脳梗塞に対する脳の免疫細胞ミクログリアを用いた新しい細胞療法の成功

新潟大学

脳の免疫細胞であるミクログリアは,病気の状況によって脳を攻撃することも保護することもあります。新潟大学脳研究所下畑准教授,金澤助教らの研究グループは,薬剤を用いない簡単な刺激にて,脳保護的なミクログリアに変化できることを初めて見出しました。脳梗塞の画期的な治療法につながるものと期待されます。

2017年2月15日

国立大学法人 新潟大学

脳梗塞に対する脳の免疫細胞ミクログリアを用いた新しい細胞療法の成功

-早期治療やがん化の低リスクなどより有効で安全な臨床応用へ-

 脳の免疫細胞であるミクログリアは,病気の状況によって脳を攻撃することも,保護することもあります。本学脳研究所神経内科下畑准教授,金澤助教らの研究グループは,薬剤を用いない簡単な刺激にて,脳保護的なミクログリアに変化できることを初めて見出しました。この細胞を脳梗塞ラットに投与したところ,その後遺症が大幅に改善し,脳梗塞の画期的な治療法につながるものと期待されます。

 本研究成果は,本学脳研究所神経内科と国立病院機構新潟病院の共同研究によるもので,Scientific Reports誌(ネイチャー・パブリッシング・グループのオープンアクセスの電子ジャーナル:インパクトファクター5.228)に2017年2月14日(火)19時に掲載されました。

Ⅰ.研究の背景

 脳卒中は,本邦での死因の第4位,寝たきりの原因の1位となっており,高齢化社会を迎え,脳卒中患者は急増し,2人に1人が脳卒中を発症する時代に突入しています。脳卒中のなかでも,血管が詰まることで発症する脳梗塞は,近年増加し,後遺症に苦しむ患者も多く,治療にかかる医療費は増加の一途をたどっています。また,慢性期の治療は再発の予防が主体で,機能回復療法はリハビリに限られていますが,リハビリでも十分な機能回復を得られず,後遺症をもつ患者さんが多くいるため,社会的な問題となっているところです。

Ⅱ.研究の概要

 脳梗塞後における脳の障害のメカニズムは非常に複雑で,さまざまな物質が関わるため,単一の物質を標的とする薬による治療では十分な効果を期待することは困難です。また,脳には血液脳関門という血管内の物質を脳に入りにくくするバリアがあり,薬剤が到達しにくいという問題も持ち合わせています。

 我々は,新たな治療法として脳の免疫細胞であるミクログリアに着目しました。その理由は,(1)状況によって強力で多彩な脳保護作用をもつM2ミクログリアに変化すること,(2)血液脳関門を通過し,脳梗塞病変に集まる性質をもつことが挙げられます。しかし,副作用をもたらす可能性のある薬剤を使用することなく,M2ミクログリアに変化させることはこれまで不可能でした。我々はミクログリアを脳梗塞に類似した環境,すなわち酸素とブドウ糖の濃度が低下した状況に短時間曝露させるという簡単な刺激により,脳保護的なM2ミクログリアに変化できることを初めて発見しました。脳梗塞を発症後,すでに1週間を経過したラットに,その細胞を投与すると,血管のバリアを越えて脳内に入り込み,成長因子やいくつかの脳保護蛋白を脳梗塞の病変周囲で増加させることを明らかにしました。さらには,脳梗塞病変における新しい血管の再生(図1),および神経細胞の再生が促進され,その結果,脳梗塞後遺症である運動感覚障害の回復が促進されることを(図2),世界で初めて明らかにしました。

図1

図1:ミクログリア投与後の血管新生の増加と神経軸索の伸展

・上段右で緑色に線状に伸びているのが,新しく再生された脳の血管

・下段右で緑色に細かく光っているのが,新しく再生した神経細胞の枝(神経軸索)

・いずれも無治療群(左)と比較して,顕著な再生の促進が見られ,運動感覚機能の回復を促進している.

図2

図2 ミクログリア細胞投与後の機能回復

ヒトにおける脳梗塞の急性期治療は発症から6時間までしか効かないが,このミクログリア療法は脳梗塞発症から7日後に治療を開始しても(青矢印),発症28日目の評価で,もともとの機能の80%以上にまで機能の改善が可能である(赤矢印).

Ⅲ.研究の成果

 本研究では,ミクログリア細胞に簡単な刺激を行うことにより,脳保護的に作用する善玉のM2ミクログリアに変化できること,ならびにこの細胞を急性期治療ができなかった後遺症のみられる脳梗塞患者さんに移植することで,機能回復が促進される治療法となりうることを明らかにしました。併せて,機能回復のメカニズムとして,投与したミクログリアが脳梗塞病変に自ら集まること,実際に血管や神経細胞の再生を促進することを示しました。

 脳梗塞に対する細胞療法としては,さまざまな細胞が研究されており,代表的な細胞としてiPS細胞や幹細胞がありますが,これらと比較して,細胞の操作が簡便であり,発症早期からの治療が可能である点,また自身の細胞を低酸素と低ブドウ糖の状況に曝露するのみであるためがん化のリスクがない点で,より有効で安全な臨床応用が可能となります。

Ⅳ.今後の展開

 この治療が実用化されると,慢性期の機能回復として,初めての画期的な内科的治療法と なります。また,比較的簡単な操作で,ミクログリアのM2化が可能であるため,専門的な細胞調整センターをもたない一般病院における治療の普及につながります。加えてミクログリアは現在の技術で脳から採取できるほか,血液のなかにもミクログリアに似た細胞が存在するため,さらに簡便な治療法を開発できる可能性があります。

Ⅴ.研究成果の公表

本研究成果は,本学脳研究所神経内科と国立病院機構新潟病院の共同研究によるもので,Scientific Reports誌(ネイチャー・パブリッシング・グループのオープンアクセスの電子ジャーナル:インパクトファクター5.228)に2017年2月14日(火)19時(日本時間)に掲載されました。

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図1

図2

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