容器の工夫で食品が長持ち 年間600万トン超のフードロスを救う【東洋大学 SDGs News Letter Vol.08】
東洋大学は“知の拠点”として地球社会の未来へ貢献します
2022年4月13日発行
東洋大学
東洋大学 SDGs News Letter Vol.08
東洋大学は“知の拠点”として地球社会の未来へ貢献します
容器の工夫で食品が長持ち
年間600万トン超のフードロスを救う
本ニュースレターでは、東洋大学が未来を見据えて、社会に貢献すべく取り組んでいる研究や活動についてお伝えします。
今回は、食環境科学部食環境科学科の佐藤順教授に、フードロス削減に貢献するガス置換包装<Modified Atmosphere Packaging(MAP)>とその効果について、お伺いしました。
食環境科学部 食環境科学科
教授 佐藤 順
Point
1.食品保存の大敵は空気だった!?
2.日本は年間600万トン超の食品を廃棄
3.MAPの技術を新たな商品開発に活用
食品保存の大敵は空気だった!?
食品を長期保存するための食品容器の包装技術「ガス置換包装(MAP)」ですが、そもそも包装の仕方を変えるだけでなぜ保存可能期間が変わるのでしょうか。
MAPは食品を専用容器に入れて中の空気を除去後、容器内の食品が外の空気に触れないよう、窒素や酸素、二酸化炭素などのガスもしくは混合ガスに置き換える包装技術です。容器に封をする際は、嵌合(かんごう)蓋ではなく、密封が可能なシールタイプの包装資材を使用します。窒素には鮮度維持の効果があり、二酸化炭素には制菌作用があるので、食品が長持ちするという仕組みです。MAPは新しい技術ではなく、1930年代に開発が始まり、欧米では多くの食品に活用されています。実は1990年代半ばに日本でも導入が検討されたことがあります。当時は包装用の装置も包装資材も高額で、普及には至りませんでしたが、近年はフードロス削減の機運が高まり、コンビニを中心にMAPの導入事例が増えてきました。コンビニではお惣菜などを業務委託の総菜工場で加工調理しますから、店舗のバックヤードで調理するスーパーマーケットに比べて設備投資しやすいのだと考えられます。
ガスの種類による効果の違いはありますか。また、食品による向き不向きがあれば教えてください。
腐敗の原因は食品に汚染している細菌にあります。細菌はある時期から増殖が加速し、ある程度まで増えると増殖の速度が鈍化するので、「食品に汚染する細菌を減らす」「増殖が加速するまでの時期を遅らせる」「増殖の速度を緩やかにする」という3つのアプローチが有効です。細菌の種類は食品によって異なり、MAPではそれぞれに最適なガスを採用して、細菌が増殖する時期と速度をコントロールします。ガスは混合する場合もあれば、単独で使う場合もあり、さまざまな食品で実験をしながら最適解を模索しています。豚小間肉では、通常3日程度で腐敗が始まりますが、酸素65%、二酸化炭素35%の混合ガスを使用したところ、8日間以上も鮮度を保つことができました。
食肉製品は全体にMAPの効果が高い傾向にあります。加工食品では、ハンバーグは窒素80%、二酸化炭素20%、筑前煮は窒素70%、二酸化炭素30%の混合ガスがそれぞれ有効でした。商用として考えると、総じて2日間程度は消費期限を延ばせるでしょう。一方、鮮度維持の効果が見られなかったのはバナメイエビやブラックタイガー。そもそも汚染している細菌が多く、ガスだけでは制御できないためと考えられます。また、ローストビーフはMAPの赤色維持効果が消費者の優良誤認を招かないように保存性とのバランスを考慮すべき製品と言えます。MAPは万能ではありませんが、安全に鮮度を維持できますから、使える食材にはどんどん活用が広がってほしいと考えています。
▲MAP装置と佐藤研究室の学生
日本は年間600万トン超の食品を廃棄
まだ食べられるものを廃棄したり、売れ残ったために廃棄せざるを得なかったり、世界的にフードロスの問題が注目されています。
農林水産省の調査によれば、日本国内では年間600万トン以上の食品が廃棄されています。もしMAPの導入によって消費期限を1日でも2日でも延ばせたら、廃棄される食品を減らせます。例えば、国内にはコンビニが5万店以上あるので相当な削減効果が見込めるでしょう。また、店頭に陳列できる期間が長くなれば、生産量や仕入れの適正化にもつながるでしょうし、廃棄に関係する人件費や物流費なども抑えることができるはずです。SDG12のターゲット12.3には「2030年までに小売・消費レベルにおける世界全体の一人当たりの食品廃棄物を半減」とあり、MAPならば貢献できると考えています。
なお、フードロス削減には、賞味期限が近い食品を福祉施設などに寄附するフードバンクや、飲食店での食べ残しを持ち帰るドギーバッグなども有効です。また、国内の流通には3分の1ルールと呼ばれる商慣行があり、賞味期限が全体の3分の1になる前に小売店に納品する必要があります。消費者にとって鮮度管理は利点ですが、過剰な管理はロスを増やしますから、時代に合わせて商慣行を見直していくことも必要だと考えます。
MAPの技術を新たな商品開発に活用
今後、MAPの技術をどのようなことに活用されますか。
私は食品企業で微生物抑制の仕事をしていましたが、ヨーグルトなど発酵食品のもとになる善玉菌の研究は注目度が高く“花形”で、腐敗菌や食中毒菌を制御するための悪玉菌の研究は“縁の下の力持ち”というイメージでした。一方、大学はフードロス削減など公共性の高い研究テーマに挑戦しやすく、今はMAPの新たな活用法の研究にも取り組んでいます。具体的にはMAPを活用した野菜サラダの輸出。植物工場のように細菌が少ない栽培方法の野菜を使用し、MAPと低温管理で菌の増殖を抑えられれば1週間くらいは鮮度を維持できます。東南アジア諸国を中心に日本の食品へのロイヤルティが高いので、フードロス削減の観点だけではなく、輸出による経済的効果にもつながるのではないでしょうか。
日本の農林水産物・食品の輸出拡大は政府の重要政策の一つです。MAPについては相応の知見があるので、今後は共同で取り組める植物工場や食品メーカーなどのパートナーが見つかれば、事業化に向けて進められると考えています。こういったプロジェクトにもMAPが活用されることで食品保存の可能性が広がり、コンビニやスーパー以外でも導入が進んでいくことを期待しています。
佐藤 順(さとう じゅん)
東洋大学 食環境科学部食環境科学科 教授
専門分野:食品衛生学、食品微生物学
研究キーワード:微生物制御、殺菌、消費期限延長
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