太陽そっくりの星たちが明かす、太陽系「大移動」の道のり

 

太陽系と太陽双子星[1]たちの大移動のイメージ。(クレジット:国立天文台)

1.ポイント

 

・太陽系の1万光年以上に及ぶ銀河内「大移動」の過程が未解明であったが、太陽系の誕生直後に一気に進んだ可能性を示唆した。

・Gaia衛星[2]による分光ビッグデータの網羅的マイニングにより、太陽そっくりな星「太陽双子星[1]」の世界最大サイズの高信頼度カタログを構築。これにより太陽系の大移動の仕組みに迫った。

・太陽系が生命を育む惑星系になり得た背景に示唆を与えた。今後、太陽系と全く同じ場所・同じ時期に誕生した、「真の双子」の発見を目指す。

 

2.概要

 

 「我々はどこから来たのか、我々は何者か、我々はどこへ行くのか」。この根源的問いに対し、本研究は、「太陽系の起源」という視点から挑みました。太陽系は46億年前に天の川銀河の中心側で誕生し、その後現在の位置まで1万光年以上もの長距離を移動してきたと考えられています。しかし、この「大移動」が、いつ、どんな仕組みで、起きたのかは長らく明らかになっていませんでした。

 東京都立大学の谷口大輔助教と国立天文台の辻本拓司助教を中心とする研究グループは、Gaia衛星[2]が公開した大規模な天体サンプルGSP-Spec[3]を用いて、太陽と非常に似た性質を持つ「太陽双子星[1]」6,594天体の高信頼度カタログを構築しました。これは従来の最大規模カタログの約30倍に相当する天体数です。さらに、この世界最大カタログから観測の偏り(選択効果[4])を統計的に補正した結果、太陽系の近傍に、太陽系の誕生時期(46億年前)を含む約40~60億年前に生まれた太陽双子星が数多く存在することを発見しました。

 同年代の星が多数存在していることは、太陽系の移動史に強い制限を与えます。研究グループは、天の川銀河中心部の棒状構造[5]の形成をきっかけとして、太陽系と多数の太陽双子星が、誕生後まもなく大規模に移動した可能性を提案しました(図1)。この急激な大移動により、太陽系は、高エネルギー現象が頻発し生命にとって過酷な銀河の中心側ではなく、外側のより安全な領域で長期間を過ごせた可能性があります。

 

1:本研究が提案する、太陽系大移動のメカニズム。(クレジット:国立天文台)

 

3.研究の背景

 

 太陽系は現在、天の川銀河中心から2.7万年光年の位置で銀河円盤の中を周回しています。一方、太陽の年齢と重元素量を他の星と比較すると、太陽系は実際には銀河のより中心側(中心から約2万光年以下)で誕生したと推定されています。つまり、46億年の生涯の間に、太陽系の軌道半径が1万光年以上も広がった(動径方向移動[6])と考えられています。

 ところが、この太陽系の「大移動」は非常に困難であるとの指摘もあります。現在、銀河中心部で回転している棒状構造[5]がその共回転半径[7]付近に障壁(共回転バリア[7])を作っています(図2)。この障壁の内側で生まれた太陽系が、外側の現在位置まで移動する確率は非常に低いとされています。

 では、太陽系の移動は偶然の産物でしょうか?それとも、我々は何かの必然に導かれて、今この場所に辿り着いたのでしょうか?

2:現在の太陽系の位置(青)と、太陽系が誕生した位置(赤)。天の川銀河中心にある棒状構造が作る共回転バリア(黄色)によって、太陽系は誕生位置から現在の位置まで移動が困難との指摘もあった。(クレジット:NASA/JPL-Caltech/ESO/R. Hurt、著者らが改変)

 

4.研究の詳細

 研究グループが鍵として注目したのは、太陽にそっくりな星たち、「太陽双子星[1]」です。太陽双子星は、色や明るさなどが太陽と非常に近く(図3左)、個々の性質や、さらには統計的性質を、非常に高い精度と信頼度で調べることができる、珍しいタイプの恒星です。しかし、従来研究ではサンプルサイズや年齢決定の信頼性が十分でなく、統計的な研究に踏み込むことが難しい状況でした。

 

 

3:太陽双子星。

() 様々な種類の恒星の、色と明るさの関係。太陽双子星とは、太陽と似た色と明るさを持つ星(赤色の台形中の恒星)を指す。

(右上) 本研究で得た太陽双子星たちの距離ヒストグラム(青)。個々の恒星を分光した先行研究(黒)と比べ、約30倍ものサイズのサンプル構築に成功した。

 

