“働き甲斐”のある障がい者就労で インクルーシブな社会に【東洋大学 SDGs NewsLetter Vol.05】

東洋大学は“知の拠点”として地球社会の未来へ貢献します

東洋大学

2022年2月22日発行

東洋大学

東洋大学 SDGs NewsLetter Vol.05

東洋大学は“知の拠点”として地球社会の未来へ貢献します

 

“働き甲斐”のある障がい者就労で

インクルーシブな社会に

 

 本ニュースレターでは、東洋大学が未来を見据えて、社会に貢献するべく取り組んでいる研究や活動についてお伝えします。

 今回は、ライフデザイン学部人間環境デザイン学科の池田千登勢教授に、SDGs(持続可能な開発目標)の観点から考える障がい者就労支援とインクルーシブな社会について聞きました。

 

 

ライフデザイン学部 人間環境デザイン学科 

教授 池田千登勢

 

Point

1.自分の力を生かせるインクルーシブな社会へ

2.努力や工夫が実る喜びが次なる行動への原動力に

3.学生と福祉の現場が共に考え、学びあう協働 が実現

 

    

 

 

自分の力を生かせるインクルーシブな社会へ

池田先生は就労継続支援B型事業所や各機関等と連携し、さまざまな商品開発プロジェクトに参画しています。福祉事業所にはどのような課題があるか教えてください。

 福祉事業所には、労働契約があり最低賃金が保証される「A型事業所」、労働契約がなく就労訓練のための「B型事業所」、一般就労を目指す「就労移行支援事業所」があります。

 私が研究しているのはB型事業所で、B型は障がいが重い方が就労訓練のため勤務し、パンや菓子などの製造販売事業や、アクセサリーや雑貨の製造販売事業を手掛けるケースが多いです。食品の場合、レシピが明確で品質を安定化しやすく、少数生産を生かして原料にこだわれば個性も表現しやすいのですが、管理や衛生面のハードルが高いです。そのため、とくに新規事業所は作りやすい雑貨類を扱うことが多いのです。けれども、一般商品との差別化がしづらく直接競合するので、品質やデザインに厳しい目が向けられる傾向にあります。多くの事業所が「『一生懸命に作った』だけでは訴求できない」「安くしないと売れない」「買い手がいつも同じ」といった悩みを抱え、授産事業による利益を十分確保することが厳しい状況です。

 

一般企業のようにデザインやマーケティング、経営のプロがいれば、状況が改善するのではないでしょうか。

 全国の自治体ではデザインや経営のプロによる支援プロジェクトを実施していますが、本質的な課題解決にはつながっていないケースもあります。とくにデザイン支援は一時的な「点の支援」となりがちで、プロジェクトが終わると福祉事業所はもとの商品開発力に戻ってしまうことも多いのです。また、専門家の意見が絶対的なものと捉えられ、事業所側が受け身になってしまうこともあります。このように支援を<する側>と<受ける側>が分かれていると、せっかく協働を試みても一方通行で終わってしまうことが課題となっています。

 私はプロジェクトの位置づけや授産商品の開発・販売プロセス等を工夫し、福祉事業所に長期的な効果をもたらすような支援をすることで、自分の力を生かし、障がいの有無等による分け隔てがなく孤立しないインクルーシブな社会が実現するよう、研究を続けています。

 いくつかの好事例もあります。コロナ禍以前の話ですが、ある自治体は域内の福祉事業所が合同で商品の改善をし、販売手法を学び実践するプロジェクトを実施しました。最初は参加に消極的な事業所もありましたが、お互いの商品を良くする活動や販売実習からはさまざまな気づきがあったようです。商品へのフィードバックはもちろんのこと、商品の並べ方や見せ方、お客さまへの声のかけ方など、一般企業なら担当者がノウハウとして持つ当たり前のことを、彼らは身をもって学び、商品開発や販売にも好影響を及ぼしました。専門家から言われた通りのものを作って売るだけでは事業所や利用者の成長にならず、次の主体的な活動にもつながりません。自分たちで気づきを得る“アクティブ・ラーニング”が重要で、そこで得られる経験や働き甲斐は非常に大きなものとなります。

 

 

努力や工夫が実る喜びが次なる行動への原動力に

アクティブ・ラーニングを取り入れている事例としては、どのような支援が行われているのでしょうか。

 東京都では「KURUMIRU(くるみる)」というプロジェクトで、実店舗とウェブサイトを運営しています。KURUMIRUの特長はプロによるデザイン提供や商品開発の援助をしないこと、その代わりに各事業所が手掛ける商品の商品力向上のアドバイスと、品質管理を徹底していること。商品にばらつきが出ても、それが個性と言えるものならば良いのですが、販売前に規定に満たないものは「障がいのある方が一生懸命に作ったのだから仕方ない」と許容せずに、アドバイスとともに返品し改善してもらう体制が整っています。

 雑貨類の開発・販売の難しさは前述の通りですが、多くの事業所が牛乳パックの再生紙やビーズ細工など、作りやすいものを作り、結果、思うようには売れません。そこでKURUMIRUでは年20回ほど販売フェアを企画し、福祉事業所が各季節のフェアに合わせて4ヶ月前から商品開発に取り組めるようにしています。冬に販売する商品を夏に考えるのは企業なら当たり前のことですが、これまでは冬に冬物を作るので、売るころには季節外れということもありました。こうした努力が少しずつ実を結び、自分たちで考えた商品が売れるようになると、作り手である障がいのある方も、企画や販売を担う職員も手ごたえを感じますから、それが好循環を生んで持続可能な事業所支援になっていくのではないでしょうか。

 

 

学生と福祉の現場が共に考え、学びあう協働が実現

福祉事業所とのプロジェクトには研究室の学生も参加しているそうですね。

 商品の企画開発では学生も提案をしています。ある学生は、木工作業が得意な事業所に対して、ペーパーウッドという断面がカラフルな合板の素材を紹介しました。すると事業所の職員が関心を持って、自分たちの技術を活かし、寄木細工のようなアクセサリーを考案し、とてもよく売れる商品の開発に成功しました。さらに、材料調達コストが見合わなかったので、事業所は知恵を絞り、建築現場でもらい受けた端材に画用紙を挟み込み、オリジナルカラーのペーパーウッド風の板材を手作りしたのです。ユニークなアイデアだと感心しました。ほかにも、漂白した松ぼっくりを薄いピンク色に染めて、春のリース製作に挑戦したこともあります。

 事業所は学生のフレッシュなアイデアを喜んでくれますし、若者がいるだけで作業場が活気づく効果もあるようです。そして、学生のアイデアを何とか商品化しようと努めてくれます。プロではない学生だからこそ、お互いにアイデアを出しながら「一緒に商品を作ろう」という協働意識が生まれやすいのだと思います。

 今後も、福学連携による商品開発をはじめ、誰もが働き甲斐を感じられるディーセント・ワークの実現により、持続可能な社会へ貢献していきたいと思います。

 

 

▲研究室にある授産商品

 

 

 

池田 千登勢(いけだ ちとせ)

東洋大学 ライフデザイン学部人間環境デザイン学科 教授

 

専門分野:プロダクトデザイン、ユニバーサルデザイン

研究キーワード:授産商品とデザイン、芸術療法とデザイン、方向感覚とデザイン

 

 

本News Letterは本学SDGs特設サイトでもご覧いただけます。

TOYO SDGs News Letter 

https://www.toyo.ac.jp/sdgs/

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