「広報×生成AI」の実践、現場でどこまで進んでいるのか?【テラスク広報勉強会レポート】

広報×生成AIワークショップ、テラスク特集 Vol.1/現場ルポ。導入率37%→77%の急変、その「内実」を知る。スクリーンに向かって並ぶ机、開かれた30台のノートPC。関西の広報担当者が「自分の課題」を持ち込み、もくもくと打ち込んだ。現場密着360分の記録。

広報部門の生成AI導入率は、1年で37%から77%へと倍増した。だが、その勢いの裏側で、いまだ「始められない」と立ち止まる広報担当者は少なくない。2026年4月22日、関西の広報ユニット「テラスク」は、参加者が自分の業務課題を持ち込み、その場でAIと向き合う「もくもく会形式」のワークショップを開いた。シリーズ「広報×生成AIワークショップ テラスク特集」全3本の第1弾は、14時から20時まで、6時間の現場ルポをお届けする。

導入率37%→77%、それでも「始められない」人、「立ち止まる」人がいる

日本広報学会の調査によれば、広報部門における生成AIの導入率は、2024年の第1回調査で37.2%。それがわずか1年後、2025年10〜11月の第2回調査では77.0%へと倍増した。広報の現場は、間違いなく「AI活用加速期」だ。

だが、数字の裏側には、まだ踏み出せない人たちの声がある。「正確性が不安」「何から始めればいいかわからない」「社内を説得できない」── 導入率77%という勢いの中で、いまだAIに触れたことすらない「始められない」広報担当者が、確かに残っている。

そして、その隣にもう一つの層がある。「立ち止まる」人だ。すでに生成AIを触り始め、77%の導入率の中にカウントされている。それでも「壁打ちぐらいにしか使えていない」「実務の下処理だけはやってもらっている」と、同じ場所で歩が止めっていると自覚している広報担当者も少なくない。

「正確性への懸念」(52.1%)、「機密性」(44.6%)、「リードする人材不足」(41.3%)── 導入障壁の上位となる要素は、未着手の人だけでなく、触り始めた人をも、同じ壁の前で立ち止まらせてしまう。

そのような「始められない」人と「立ち止まる」人。両者を、同じ場所で動かそうとする実践の場が、関西にあった。

テラスクとは ― 関西発、広報の「横のつながり」を作るユニット

参加者の隣にしゃがみ込み、画面を一緒に覗く姿が、会場のあちこちで見られた。

テラスクは、関西の広報担当者が気を張ることなくゆるやかに集う勉強会・交流会コミュニティだ。代表を務めるのは、株式会社Kaeru 代表取締役の大崎弘子氏、akippa株式会社の森村優香氏、クックビズ株式会社の中西由美子氏、株式会社pen.代表取締役 永井玲子氏、4名がコアメンバーとして運営している。

そんなテラスクが、なぜ今「生成AI」に力を入れるのか。冒頭で触れたとおり、広報のAI活用は1年で倍増した。しかし、コピー案出しや企画壁打ちといった活用業務の上位にも、「正確性への懸念(52.1%)」「機密性(44.6%)」「リードする人材不足(41.3%)」といった導入障壁が重くのしかかる。使い始めた人と、まだ様子を見ている人の差が、広がり始めている。

広報勉強会&メディア交流会、広報合宿、広報講座を定期開催し、「広報について協力し合える横のつながりを作る」ことを理念に掲げてきた。船場経済新聞にも活動が取り上げられ、15年にわたって関西の広報担当者の『横のつながり』を作り続けてきた、地に足のついた草の根活動である。

テラスクの「広報×生成AI お悩み相談ワークショップ」は、そのギャップを埋めるための実践の場だ。参加者は自分の業務で実際に困っていることを持ち込み、もくもく会形式でAIと向き合う。横のつながりを作ってきた広報ユニットだからこそ、「一人では始められない」「立ち止まってしまう」という壁を、コミュニティの力でほぐしていく思想だ。

