銀河宇宙線のヘリウム成分を250テラ電子ボルトまで直接観測に成功

30テラ電子ボルト以上でスペクトル軟化の兆候を検出

早稲田大学

2023年5月9日

早稲田大学

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国際宇宙ステーション・「きぼう」日本実験棟搭載高エネルギー電子・ガンマ線観測装置(CALET)による測定

 

発表のポイント

国際宇宙ステーション・「きぼう」日本実験棟搭載の宇宙線電子望遠鏡(CALET)が、銀河宇宙線の一つであるヘリウムのエネルギースペクトルを250テラ電子ボルトまで高精度に観測することに成功し、30テラ電子ボルト以上でエネルギー軟化の兆候を検出しました。

陽子とヘリウムは核子当たりのエネルギーで60テラ電子ボルトまで、スペクトルの冪の変化においては同様な構造を持つことがわかりました。

一方で、冪の傾きが陽子とヘリウムでは異なっていることから高エネルギー領域では何か異なる加速・伝播機構がある可能性が生じたため、その理論的な検証が求められています。

 

図 「きぼう」船外実験プラットフォームに設置されたCALETの様子。(画像出典JAXA/NASA)

 

早稲田大学理工学術院総合研究所主任研究員 小林兼好(こばやしかずよし)早稲田大学名誉教授・CALET代表研究者 鳥居祥二(とりいしょうじ)、シエナ大学研究員 Paolo Brogi、と宇宙航空研究開発機構(JAXA)及び国内他機関、イタリア、米国の国際共同研究グループ(以下、本研究グループ)は、国際宇宙ステーション(ISS)・「きぼう」の船外実験プラットフォームに搭載された宇宙線電子望遠鏡(以下、CALET*1 :高エネルギー電子・ガンマ線観測装置)を用いて、銀河宇宙線*2 のヘリウムのエネルギースペクトル*3 を250テラ電子ボルトまで高精度に観測し、30テラ電子ボルト*4 以上の領域でエネルギースペクトル軟化*5 の兆候を観測しました。

 

本研究成果は、アメリカ物理学会発行の『Physical Review Letters』に、“Direct Measurement of the Cosmic-Ray Helium Spectrum from 40 GeV to 250 TeV with the Calorimetric Electron Telescope on the International Space Station”として、2023年4月27日(木)<現地時間>にオンラインで掲載されました。

DOI:10.1103/PhysRevLett.130.171002

 

【用語解説】

1:CALET(高エネルギー電子・ガンマ線観測装置)

2015年8月にISS・「きぼう」に搭載され、同年10月より宇宙線観測を開始した宇宙線電子望遠鏡「CALET」は、日本の宇宙線観測としては初めての本格的な宇宙実験で、すでに7年以上安定的な観測を行っています。高エネルギー電子の高精度観測に最適化されたユニークな装置ですが、確実な電荷決定と広いエネルギー測定範囲により、陽子や原子核成分の観測にも強力な性能を有しています。CALETの主となる検出装置は「カロリメータ」と言い、ここに飛び込んでくる宇宙線を捉えて観測することになります。カロリメータは、図のように3つの層からできています。

 

図の第1の層(CHD)では粒子の電荷を測定し、入射粒子の電荷を測定します。第2の層(IMC)では、主に粒子が飛んできた方向を測定します。そしてもっとも厚みのある第3の層(TASC)で、宇宙線が吸収されて生じる「シャワー」の発達の様子からその宇宙線のエネルギーや種類を特定します。この3つの層から得られる情報を統合することで、その宇宙線についてかなり広範囲に理解することが可能と考えています。特に第三の層の厚さや使われている物質と信号の読み出し方法によって、どれだけ高いエネルギーの粒子まで観測することができるかが決まります。CALETはとりわけこの点においてCALET以前の観測装置に比べて高い性能を保有しています。

 

CALETの主検出であるカロリメータ部の装置概要。上から電荷測定器(CHD)、撮像型カロリメータ(IMC)、全吸収型カロリメータ(TASC)。(出典:JAXA/早稲田大学) 

 

2:宇宙線

宇宙空間は、何もないように見えますが、じつはとてもたくさんの粒子が飛んでいます。それらは原子よりもさらに小さい陽子や電子などの粒子で、宇宙空間で手をかざしたら一秒間に100個以上が手にあたるほどたくさん飛んでいます。そのような粒子を宇宙線と言います。宇宙線は約100年前に発見されて以来、常に物理学の最先端テーマでした。宇宙線の研究から、陽電子や中間子の発見など、人類の知識を大きく広げる成果があがっています。宇宙線は、太陽や天の川銀河(地球がある銀河系)など宇宙の様々な場所から飛んできます。特に高いエネルギーをもったものは、私たちが暮らす太陽系の外からはるばるやってきています。

 

3:スペクトル

本稿ではすべてエネルギースペクトルの意味で用いています。横軸をエネルギー、縦軸を流束とした図をエネルギースペクトルと言います。宇宙線スペクトルは冪形状となっていて、その冪の値は大体 -2.7程度ですので、高いエネルギーになるにつれ急激に流束が減少します。

 

4:電子ボルト

エネルギーの単位です。1ボルトの電位差を抵抗なしに通過した際に電子が得るエネルギーが1電子ボルトです。ここではその109倍のギガ電子ボルト、1012倍のテラ電子ボルト、1015倍のペタ電子ボルトのエネルギー領域を扱っています。

 

5:スペクトル軟化

スペクトル硬化とは逆に、冪の絶対値が大きくなる方向のスペクトル変化を表し、エネルギーに対する流束の減少割合が増えていくことを示します。

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プレスリリース添付画像

図 「きぼう」船外実験プラットフォームに設置されたCALETの様子。(画像出典JAXA/NASA)

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