ナフサ不足を「値上げ告知」で終わらせない。危機を発信機会に転換する5つの広報視点

値上げ告知の文面を整えるだけで終わらせていないか。カルビーは白黒パッケージの一枚で政府発表レベルの認知に到達した。ナフサ不足はいま広報担当者にとって、平時には語りにくかった「自社の構え」を社会に示せる、稀有な発信機会へと姿を変えている。

2026年春以降、多くの企業がナフサ由来製品の値上げ・出荷制限の通知に追われている。本稿は、政府発信と現場感覚がズレる「川上・川中・川下の三層構造」を記者視点で解き、カルビー白黒パッケージなど先行事例を踏まえて、「値上げ告知文」で終始せず、自社の構えそのものを社会に伝える5つの切り口を提示する。BCPの可視化、代替原料の前倒し発信、両面併記+自社主語の説明責任型など、明日のプレスリリース発信の設計に直結する論点を1本にまとめた。

危機の最中にこそ、広報の差が出る

2026年春以降、化学・建材・住宅・塗料・印刷など、ものづくりに関わるあらゆる業界で「ナフサ不足」という言葉が経営会議の議題に上るようになりました。帝国データバンクの試算では、国内製造業のおよそ3割がナフサ関連製品の調達リスクに直面する可能性があると発表されています。

「ナフサ関連製品」サプライチェーン動向分析調査
出典:帝国データバンク

多くの企業で値上げ・出荷制限・納期調整の通知が相次ぎ、広報担当者のもとには「お客様への説明文を整えてほしい」という社内依頼が続々と入ってきているのではないでしょうか。

ここで広報担当者に問いたいのは、「値上げ告知文」を出して終わりにしてしまっていないか、ということです。原材料危機は、企業のサプライチェーン、技術力、責任意識を社会に示す絶好の機会でもあります。同じ事実でも、伝え方一つで取引先の信頼度合いやメディアの関心度は大きく変わります。

政府発信と現場感覚の「温度差」を理解する

政府は「全体量は確保」と発信し、現場は「来ない」と訴える——同じ事実のはずなのに、なぜここまで温度差が生まれるのか。

ナフサのサプライチェーンは大きく川上(原油精製・石油化学メーカー)川中(商社・卸)川下(中小製造業・最終加工業)の三層に分かれており、それぞれ見えている景色が異なります。川上から見れば「日本全体として必要な量は確保している」は事実です。しかし川中では大口・長期契約への優先配分や、需要側の過剰発注による「目詰まり」が起き、川下にはフリー在庫がほぼ降りてこない、という現象が同時に起こっています。経済産業省も2026年4月の供給状況公表で、川下製品在庫が約2カ月分にとどまる構造を認めています。

Infographic in Japanese explaining three-layer oil supply network from upstream to downstream, with blue upper section, orange middle section, and red lower section, showing flow arrows and key points about supply and demand imbalances.
図1:政府発信と現場感覚がズレる理由 ― ナフサ供給網の三層構造

つまり政府発信は川上のマクロデータとして正確で、現場感覚は川下の実需として正確です。両方とも嘘ではなく、見ている層が違う——これが温度差の正体です。

広報担当者として大事なのは、この構造を踏まえた上で「自社はいまどの層に立っているのか」を認識し明示することです。同じ「足りない」でも、商社経由の調達遅延なのか、最終加工段階での歩留まり影響なのかで、ステークホルダーへの説明の納得度が変わります。

発信の原則:両面併記+自社主語

「業界全体が不足している」と書けば過剰煽動と受け取られる可能性があり、「政府が確保しているから問題ない」と書けば実害を被っている顧客の感情を逆撫でします。事実は両面併記し、その上で「自社の状況」「自社の対応」を主語にして語るのが、いまの局面で最も誠実かつ安全な構えです。

発信文の例

あくまで例示。実際の発信は自社の業界・サプライチェーン上の位置・取引関係に応じて調整してください

❌ 過剰煽動になりがちな書き方

弊社の主要原材料であるナフサ供給は、危機的な不足局面に突入しております。業界全体で在庫が枯渇しつつあり、お客様への安定供給の見通しは立っておりません。

❌ 責任転嫁に見える書き方

政府発表のとおりナフサ供給は全体として確保されておりますが、中東情勢の影響により取引条件の調整が必要となっております。状況の改善は政府および業界団体の対応を見守る段階にあります。

⭕ 両面併記+自社主語の書き方

ナフサの国全体の輸入量については、政府および業界団体より「日本全体として必要な量は確保見込み」との発表が出ております。一方で、当社が調達している〔ポリエチレン/ポリプロピレン等〕の品種では、商流上の優先配分や品種別ミスマッチにより、〇月以降の入荷量が通常比〇%にとどまる状況を確認しております(当社調べ)。

