である。制度をつくる側が、PR(パブリック・リレーションズ)における「パブリック」として、改めて具体的な存在になる。

骨太は、概算要求の段階を含む予算編成の過程で施策を具体化し、見直していくとも書いている。実際、7月30日には2027年度予算の概算要求の方針が閣議了解され、こうした投資のために、通常の歳出とは別の『「強く豊かな日本」投資枠』が設けられた。この枠は要求の上限を設けず、必要な額を要求できる。もっとも、要求がそのまま通るわけではなく、中身は予算編成の過程で精査される。各府省が要求を出す期限は8月末日。自社の分野で何がいくら要求されたかは、秋に出す発表の背景に使える。

概算要求のルールの対比図。左は要求の段階で「強く豊かな日本」投資枠は要求上限を設けず所要額を適切に要求できること、右は予算編成の段階で歳出全般の重点化と通常歳出との関係の精査が行われることを、閣議了解文書の原文引用で示している
「」内は閣議了解文書の原文どおり。出典:財務省「令和9年度予算の概算要求に当たっての基本的な方針について」(2026年7月30日閣議了解) 作図:汐塾

申請書を出す前に、決めておきたいこと

支援を受ける側から見れば、良いことばかりではない。補助金を受け取るか、政府調達を受注した瞬間から、その会社は税金の入った会社になる。製品の不具合でも事業の撤退でも、説明を求める相手に納税者が加わる。国が名指しした分野には、批判も具体的に向けられやすい。

補助金を受け取るか政府調達を受注した日から、その会社は「税金の入った会社」になり、説明を求める相手に納税者が加わることを示した概念図
記事本文の記述をもとに図式化。作図:汐塾

だから、申請書を書く前に決めておきたいことが二つある。「なぜ自社なのか」を公募要領の言葉ではなく自分の言葉で言えるようにしておくこと。そして、支援を受けた事業について何をどこまで公表するかを、社内で先に決めておくこと。採択されてから考えはじめると、最初の取材で答えに詰まる。

官民投資ロードマップのゲームの頁には、投資の話に混じって、こんな注記が置かれている。「※前提として、クリエイターは政府から作品の中身に口を出されることなく創意工夫により自由に創作を行う」。国が産業を名指しする一方、その文書には、政府が作品の中身に口を出さないことも明記されている。

企業の発信も、似たところに気をつけることになるのだろう。政策の言葉は通りがよく、その表現を借りれば自社の取り組みを手短に説明できる。ただ、借りた言葉ばかりの発表文は、どの会社のものか分からなくなる。骨太方針の決定からひと月あまり。各社の発信が実際にどう変わるかは、まだ見えていない。ひとまず手元でできるのは、62項目のリストを開いて、自社の事業が国の言葉で何と呼ばれているかを確かめることくらいだ。

この記事の著者:金光成珠

出典:内閣府「経済財政運営と改革の基本方針2026」(2026年7月21日閣議決定)/日本成長戦略本部「戦略17分野における『主要な製品・技術等』の官民投資ロードマップ」(2026年7月21日決定・PDF)/「日本成長戦略」(2026年7月21日閣議決定・PDF)/World Bank「Industrial Policy for Development: Approaches in the 21st Century」(2026年3月17日)/Indermit Gill「The right way to do industrial policy」(World Bank Blogs・2026年3月17日)/財務省「令和9年度予算の概算要求に当たっての基本的な方針について」(2026年7月30日閣議了解・PDF)

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