当日レポート ― レクチャ→もくもく会形式で「自分の課題」に向き合う6時間

会場の雰囲気

Conference room filled with people at desks using laptops, audience facing a projected presentation at the front, ceiling with exposed ducts visible in the background.
会場のグラングリーン大阪「Blooming Camp」。むき出しの天井配管とガラス窓の向こうに、うめきたの新緑が広がる

会場は、グラングリーン大阪にあるオープンイノベーション施設「Blooming Camp」。むき出しの天井配管とガラス張りの大きな窓から、うめきたの新緑が差し込む明るい空間だ。この日集まった参加者は約30名。長机がスクリーンに向かって並列に並べられ、それぞれのノートPCを開いて待機している。広報担当者が中心だが、年代も業種もばらばら。共通しているのは、皆が手元のキーボードに前のめりになっている姿だった。

「壁打ちぐらいにしか使えてません」「下処理やってもらってますよ」── 申込時のアンケートで参加者から寄せられた言葉を、主催の大崎氏は事前にこう整理していた。生成AIを触り始めたものの、その先に進めない人が多い。今日来ているのは、そこから一歩踏み出したい広報担当者たちだ。

プログラム概要

Speaker stands at a podium giving a presentation to a seated audience with laptops, projected slide visible on a large screen showing Japanese text.
「自分ができる仕事しか、AIに任せることはできない」。レクチャー前半、大崎氏が映したスライドが、ワークショップの目指すところを端的に示す

プログラムは大きく2部構成だ。前半14時から16時までの2時間が、大崎氏によるレクチャー。生成AIを提供する会社・モデル・ツールの全体像から始まり、エージェントスキル(Agent Skills)という新しい概念、そして実際にプレスリリース作成を自動化する手順までを一気に解説する。後半16時以降は「もくもく会」と「ナレッジ共有会」。

参加者がそれぞれ自社の過去のプレスリリースをNotebookLMに読み込ませ、自社専用の生成AIエージェントを作る実践の時間だ。最大の特徴は、講師が一方的に教えるのではなく、参加者が自分のPCで実際の業務課題と向き合う形式であること。詰まったところはその場で主催メンバーに聞ける。広報実務を経験したメンバーが隣にいるから、「業界の慣習や文脈」を踏まえたアドバイスが返ってくる。

印象的なシーン

レクチャーの後半、大崎氏がデモを行う。テラスク運営メンバーの森村優香氏が広報を担当するakippa株式会社(駐車場マーケットプレイスを運営)の過去プレスリリースを、その場でNotebookLMにアップロードする。続けて生成AIに「SKILL.md」と「company.md」というスキルファイルを作らせ、Geminiの専用エージェント(Gem)に組み込んでいく。

完成したエージェントに「akippa(アキッパ)がオープンイノベーション施設『Blooming Camp』と提携した」という仮想シナリオを投げると、数秒後、画面にはakippaらしい文体・トーンで、過去リリースの世界観を踏まえた草案が流れ出した。会場から「おお…」と思わず声が漏れる。広報担当者が過去に積み上げてきた自社の財産が、AIを通して新しい原稿として返ってくる ── そんな瞬間を目の当たりにした。

Audience seated at desks facing a large projection of a computer screen displaying Japanese text and a browser window, in a classroom setting.
akippa株式会社の過去に配信したプレスリリースを、その場でNotebookLMにアップロードする大崎氏。LIVEデモが始まった瞬間だ。

また、参加者の表情が一気に変わった瞬間がある。エージェントスキルの構造として、「SKILL.md」(仕事の型・手順を書くファイル)と「company.md」(自社の事実と表記ルールを書くファイル)の役割分担を、大崎氏が画面に映して示した時だ。

「最初に用語とか基礎知識とか、難しい単語をいっぱい説明して理解してもらわないと次の説明に進めない」と大崎氏は振り返る。「エージェントスキルというフワッとした言葉ではなくて、エージェントを実際にどう使っていくかというイメージができた瞬間が、一番皆さんの顔が『わかった』なという感じでした」。

