「水泡眼金魚を利用した新しい免疫学ex vivo実験系を確立」

~観賞魚・養殖魚への応用で水産業の生産性向上~

帝京大学

2021年5月24日

帝京大学

「水泡眼金魚を利用した新しい免疫学ex vivo実験系を確立」 ~観賞魚・養殖魚への応用で水産業の生産性向上~

 

帝京大学薬学部カイコ創薬学講座特任教授の関水和久と同客員研究員の中島弘人らの研究チームが、「水泡眼金魚を利用した新しい免疫学ex vivo実験系」を確立しました。

 

【研究のポイント】

◆個体を生きたままの状態でリンパ液・リンパ球を採取できる実験動物として水泡眼金魚に着目し、

水泡眼金魚を用いた免疫学実験系を確立しました。

◆魚に対する免疫活性化剤の効果を評価する上で有用であり、観賞魚、養殖魚への応用が期待

されます。

◆今後、本研究内容に基づく特許の活用を図ります(本学特許出願済、特願2020-081959)。

現在、免疫活性化物質を添加した金魚エサの生理活性を評価する実験を行なっています。

 

【研究の概要】

 本研究では、水泡眼金魚(両目の下に大きな袋状の構造を持つ観賞用の株)を、動物を犠牲にすることなくリンパ液の免疫細胞を取り出して解析する(ex vivo (エックスビボ)実験と呼ばれる)ことが可能な技術的利点を活かして、魚類の免疫学的研究へ新たに応用することを検討しました。多くの水生生物で知られているように、一般的な金魚系統は高温での感染感受性が高まることが知られていますが、私たちは水泡眼金魚を用いた新しい実験系において、高温における感染感受性の増大が免疫機能の低下によってもたらされることを示唆する結果を得ました。緑膿菌の加熱死菌を水泡内に注入すると、炎症症状(表面の発赤)が生じ、炎症性サイトカインの遺伝子発現の増加が観察されましたが、飼育温度を上げると炎症性遺伝子発現の誘導が抑制されました。さらに、水泡から採取した免疫細胞を培養してex vivo実験を行ったところ、ex vivo培養を行う際の培養温度を上昇させると炎症性サイトカインの発現誘導が抑制されることが分かりました。したがって、水泡内に存在する免疫細胞の高温における機能低下は細胞の自律的な機能であると考えられます。これらの結果から、水泡眼金魚は魚類の免疫細胞をex vivoで解析するのに適したモデルであり、温度上昇によって引き起こされる金魚の感染感受性増大は、免疫細胞の機能低下に起因することが示唆されました。

【研究成果の意義】

 本研究では、水泡眼金魚を用いて免疫反応を研究する実験系を確立しました。本研究で示されたように、水泡眼金魚を用いた実験系は、免疫細胞のin vivoおよびex vivoの両方の実験に適しています。水泡眼金魚を用いたex vivo実験では、水泡から注射針を用いてリンパ液を採取することによって、動物を犠牲にすることなく免疫細胞を採取することができ、採取した免疫細胞は培養して実験に用いることができます。生体外で培養した細胞は、細菌由来成分に晒すことによってサイトカイン遺伝子を発現し、これは生体内で観察されたサイトカイン遺伝子の発現と一致します。また、温度上昇に伴い、免疫細胞のサイトカイン遺伝子の発現が減少したことから、温度上昇に伴う金魚の感染リスクの増加に、免疫担当細胞の機能低下が関与していることが示唆されました。

 サイトカインのうち、本研究で着目したIL1βとTNFαは、哺乳類と魚類の両方で食細胞の活性化や一連の免疫反応細胞における免疫関連遺伝子の発現促進など、自然免疫と獲得免疫の両方で重要な役割を果たしていることが知られています。したがって、病原体の進入に応じてIL1βやTNFαの発現を誘導できるかどうかは、その動物の感染抵抗性を決定する重要な要因の一つであると考えられています。この意味で、今回の実験的な温度上昇で金魚の細菌感染が亢進したのは、温度上昇でこれらのサイトカインの誘導が抑制されたためと考えられますが、細菌の増殖に最適な温度も感染の成立においては重要な要素である点は注意が必要です。

 顕微鏡観察の結果、水泡内に存在する細胞は、細胞の大きさや核の大きさといった組織学的特性が不均一であることが示されました。また、培養に用いたプラスチック容器への接着率は約50%であり、ディッシュに接着しなかった細胞は、接着した細胞集団とは異なる細胞集団である可能性があります。本研究においてプラスチック容器に接着した細胞集団は、細菌の侵入に反応して炎症性サイトカインの発現を引き起こす細胞であり、炎症性サイトカインの産生に関与していることが示唆されました。先行研究においては、金魚のマクロファージはIL1βやTNFαを発現していることが明らかになっており、これらは私たちの発見と一致しています。

 金魚は様々な温度範囲(通常15~30℃)で飼育されることが多く、十分な順応期間を経れば温度上昇に耐えることができます。サイトカイン発現の温度感受性については、魚類の免疫細胞における知見は少ないものの、ごく最近のフナを用いたin vivo実験において、細菌感染後の宿主の生存率と炎症性サイトカインの遺伝子発現が温度上昇によって低下することが示されており、本研究の結果を支持しています。水泡眼金魚では、動物を犠牲にすることなく各個体から最大1mLのリンパ液を採取可能なため、免疫細胞の継時的な分析(同じ個体から何度も繰り返しサンプルを採取する)を行うことができます。この特長は、水泡眼金魚を用いた本モデルの大きな利点であり、魚類の免疫に関する分子レベルでの研究を加速させ、水産業の生産性向上に貢献するものと考えられます。

 

※本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業 若手研究(20K16253)、株式会社ゲノム創薬研究所(東京都文京区)、および金魚坂(東京都文京区)の支援を受けて行われました。

 

【発表雑誌】 

雑誌名:「Scientific Reports」

掲載日:2021年5月24日(日本時間)オンライン版に掲載

論文タイトル:A novel application of bubble-eye strain of Carassius auratus for ex vivo fish immunological studies

著者:Hiroto Nakajima, Atsushi Miyashita, Hiroshi Hamamoto, and Kazuhisa Sekimizu

URL:https://www.nature.com/articles/

 

【参考図】

図1)水泡眼金魚の写真と、免疫刺激による水泡での炎症反応

図2)水泡から採取された免疫担当細胞の顕微鏡像

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