これに対し当社では、〔調達先の多元化/在庫×ヶ月分の確保/代替原料への切替検証〕を進めており、現時点では既存契約のお客様への納期遅延は最小限に抑える運用としております。価格・納期の個別調整につきましては、担当営業より順次ご案内申し上げます。

注釈 〔 〕は自社事情に応じて差替え。具体数値は誇張せず社内で確認済みのものに限る。「日本全体として必要な量は確保」表現は政府・業界団体の発表を引用する形を取り、自社見解と並列で示すことが両面併記の核です。

Japanese infographic comparing bad and good ways to announce a price increase, with red (excessive), orange (responsibility-avoiding), and green (trust-building) panels.
図2:発信文のケーススタディ ― 値上げ告知で終わらせない発信

発信機会に転換する5つの切り口

① BCPの可視化

多元調達・在庫戦略・代替原料への切り替えは、これまで社内の地味な業務でしたが、いま社会的関心が最も高い領域です。「平時から続けてきたサプライチェーン強靭化施策が、今回どのように機能したか」を具体的な数字や事例で語れる企業は、取引先の与信評価で確実に一段上がります。

📦 ケース:カルビー「白黒パッケージ」(2026年5月12日発表)
中東情勢の影響による一部商品仕様見直しのお知らせ
出典:ニュース|カルビー株式会社

最も鮮烈な実例は、カルビーが2026年5月12日に発表した「ポテトチップス」「かっぱえびせん」「フルグラ」など主力14品の白黒(2色)パッケージ化です。ナフサ由来のグラビアインク・溶剤・フィルムの調達不安定化を受け、パッケージの「色」を落とし供給を優先する判断を取り、2026年5月25日週から順次切替えを開始しました(一部は6月22日週から)。

発表当日には日本経済新聞・Bloomberg・時事通信・ITmedia・テレビ各局・Yahoo!など多媒体で一斉に報じられ、同日中に官房副長官が記者会見で「印刷インク不足について企業と意思疎通を図る」とコメントするなど、政府レベルの認知にまで到達しました。広告換算で見れば、通常のキャンペーン投下では到底届かない露出量を、「制約をあえて発信した」一枚のリリースで獲得した格好です。

この事例が広報担当者に示すのは、次の三点です。

  • 制約を隠さず、判断軸(安定供給最優先・品質維持)を明示すれば、メディアは「説明責任を果たしている企業」として扱う
  • 「あえて色を落とす」はナフサ起点の構造を一般消費者にも直感的に伝えるビジュアル装置として機能
  • 同業他社(伊藤ハム等)にも検討の波が広がり、業界全体の対応スタンスを規定する起点になる

さらに同業の対応として、豆腐・大豆製品メーカーの太子食品工業も2026年5月、日本テレビ系「news every.」の取材で、主力商品のロゴ印刷を「3色から1色へ」絞る対応を公開しました(同社広報・田中氏)。ナフサ由来グラビアインクの色数を絞ることで、調達リスクと印刷コストの両方を下げる狙いで、番組内では「色を減らして…削減効果は?」という視点で具体的な切替えが紹介されています。

📦 ケース:太子食品工業「色減らし対応」(2026年5月12日報道)
「色数を減らしたり、(印刷する)面積を減らす。うちのマークで見るとわかりやすいんですけど、3色使っているのを1色に。」
出典:日テレNEWS NNN

カルビーが「色をゼロに」、太子食品工業が「色を絞り込む」——同じ制約への異なるアプローチが、食品業界の中で「色の落とし方」の選択肢を多様に示しています。象徴的な判断と現実的な調整、いずれも説明責任型の広報発信として機能している点に注目したい事例です。

ただし、すべての企業がこの形を取れるわけではありません。カルビーの事例は「象徴的な判断」として効きましたが、本丸はその手前にある日常的な備えです。自社のBCPが今回どう機能したか、つまり多元調達・在庫戦略・代替原料への切替えを平時から積み上げてきた事実を、いまの文脈で言語化して出せるかどうか。それを示せる企業は、たとえ象徴的な変化を発表しなくても、取引先からの信頼は確実に積み上がります。