 研究グループは、この状況を打破すべく欧州宇宙機関(ESA)が打ち上げた位置天文観測衛星Gaia [2]が2022年6月にDR3として公開したビッグデータのうち、分光解析カタログ(GSP-Spec[3])に着目しました。GSP-Specに含まれる約560万天体もの恒星の中から、太陽双子星を系統的にデータマイニングしました。その結果、太陽系から約千光年以内に分布する6,594天体もの太陽双子星のカタログ構築に成功しました。これは、先行研究の中で最大規模の高信頼度サンプルと比較して、約30倍も大きなサイズです(図3右上)。また、それぞれの太陽双子星の年齢を恒星進化モデルに基づいて決定しました。

 

 天体観測では、例えば明るい星ほど見つかりやすいなど、観測データに避けられない偏り(選択効果[4])が生じます。そこで研究グループは、人工的に数万天体の太陽双子星を作成し、どの年齢の星がどの程度観測されやすいかを表す「選択関数[4]」を定量化しました。続いて、信号処理や画像処理などの分野で開発された二種類の手法(リチャードソン・ルーシー法と、正則化付き最小二乗法)を応用して、観測データの偏りを取り除きました。その結果、太陽双子星の「真の」年齢分布を復元することに成功しました(図4上)。

 

 得られた真の年齢分布には、(1)20億歳の鋭いピークと、(2)4060億歳に広がる緩やかな膨らみ、が現れました。前者は、これまでも太陽双子星以外で確認されおり、起源(例えば、いて座矮小楕円銀河の天の川銀河への衝突など)が議論されてきました。一方、研究グループが着目したのは、これまで見落とされてきた、後者の膨らみです。統計解析によって明らかになったこの膨らみの約40~60億年という年齢は、太陽の年齢(46億歳)とよく一致します。つまり、太陽と同世代の、太陽そっくりな星たちが、太陽系のすぐそばに多数存在しているということが明らかになりました。

 

4:(上)2種類の手法で観測データの偏りを除去して得た、太陽双子星の真の年齢分布。(下)棒状構造の形成によって、太陽系と多数の太陽双子星が誕生し、現在の太陽系の位置まで誕生後すぐに移動したのではないか、と提案した。太陽双子星は年齢と誕生半径に逆相関があると考えられてあり、その目安を上軸に示した。

 

 なぜ、太陽系と同世代の太陽双子星が近傍に多く存在することが重要なのでしょうか?それは、この事実が太陽系の「大移動」に対して強い制限を与えるからです。これらの太陽双子星は、太陽とほぼ同じ年齢と重元素量をもつため、太陽と同様に、天の川銀河の中心側で誕生し、その後、生涯を通じて現在の場所まで移動したと考えられます。これは、共回転バリアに妨げられずに多くの太陽双子星の大移動を可能とする、普遍的な機構の存在を示唆します。つまり、太陽系だけが例外的に、偶然、長距離を移動できたのではなく、太陽系は多くの大移動仲間の一員だった可能性が高いのです。

 

 研究グループは、この大移動の引き金として、棒状構造の形成期に注目しました。形成後の安定した棒状構造は共回転バリアにより大移動を難しくします。逆に、形成時期には、その力学的影響によって中心部で星形成が活発化し、同時に星が効率的に動径方向移動できる可能性が先行研究で指摘されています。もし、天の川銀河の棒状構造が約6070億年前に形成されたとするなら、その形成に伴い、約4060億年前に太陽系と多数の太陽双子星が銀河の中心側で誕生し、誕生後まもなく現在の位置まで大移動できた可能性があります(図1;図4下)。棒状構造の形成時期は長年議論され、80億年以上前とする説が主流でした。しかし本研究のシナリオは、その時期が約60~70億年前であった可能性を新たに指摘する点でも意義があります。

 

5.研究の意義と波及効果

 

 本研究は、太陽双子星の世界最大カタログを構築し、観測データの統計的な補正を行うことで、太陽系が銀河内で辿ってきた大移動の道のりに新たな手がかりを与えました。今後は、特定した太陽と同年代の太陽双子星を精密観測することで、太陽系と同じ場所・同じ時期に誕生した、真の意味での「双子」星を発見し、大移動の出発点や移動経路の特定につながる可能性があります。