もくもくタイムで、ふわっとした「わかる」、が「実感」に変わる

もくもくタイムが始まると、会場の空気は静かに、集中していく。それぞれが自社のプレスリリースをNotebookLMに読み込ませ、生成AIに「自社の伝えたい思い・世界観」「文体のクセ」「過去に使っていたNG表現」などを抽出させていく。隣の席の参加者がふと手を止め、「これ、うちの会社のことよく当ててる」と画面を見せ合う場面が”そこここ”で起きる。テラスクが理念に掲げる「広報の横のつながり」が、誰に促されるでもなく自然発生する瞬間だった。

Conference room with participants seated at desks watching a large projection screen displaying a Japanese-language interface and code/texts on screen and banners on the sides.

席の間を縫って歩くテラスク運営メンバーの姿がある。行き詰まっている参加者の隣にしゃがみ込み、画面を一緒に覗く。「ここに、こう書いてみてください」と短く助言し、相手の表情が変わったのを見届けて次の席へ。会場の前方では大崎氏自身がホワイトボードの前で別の参加者と議論を始めている。教室というよりは、町の集会所に近い空気感だった。

参加者の声 ― 「こんな簡単でいいの?」から始まる変化

Before / After

Group of people in a workshop gathered around a whiteboard labeled OpenAI, Google, Anthrop ic, with a colorful sticky-note mural in the background.

興味深いのは、参加前と参加後で、参加者のAIに対する印象が大きく変わったことだ。第1回日本広報学会調査によれば、広報部門で最も多い不安は「正確性への懸念」(52.1%)。AI inside 株式会社が大企業の生成AI導入関係者を対象に行った調査でも、ハルシネーションへの不安は59.2%と最多。広報業務において致命的になりうる見過ごせない要素だ。

取材の合間、ある参加者が大崎氏のもとに歩み寄り、感想をこぼした。

「すごい勉強になりました。来るとき、AIにかなり拒否反応があったんですけど」

ワークショップに参加する前は、生成AIに対して身構えていた。それが2時間のレクチャーと実践を経て、自分の中の心理的なハードルが下がったという素直な変化の言葉だった。

別の参加者は、こう振り返った。

「本当に私、使えてるようで使えてなかったんだなって(思いました)」。

すでに日常的に生成AIを触っていたつもりが、レクチャーの全体像を聞き、もくもくタイムで自社専用のAIエージェントを作る作業を経て、「使いこなす」とは何かを体感したという。

「壁打ち程度」の自覚から、その先のイメージを具体的に持てた瞬間だ。

具体的な収穫

ワークショップが終わる頃には、参加者の手元にはいくつかの「持ち帰れる成果」が残った。

第1回日本広報学会調査での、広報部門での生成AI活用業務の上位は、「コピー案出し・情報収集62.2%」「企画の壁打ち55.6%」「プレスリリース作成46.7%」。

当日も、これらに連なる具体的な試みが各テーブルで進む。

もくもくタイムの3時間で、参加者の手元には共通のアウトプットが生まれていく。自社の文体・トーン・NG表現・主要人物などを記述した「company.md」、そしてプレスリリース執筆の手順や確認事項を書いた「SKILL.md」。これらを生成AIに渡すと、自社らしい言葉選びでプレスリリースの草案を作れるようになる。

大崎氏は手応えをこう語る。「ふたを開けてみたら、8割ぐらいの人が完成できてたという感じです。短い時間に絞らないといけないので座学を2時間に詰め込んだけど、その後レクチャーしてやってみる、わからないところを聞くという構成。これをやるしか、身に付けて帰ってもらう方法が思いつかなかった」。

ひとり広報にとって、生成AIの存在とは?