② 代替原料・循環型素材の前倒し発信 ― すでにテレビが「物語」を作っている

バイオマスナフサ、ケミカルリサイクル由来樹脂、植物由来コンパウンドなど、これまで「中長期計画」の中で温めてきた構想を、今この瞬間の文脈で語り直すことができます。

注目すべきは、ナフサショックが顕在化する直前の数ヶ月、テレビ・新聞・経済誌で代替素材の取り組みがすでに繰り返し取り上げられていたという事実です。広報担当者にとっては「世論の素地」がすでに整っている状態で、自社の取り組みを乗せていける貴重なタイミングです。

先行する代替素材の具体事例

三井化学×ローソン「バイオ&サーキュラー」プロジェクト(2026年1月発表)

コンビニ業界初として、ナチュラルローソンの買い物袋にバイオマスPEとケミカルリサイクルPEを併用採用。年間CO2排出量36トン削減を見込む。ナフサショックの一ヶ月前の発表が、結果として「先んじていた取り組み」として評価される構図に。

ソニー×14社グローバルサプライチェーン(2026年2月発表)

出光興産(リニューアブルスチレンモノマー)、ENEOS(リニューアブルパラキシレン)、三井化学(リニューアブルビスフェノールA)、東レ、フィンランドNesteなど5カ国・14社が連携し、AV製品向けリニューアブルプラスチックの世界初の量産サプライチェーンを構築。バイオマスナフサ起点の構想が、実際の量産製品に降りてきた瞬間として複数経済紙が取り上げた。

LIMEX(株式会社TBM)

石灰石を主原料とし、紙とプラスチックを同時に代替できる新素材。すでに10,000以上の企業・自治体で採用され、スシロー全493店舗のメニューにも展開済み。「ガイアの夜明け」「カンブリア宮殿」での特集回が科学放送高柳賞「優秀賞」を受賞するなど、消費者側の認知も先行している。

ライスレジン(バイオマスレジン社)

食用に適さない古米・破砕米を最大70%配合した国産バイオマスプラスチック。三井物産プラスチック「RICEWAVE」シリーズや郵便局物販サービスの梱包資材に採用が拡大。「コメ余り」と「脱プラ」を同時に解く物語性が報道で繰り返し取り上げられている。

これらに共通するのは、「テレビ番組が乗りやすい物語性」を備えていることです。GX・サーキュラーエコノミーは2025年までは「義務的開示」の文脈で語られることが多かったですが、2026年は「事業継続の合理的選択」として、さらに「メディアが乗りやすいストーリー」として語れるフェーズに入りました。

自社の取り組みを「環境配慮」だけでなく、「ナフサショック下のレジリエンス事例」として位置づけ直すことで、業界紙だけでなく一般紙・テレビ番組への露出機会にまで広がります。すでに先行各社が「物語の型」を作ってくれている今は、自社事例をその型に乗せていく好機です。

③ 値上げ・出荷制限の「説明責任型リリース」

避けられない値上げや出荷制限は、隠さず、淡々と、根拠を添えて発信するのが結果的に最も信頼を毀損しません。「黙って実施 → ある日請求書で発覚」が悪いシナリオで、平時の取引関係を毀損します。

説明責任型リリースに含めるべき要素は次の四点です。

  1. 背景となる外部要因の事実 — ナフサ供給逼迫の経緯と現状を、政府発表・業界統計を引用しながら簡潔に
  2. 自社が取り組んだ吸収努力 — 多元調達・在庫戦略・代替原料切替・社内コスト削減など、価格転嫁前にやり尽くした取り組みの可視化
  3. それでもなお必要な調整 — 値上げ幅・対象品・実施日・期間を明示。曖昧な「当面の間」表現は避け、見直し時期を約束する
  4. 顧客への代替提案 — 数量調整、代替品提案、長期契約での価格安定化など、顧客が選べる選択肢を併記

加えて推奨したいのが、「値上げ予告→確定通知→運用報告」の3段型の発信です。検討中の段階で「○月以降に調整が必要となった場合の見通し」を一次予告し、確定段階で正式リリースを出し、実施1〜2ヶ月後に「想定どおりに運用できているか」を報告する。この3段が揃っているだけで、取引先からの「説明を尽くしている企業」評価は確実に変わります。

④ 技術解説によるソートリーダーシップ

「なぜユニットバスや塗料まで影響が及ぶのか」「ナフサとエチレン・プロピレンの関係」など、化学に明るくない取引先・消費者・記者は意外と多いものです。技術的な背景を、自社にいる専門家(研究開発・購買・品質保証部門)の知見を翻訳して発信できる企業は、業界内の「解説役」ポジションとして継続的なメディア露出を獲得できるポテンシャルを持ちます。