 銀河の中心側は、超新星爆発などの高エネルギー現象が頻発し、生命にとって過酷な環境だと考えられています。本研究が提案するように太陽系が誕生後まもなく銀河の外側の安全な領域へと移動していたのだとすれば、太陽系は偶然ではなく、棒状構造形成のおかげで必然的に、生命を育みうる惑星系へと成長した可能性があります。さらには、太陽系とともに移動した太陽双子星の中にも、地球のように生命を宿しうる系外惑星を持つ星が存在するかもしれません。

 

6.用語解説

 

[1] 太陽双子星(Solar twins)

大気パラメーター(表面温度・表面重力・重元素量)が太陽に非常に近い恒星。色や明るさなど他のいくつかのパラメーターも太陽に非常に近い。太陽双子星の分光スペクトルと太陽のスペクトルを比較することで、太陽双子星の大気パラメーターや年齢の太陽との相対値を、非常に高精度・高信頼度に決定できる。本研究では、太陽との差が、表面温度200ケルビン、表面重力(常用対数)0.1(約2割)、重元素量(常用対数)0.1(約2割)、以内の恒星を太陽双子星と定義した。

 

[2] Gaia(ガイア)衛星

欧州宇宙機関(European Space Agency;ESA)が2013年12月に打ち上げた位置天文衛星。全天の恒星の見かけの位置(太陽系から見た方向)の微小な時間変化を測定することで、恒星までの距離と見かけの運動を求めることを主目的とする。同時に、全天の恒星のスペクトルも観測・提供している。本研究では2022年6月公開のGaia DR3(data release 3;第三次データ公開)を用いた。

 

[3] GSP-Spec(General Stellar Parametrizer from Spectroscopy)

Gaia衛星搭載の分光器(Radial Velocity Spectrometer;RVS)で取得されたスペクトルから、恒星の大気パラメーター・化学組成・視線速度を決定したカタログ。本研究ではGSP-Specカタログの大気パラメーターを用いて年齢を決定した。

 

[4] 選択関数/選択効果(selection function / selection effect)

ある性質の天体が、どの程度の確率で観測サンプルに含まれるかを記述する関数(選択関数)。実観測では、明るさ・距離・位置などの諸条件によって観測されやすい天体・されにくい天体が存在する(選択効果)。選択関数を推定・考慮することで、観測データに含まれる偏りを補正し、観測サンプルに含まれない天体も含む、真の分布の推定が可能となる。

 

[5] 天の川銀河の棒状構造(Galactic bar)

天の川銀河中心部にある、細長い棒状(楕円状)の恒星の分布(長さ約3万光年)。強い重力ポテンシャルにより、恒星の運動に影響を与える。

 

[6] 動径方向移動(radial migration)

天の川銀河の円盤中の恒星は、円盤内を普段は円軌道に近い軌道で運動しているが、この軌道半径が時間変化する現象。棒状構造や渦状腕などの非軸対称な構造の重力的影響や、巨大分子雲などの重い天体との近接遭遇などにより発生する。

 

[7] 棒状構造の共回転半径/共回転バリア(corotation radius / corotation barrier)

棒状構造のパターンの回転速度と、個々の恒星の回転速度が一致する半径(共回転半径)。この半径では、恒星は棒状構造に対して相対的に静止しているため、棒状構造から常に同じ重力を受ける。恒星は共回転半径付近に留まりやすく、動径方向移動の際に共回転半径を超えて内外へ移動しにくい(共回転バリア)。

 

7.論文情報

 

タイトル:Solar twins in Gaia DR3 GSP-Spec I. Building a large catalog of solar twins with ages

著者:Daisuke Taniguchi, Patrick de Laverny, Alejandra Recio-Blanco, Takuji Tsujimoto, Pedro A. Palicio

掲載誌:Astronomy & Astrophysics

掲載日:2026年3月12日

DOI:10.1051/0004-6361/202658913

 

タイトル:Solar twins in Gaia DR3 GSP-Spec II. Age distribution and its implications for the Sun's migration

著者:Takuji Tsujimoto, Daisuke Taniguchi, Alejandra Recio-Blanco, Pedro A. Palicio, Patrick de Laverny

掲載誌:Astronomy & Astrophysics(Letter to the Editor)

掲載日:2026年3月12日

DOI:10.1051/0004-6361/202658914

 

研究助成:本研究は、東京都立大学「知のみやこプロジェクト」およびJSPS科研費(課題番号:22K18280、23H00132、23KJ2149)などの支援を受けて行われました。

 

 

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太陽系と太陽双子星[1]たちの大移動のイメージ。(クレジット:国立天文台)

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