日本主導による「遮熱コーティングのヤング率測定方法」が国際規格に制定

経産省のエネルギー使用合理化国際標準化推進事業である「タービンの遮熱コーティングの特性評価試験方法に関する国際標準化」活動で、日本で産学官連携の中心として取組んでいる首都大学東京と大阪科学技術センターが提案した遮熱コーティングのヤング率測定方法が、国際規格として制定されました。

2016年9月16日

日本主導による「遮熱コーティングのヤング率測定方法」が国際規格に制定

 経済産業省のエネルギー使用合理化国際標準化推進事業である「タービンの遮熱コーティングの特性評価試験方法に関する国際標準化」活動において、日本で産学官連携の中心となって取り組んでいる首都大学東京と大阪科学技術センターが提案した遮熱コーティングのヤング率測定方法が、国際規格"ISO 19477 Metallic and other inorganic coatings - Measurement of Young's modulus of thermal barrier coatings by beam bending"(プロジェクトリーダ:首都大学東京 大学院理工学研究科機械工学専攻 高橋智准教授)として、平成28年9月15日に制定されました。

 国際規格は、原案の提案から発行に至るまで通常3年間も要します。これは規格開発過程で複数のステージが設けられており、ステージ毎に国際投票によって承認を得なければならないためです。今回の規格は、国内の委員会で開発した試験方法の原案を専門委員会ISO/TC107(金属及び無機質皮膜)へ提案し、平成26年3月に新作業項目として承認された後、日本メンバーのチームワーク、関係国のエキスパートらとの地道な交渉や信頼関係の構築などにより、最終国際投票では約91%もの圧倒的な賛成(承認要件67%以上)を得て、約2年半で発行に至ることができました。

 遮熱コーティング(Thermal Barrier Coating : 以下TBC)は、火力発電用ガスタービンの高温部材を支える主要な要素技術であり、ヤング率はTBCの耐久性に強く影響を及ぼす熱応力や機械的応力を評価する上で重要な機械的特性の一つです。ヤング率の測定方法について、これまでセラミック単体などを対象とした規格は既に制定されていました。しかし、TBCは金属の基材上に被覆して使用するので、コーティング単層を用いた特性評価は、必ずしも合理的ではありません。しかし今回制定した測定方法は、基材上にTBCを被覆した多層試験片を用い、4点曲げ試験よって室温におけるTBCのヤング率を求めることができます。この方法は簡便で、使用する試験片の作製も容易であり、さらに他の種類のコーティングの評価にも適用できるので、実用上、非常に有用です。このような試験方法の規格化は、優れた耐久性や信頼性を有する高性能なTBCの設計・開発に大いに貢献します。

■ 背 景

 東日本大震災以降、火力発電への依存度が急速に高まり、現在では国内の需要電力の約9割を火力発電に依存しています。しかし、火力発電ではCO2排出量比率が高く、コストの増加も深刻な問題となっております。このため、地球環境保全やエネルギー安定供給の観点から、火力発電用ガスタービンの高温運転による高効率化と省エネルギー化が積極的に進められており、国の戦略重点分野である日本産業戦略などにも高効率火力発電の徹底利用やエネルギーコスト削減が盛り込まれています。このような高効率ガスタービンを支える重要な要素技術の一つが“遮熱コーティング(TBC)”であり、動翼や静翼などの高温部材には必要不可欠となっています。

 TBCの断面とその効果を図1に示します。ガスタービンの高温部材には、高温強度特性に優れる超合金を基材に用い、この表面にTBCを適用します。TBCは、耐酸化性や耐食性を有する金属コーティングをボンドコート(BC)とし、この表面に遮熱性に優れるセラミックコーティングをトップコート(TC)とする2層コーティングから構成されます。TBCの役目は、高温の燃焼ガスから基材を防護することであり、TC内における遮熱効果によって基材の表面温度を低く保つことができます。このため、燃焼ガス温度を高めることができ、熱効率の向上に直結します。TBCの設計・開発には、遮熱性能の指標となる熱伝導率、耐久性に関わるヤング率や線膨張率などが重要な特性であり、合理的な特性評価試験方法の開発が要求されています。

■ TBCの特性評価試験方法の標準化活動

 燃焼ガス温度の高温化に伴い、TBCには従来以上に優れた耐久性と信頼性が要求されています。このためTBCに関する研究・開発が国内外で活発に行われていますが、同時に実機へのTBCの導入促進を図るための合理的な特性評価試験方法の確立も非常に重要となっています。TBCの代表的なコーティングプロセスである溶射法に関する各種試験方法は、ドイツを中心に欧州で規格化が進められていますが、TBCの試験方法の規格化は未だ十分に整備されていません。そこで、発電用ガスタービンの開発で世界トップクラスである日本が、TBCの試験方法の国際標準化を先導し、国際産業競争で優位に立つ好機となっています。このような背景を踏まえ、日本では図2に示すように国からの支援のもと、オールジャパンのタービンメーカをはじめ、溶射メーカ、電力会社、装置&評価メーカ、公的研究機関、大学など様々な分野のメンバーの協力のもと、プロジェクトリーダが中心となり、産学官連携で種々の特性評価試験方法の開発と、その国際標準化に継続的に取り組んでいます。一連の標準化活動によって、6件の試験方法を日本工業規格(JIS)として制定するとともに、今回の試験方法も含めると、世界に先駆けて日本提案の4件のTBC特性評価試験方法を国際規格(ISO)として制定しました。すなわち、

1.ISO 13123 Test method of cyclic heating for thermal barrier coatings under temperature gradient(2011年12月)

2.ISO 14188 Testing methods for measuring thermal cycle resistance and thermal shock resistance for thermal barrier coatings(2012年10月)

3.ISO 18555 Determination of thermal conductivity of thermal barrier coatings(2016年2月)

4.ISO 19477 Measurement of Young's modulus of thermal barrier coatings by beam bending(2016年9月)

 このような継続的な活動によって、日本はTBCの試験方法の国際標準化を先導しています。試験方法の国際標準化は、TBCの設計・開発に役立つだけでなく、日本製TBCの高性能さと、これを使用する高効率火力発電システムの安心・安全性を顕在化させ、国際競争で優位を築くビジネスツールとしても期待され、非常に重要です。

■ 今後の取り組み

 現在もTBCの信頼性や耐久性を高める様々な特性評価試験方法の開発に取り組んでおり、今後も新たな試験方法を順次提案する予定です。

 首都大学東京は、研究活動だけでなく、日本の産業の発展に大きく貢献する国際標準化活動も引き続き、産学官連携で積極的に推進していきます。さらなる活動に向けて関係各位には一層のご支援・ご協力をお願いいたします。

 今回の成果は、一連の標準化活動に携われた多くの方々のご尽力の賜物であり、関係各位に深く感謝申し上げます。

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