推奨される具体的な発信形態は次のとおりです。

  • 図解付きの解説記事 — 自社サイト、ニュースレター、業界紙への寄稿
  • 動画コンテンツ — 1〜3分のショート解説、社内技術者の登場で「顔の見える専門性」を演出
  • ウェビナー・セミナー — 取引先向け、業界向け勉強会の主催
  • Q&A集 — 取引先・消費者から実際に届いた質問を匿名化してまとめる

注意点として、専門用語を翻訳せずそのまま流す発信は、ソートリーダーシップどころか、自己満足と受け取られかねません。中学生でも輪郭が掴める言葉に落とし込むこと、図表で構造を見せること、自社の利害から距離を取った中立性を保つこと、この三つが揃って初めて「業界の信頼できる解説者」と認識されます。

⑤ 取引先・現場従業員へのインターナル発信

外向きの広報と同等に、社内・取引先向けの「いま起きていること」の整理と共有は、危機局面における広報部門の最重要任務です。外部に出すリリースの一段深いバージョンを社内・取引先限定で先出しするだけで、現場の納得感とブランドロイヤルティは大きく変わります。

特に重要なのは、顧客接点の最前線にいる営業・サポート・カスタマーサクセス部門への先出しです。彼らは外部リリース直後から取引先の問い合わせを受ける立場ですが、社内情報なしに対応すれば「弊社からは詳しい情報が来ていなくて…」と返すしかなく、これがブランド毀損の最短ルートになってしまいます。

推奨される具体的な発信形態は次の三つです。

  • 想定問答集(FAQ) — 取引先から想定される質問15〜30問を事前に網羅し、回答スクリプトを営業に共有
  • 商談時のカンニングペーパー — 「弊社が伝えるべき3つのこと」「絶対に言ってはいけない3つのこと」を整理した、現場が即時参照できる1枚
  • 公式発表前・重要取引先向け事前案内 — 外部リリースより1〜3日先出しの、より詳細な背景・自社の意思決定プロセスを含めた限定共有

外部公表に先んじてインターナル発信を回せる体制があるかどうかで、危機局面の広報レベルはここで決まります。

避けたい三つの失敗パターン

ナフサ不足局面の発信では、悪気がなくても「やってしまう」三つのパターンがあります。自社発信を出す前に、チェックリストとして使ってください。

❌ パターン①:煽動的な見出し

具体例:「ナフサ危機、業界に深刻な打撃」「中東ショック、サプライチェーン崩壊の懸念」

こうした強い言葉を自社発信で使い、メディアに採用されたとすると、意図を超えた拡散をするリスクがあり、火に油を注ぐ結果を招きます。「ナフサ危機」「ショック」といった単語は、業界紙など報じる側で使う言葉であって、当事者企業が自社発信で使う言葉ではありません。自社は事実と対応を淡々と語る側、評価するのはメディア側——この立ち位置の切り分けを徹底してください。

❌ パターン②:責任転嫁

具体例:「中東情勢のため」「政府の対応を見守る段階」「業界全体の動向次第」

これらの要素だけで結ぶリリースは、誠実さに欠けると受け取られかねません。事実として外部要因が最大の要素であっても、自社が何を判断し、何を実行したかが抜けていれば、取引先には「うちは何もしていません」と聞こえます。外部要因への言及は背景説明の要素であって、リリースの主語にしてはいけません。主語は常に自社、外部要因は文脈、という構造を守りましょう。

❌ パターン③:サイレント値上げ

具体例:事前通知なしの価格改定、説明文書なしの納期延長、突然のラインナップ縮小

説明なく価格や納期を変えることは、いまの局面では炎上要因になりえます。もし、SNSや取引先のクチコミで「事前通知もなく上がった」と伝播すれば、その評判は商品力だけでは取り返せません。特に、ナフサ不足のような外部要因が広く知られている局面ほど、サイレント値上げは「説明できないやましい事情がある」と疑われやすいという逆説もたちます。値上げそのものではなく、説明をしなかったことが信頼の致命傷になることを忘れずに。

まとめ - 誠実な顧客スタンスを発信しましょう

ナフサ不足は、好むと好まざるとにかかわらず、しばらくの間、多くの企業の経営課題であり続けます。広報担当者にとってこれは、平時には伝えにくかったBCP・代替原料・誠実な顧客コミュニケーションを一気に語れる、稀有な発信機会でもあります。

特に代替素材については、すでにテレビ・新聞・経済誌が報じる「物語の型」が先行各社の手で形作られています。自社の中長期計画の中に眠っている構想を、いまの文脈で語り直す。値上げ告知の一枚で終わらせず、自社の構えそのものを社会に伝える設計に踏み込んでみてください。

この記事の著者

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PRwire編集部

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