ヤギのプロゲステロン錠剤誘発過排卵における卵巣動態の磁気共鳴イメージングによる評価

岐阜大学

2024年2月27日

岐阜大学

ヤギのプロゲステロン錠剤誘発過排卵における卵巣動態の磁気共鳴イメージングによる評価

 

 岐阜大学高等研究院One Medicineトランスレーショナルリサーチセンター(COMIT)・共同獣医学研究科(以下「岐阜大学」)高須准教授らの研究グループと株式会社セツロテック(本社:徳島県徳島市、代表取締役:竹澤慎一郎、以下「セツロテック」)の貝沼研究員、稲谷研究員(当時)は、従来法である膣内留置プロゲステロン徐放装置(CIDR)1)を用いずにプロゲステロン錠剤2)を用いることでヤギの過排卵処置ができること、磁気共鳴イメージング(MRI)3)により卵巣動態の観察が可能であることを実験で実証しました。

 ゲノム編集ヤギは、医薬品・繊維など有用物質生産を行うバイオリアクターや分子メカニズムを解明するモデル動物としての利用が望まれています。しかしながら、これまでにゲノム編集ヤギ作出に必要な小型家畜に対する高度な生殖技術の実践は制限されていました。

 本成果によって、ヤギの生殖工学の向上に寄与し、ゲノム編集ヤギ作出への新たな展望を開くことで、多岐にわたる社会的利益をもたらすことが期待されます。

 本研究成果は、令和6年1月17日にAnimal Science Journalに掲載されました。

 

【本件の背景】

 ゲノム編集ヤギの作出には、過排卵処置やそれに続く胚移植のような高度な生殖技術の実践が必須です。しかしながら、ヤギの過排卵には膣内留置プロゲステロン徐放装置(CIDR)を使用するのが一般的であるものの、このような装置は日本を含むいくつかの国では利用することができません。また、卵巣の観察は経直腸超音波検査により行われますが、ヤギのような小型家畜ではその適用が難しく、経直腸超音波検査の精度は実施者の技量に左右されてしまいます。(図①)

  そこで本研究では、ヤギにおけるプロゲステロン錠剤を用いた代替過排卵プロトコールの有効性を検討し、さらに磁気共鳴イメージング(MRI)により卵巣の観察が可能であるかを検討しました。(図②)

 

 

【研究内容】

 ヤギの過排卵を起こすため、膣内プロゲステロン錠剤(ルチナス®膣錠100mg)を用いて標準的な過排卵プロトコールを行いました。プロゲステロン投与1日前(Day 1)および投与終了3日前(Day 11-13)に3T磁気共鳴イメージング(MRI)を用いて卵巣動態を評価しました。

 卵巣モニタリングはMRIのshort tau inversion recovery T2強調画像で首尾よく行われ、排卵はプロゲステロン錠剤投与後13日目に卵胞が消失したことによって確認されました。(写真③)

 

 

 排卵直後の卵管洗浄により、相当数の卵母細胞を得ることができました(動物あたり13.5±1.8個)。(写真④)

 

 これらの所見は、プロゲステロン錠剤の投与による過排卵誘起がヤギへの有効な代替手段となるということを示すものです。さらに、ヤギにおける過排卵後の卵巣動態の観察において、3T-MRIが従来の超音波検査に代わる有望な検査法であることを示唆しました。

 この成果はヤギの生殖工学の向上に寄与し、さらにはヤギのゲノム編集への新たな展望を開きます。

 

【特記事項】

本研究は、岐阜大学高等研究院One Medicineトランスレーショナルリサーチセンター(COMIT)・共同獣医学研究科と株式会社セツロテックとの共同研究です。

 

【用語説明】

1)膣内留置プロゲステロン徐放装置

発情をコントロールする薬剤で天然型プロゲステロンを含有する膣内留置型の徐放性プロゲステロン製剤です。主にウシで用いられておりInterAg社のEAZI-BREED CIDR(Hamilton, New Zealand)やプリッドテイゾーがあります。CIDRは膣内挿入も簡単で、安定的であり、国内では発情同期化製剤および鈍性発情と卵巣静止の治療薬として認可されています。しかしながら、日本ではヒツジ・ヤギに用いる膣内留置プロゲステロン徐放装置がなく衛生上の懸念から輸入も制限されています。

 

2)プロゲステロン錠剤

ヒトの婦人科領域で日常的に使用されており、ヒト血漿中のプロゲステロン濃度を上昇させます。プロゲステロン錠剤は、生殖補助医療における黄体補充のために使用されます。経腟投与可能な錠剤のため、経口投与でみられる肝臓代謝によるプロゲステロン活性の低下、注射投与でみられる通院の必要性を回避することが可能です。

 

3)磁気共鳴イメージング(MRI

強い磁石と電波によって、身体の内部情報を画像化する検査方法です。CT検査とは異なり、放射線を使わないため、被ばくの心配がありません。脳、がん、神経・筋・靭帯など検査に用いられます。

 

【論文情報】

Kazuki Hano, Satoshi Takashima, Yuka Inatani, Risa Kainuma, Yuki Oiji, Kotono Nakamura, Masato Yayota, Masaki Takasu, "Ovarian dynamics in progesterone tablet-induced superovulation in goats assessed by magnetic resonance imaging", Animal Science Journal (2024) 95(1):e13914. 

https://doi.org/10.1111/asj.13914 

 

【セツロテックについて】

 セツロテックは、徳島大学で培った技術とノウハウを基に2017年に創業した、徳島大学発ベンチャー企業です。徳島大学の竹本龍也(代表取締役会長CTO)らは、2015 年に「ゲノム編集マウスを簡便にかつ高効率に作製できる手法」を開発しました(特許6980218号)。また、徳島大学の沢津橋俊(取締役CSO)は、培養細胞で高効率ゲノム編集を実現するVIKING法を開発しました(特許6956995号)。

セツロテックのミッションは、「生物の潜在的な力を借りて、あなたと地球の課題を解決する産業を創造する」ことです。革新的なゲノム編集技術を活用して、持続可能な社会を築くためのソリューションを提供し、世界中の人々と地球の課題に取り組んでいます。また「ゲノム編集産業革命で、ヒトと地球をもっと豊かに」をビジョンに、技術革新をリードし、社会に革命をもたらす存在として、人類と地球の未来に貢献していきます。

 

◆株式会社セツロテックの概要

1. 商号:株式会社セツロテック

2. 代表者:代表取締役 竹澤 慎一郎

3. 所在地:徳島県徳島市蔵本町3丁目18番地の15 藤井節郎記念医科学センター

4. 設立:2017年2月22日

5. 主な事業の内容:ゲノム編集による研究支援サービスならびに新品種の事業化

6. URL:https://www.setsurotech.com/

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