【京大×漢検】研究プロジェクト開始のお知らせ

2017年9月25日

国立大学法人 京都大学

公益財団法人 日本漢字能力検定協会

京都大学と漢検協会、3年間の研究プロジェクトを開始

漢字能力-脳機能の関連解明や漢字学習支援策提言を目指す

国立大学法人 京都大学(本部:京都市左京区、総長:山極壽一/以下、京都大学)と公益財団法人 日本漢字能力検定協会(本部:京都市東山区、代表理事:髙坂節三/以下、漢検協会)は、漢字・日本語学習の実態や効果を科学的に検証し、漢字習得や能力維持に効果的な漢字学習法などの提言を行うことを目的に、2017年度から2019年度までの3年にわたる研究プロジェクトを立ち上げます。

本プロジェクトでは、1.「ライフサイクルにおける漢字神経ネットワークの学際研究」(以下、漢字神経ネットワーク研究)と2.「人工知能(AI)による漢字・日本語学習研究」の2つの研究を進めます。

「漢字神経ネットワーク研究」は、臨床神経学が専門の髙橋良輔医学研究科教授や精神医学を専門とする村井俊哉医学研究科教授をはじめ、医学研究科が主体となり行います。本研究は、学習期(学童期~青年期)と能力維持期(老年期)の2層を対象とし進めていきます。学習期対象の研究では、漢字学習が思考力の発達に及ぼす促進効果を検証。漢字習得の発達的基盤および脳神経基盤を解明し、効果的な漢字学習法の開発を目指します。能力維持期対象の研究では、漢字能力が脳機能の発達・維持に及ぼす効果を科学的に検証し、社会課題である認知症予防に効果的な学習方法を社会に提示することを目指します。京都大学医学研究科が持つ臨床研究のノウハウと、漢検協会が持つ「日本漢字能力検定(以下、漢検)」や「文章読解・作成能力検定(以下、文章検)」等のデータや情報を融合させることで新たな研究成果が得られるものと期待しています。

「人工知能(AI)による漢字・日本語学習研究」は、黒橋禎夫情報学研究科教授、河原大輔准教授をはじめ、情報学研究科が主体となり行います。京都大学には、自然言語処理研究の長い伝統があります。近年ではAIによるディープラーニングを活用した文字認識やテキスト解析などに取り組んでおり、独創的なアルゴリズムの開発や言語処理ツールの公開等に多くの実績があります。一方、漢検協会は、累計受検者数4,000万人を超える「漢検」等の検定試験の実施や学習支援活動の結果、膨大な量の漢字・日本語能力に関する情報やデータ、検定に関するノウハウなどを蓄積しています。本研究では、漢字・日本語の使い方を大規模かつ科学的に解析し、研究成果を漢字学習の質的向上や日本語の文章力向上などの学習支援につなげ、研究成果を社会に向けて発信していきます。

両研究とも2020年3月31日までの3年間を予定しており、漢検協会は漢字能力および検定に関する情報やデータを京都大学へ提供し、活動支援として各研究につき年間3,500万円を助成します。

両研究の途中経過や研究成果は、今後、漢検協会ホームページのプロジェクトページ(http://www.kanken.or.jp/project/investigation/project.html)で公開する予定です。

◆「漢字神経ネットワーク研究」の背景と目的

私たち日本語生活者にとって、漢字は欠かせない存在です。しかし、漢字は仮名やアルファベットに比べ、学習に時間を要し、かつ学習後も忘却してしまいがちな文字でもあります。そのため、日本語生活者にとって漢字の学習と漢字能力の維持は、重要な課題となっています。

急速に少子高齢化が進む日本では、健康上の問題がない状態で日常生活を送ることのできる「健康寿命」を長く保てることが重要な課題となっており、認知症予防もそのひとつです。

認知症予防においては、仮に脳内で病理変化が進行し認知症を発症したとしても、認知機能的には正常なままで寿命を迎えることができる「高認知予備能(※1)」に注目が集まっています。過去にアメリカの大学が行った「ナン・スタディ(※2)」では、若い頃から「知的蓄え」がある人は、脳内でアルツハイマー病を発病しても、認知症の発症リスクを抑えられるのではないかと提唱しています。漢字能力も「知的蓄え」のひとつであり、漢字学習は脳の活性化に一定の効果があると言われていますが、未だ科学的に解明されていない部分も多く残されています。社会課題の解決の一助となる効果的な方法を社会に提示することが求められています。