Team workshop with a whiteboard full of notes and colorful sticky notes on a surrounding grid backdrop.
もくもくタイムが始まると、大崎氏は席を縫って歩き、行き詰まっている参加者の隣にしゃがみ込んだ。「相談相手がいるだけで、AIスキルの習得はすごく早くなる」

注目すべきは、参加者に「ひとり広報」の担当者が目立ったことだ。ある調査では「ひとり広報」の72.5%が「創造性の補助」として生成AIを活用しており、企画の壁打ちや文案作成で特に高い効果を実感している。相談相手がいない現場で、AIは単なるツールではなく「もう一人のチームメンバー」として機能しうる。

広報業界にはこの「ひとり広報」が少なくない。社内に同じ仕事をする仲間がおらず、誰に相談していいかわからないという、「広報業界あるある」の境遇だ。大崎氏はこう指摘する。

広報のスキルがない人は、まずAIと壁打ちをして、「自分の広報スキル、プレスリリースを書くスキル、SNSを使うスキル」を身につける。教師や物知り博士のような形で使うんです。

壁打ち相手がいるだけで、スキルの習得はすごく早くなる。

社内に先輩がいない「ひとり広報」にとって、AIは「補助的に使えば、覚えてきたわけじゃないことも逆に得られる」存在になる、という。

まとめ ― 「始める場」の愛おしさと、「ひとりじゃない」心強さと

Smiling woman stands behind a wooden podium on a stage, with a copper grid backdrop and a white banner featuring colorful square shapes on the right side.

6時間の取材を通して感じられたのは、広報AIの導入を阻むのは、ツールの知識不足ではない。「隣に聞ける人がいない」ことなのだなと、日々AI活用と向き合う筆者も痛感した。

第1回調査の導入障壁上位に並んだ「人材不足(41.3%)」は、社内にAIを教えられる人がいない、という意味だけでないのだろう。「一緒に試せる仲間がいない」という意味でもあるはずだ。テラスクのワークショップは、その空白を埋める場だった。

ワークショップの締めくくりに、大崎氏はこれから生成AIを始める広報担当者に向けてメッセージを残した。

「まずは触れてみてください。親友のように、家族のように、おはようからおやすみまで、一日中AIと話してみてもらう。AI使えるようになった人って、起きた瞬間からAIと喋ってる時期があったと思います。そうすると、急に”フォンっ”て使えるようになる感覚があるんです」

完璧に使いこなす必要はない。月曜日の朝の「おはよう」から、まず一言。それが大崎氏からの処方箋だ。

テラスクの活動は、これで一区切りではない。大崎氏は

「業務時間って限られているので、その合間をぬってAIの勉強というのはなかなかできない。なので、土曜日に毎月、AI勉強会をやっています」

と語る。取材後のゴールデンウィーク中には「AIびより」というイベントを開催した。

「やっぱり休みの時にしか、実際に手を止めて生成AIと向き合うってできなかった」

業務外で集中して向き合える時間と場を、関西の広報担当者に提供し続ける。

本シリーズではこの後、大崎氏ご本人へのインタビュー前編・後編を続けて公開予定だ。「How(どう使うか)」と「Why(なぜ続けるか)」を、それぞれ深く掘り下げていく。

シリーズ「広報×生成AI テラスク特集」、次回は大崎弘子さんへのインタビュー前編をお届けする。テーマは「導入率37%→77%の急変を現場で見た人が語る、超えるべき壁と最初の一歩」。ワークショップで100人以上の広報担当者と向き合ってきた大崎さんに、残り23%の壁の正体と、その越え方を聞いた。そして、その夜の景色を、また別の章で。

次回予告

COMING SOON

シリーズ「広報×生成AI テラスク特集」vol2、大崎弘子さんへのインタビュー【前編】

広報担当者を取り巻く導入率37%→77%の急速な変化を、現場で広報担当者の変遷を見続けてきた大崎氏が語る。超えるべき壁と最初の一歩とは。

公開予定: 2026年6月下旬〜7月上旬の公開を予定しています。

取材協力

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PRwire編集部

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