※1:「認知予備能」とは、失われた神経細胞の働きを補完する働きのこと。これにより、認知症を発症した場合も認知症症状の程度を抑制できると考えられている。

※2:1986年より、米ミネソタ大学の予防医学研究グループが、ノートルダム修道院の協力を得て行っている研究。これまでに認知症に関する様々な知見をもたらしている。

一方、学習期における漢字習得は、すべての教科学習の基盤であり、言語的思考力を含む知的能力の発達を支えるものです。「ナン・スタディ」では言語的思考力は、老年期の脳機能に関する強力な予測因子であることが報告され、「認知予備能」の指標になり得ると考えられており、漢字学習と思考力の関係について検討することは、生涯発達の観点から重要な課題です。学童期から青年期に思考力を十分に育てることが、生涯にわたる健全な生活機能の維持につながると考えられ、その時期における漢字学習の量や質は思考力の発達に重大な影響を及ぼしていると考えられます。研究を通して学習期の漢字習得と思考力の実態を明らかにし、漢字学習の意義を科学的に説明することを目指します。

このような社会的背景から、京都大学と漢検協会は、漢字能力を身につけ維持することの重要性を科学的に証明することを目的に、学習期と能力維持期の2層を対象にした『「漢字神経ネットワーク」研究』を行うことで合意しました。

学習期対象の研究では、効果的な漢字学習法の開発や学校教育・医療分野への貢献につながる、漢字学習の発達的基盤および脳神経基盤の解明を行います。能力維持期対象の研究では、現在の高齢者はもちろん、これから高齢に向かうすべての学習者と学習指導者へ貢献すべく、「高認知予備能」と、漢字能力や漢字学習との関係を明らかにします。

◆「人工知能(AI)による漢字・日本語研究」の背景と目的

「漢検」は、年間約200万人、累計約4,000万人の受検者を抱えており、設問1問に対し数万を超える解答データを保有していますが、これまで受検者の解答データを充分に分析するには至っておりませんでした。また、漢検協会には、検定やその他の学習支援活動を通じて蓄積されたノウハウや材料が多く存在します。それらを分析し学習材料を提供するなど、学習者や学習指導者をはじめ広く社会一般に対して有益な情報として還元することが、日本語・漢字に関する能力育成活動を推進する漢検協会の長年の願いでありました。

本研究では、自然言語処理研究の伝統と言語処理ツールの公開等の実績をもつ京都大学が、漢検協会の保有する出題ノウハウや採点結果等を、人工知能(AI)やその他の技術によって解析します。漢検協会の提供する膨大なデータをもとに、京都大学の大規模コーパス・解析システムを合わせて活用することで、語彙の難易度や関連度の指標化、誤答の分類、学習者レベルに応じた妥当性の高い学習指針の提供を目指します。これにより、検定受検者のみならず漢字・日本語学習者の学習意欲を喚起し、語彙や漢字能力獲得の機会を最大化することを目的としています。

◆今後の概略スケジュール

2017年度

「漢字神経ネットワーク研究」

・学習期:大学生の漢字能力と思考力、神経認知機能との関連性の検討

・能力維持期:健常者、軽度認知機能障害の患者、認知症の患者の漢字能力と認知機能の関連性の検討

「人工知能(AI)による漢字・日本語学習研究」

・研究実施方法の確定、仮説設定および検証の開始

2018年度

「漢字神経ネットワーク研究」

・学習期:漢字学習の効果の検証、漢字学習が思考力に及ぼす効果の検証

・能力維持期:漢字能力が認知予備能を反映するかの検討、漢字能力と認知機能の相関について検討

「人工知能(AI)による漢字・日本語学習研究」

・語彙難易度表(第一案)の策定、語彙関連度分類の実施、誤答分析の実施

2019年度

「漢字神経ネットワーク研究」

・学習期:漢字能力と脳神経画像指標との関連性の検討

・能力維持期:漢字学習の認知症進行抑制に対する効果の検証

「人工知能(AI)による漢字・日本語学習研究」

・語彙関連分類(第一案)の策定、誤答分析等に関する公表

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  • 所在地 京都府
  • 業種 教育サービス
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