妊娠に必須であるマクロファージを同定

制御性T細胞(Treg)の集積を導く免疫寛容機構を解明

岐阜大学

2026年2月25日

名古屋大学

岐阜大学

実中研

妊娠に必須であるマクロファージを同定 制御性T細胞(Treg)の集積を導く免疫寛容機構を解明

 

 

本研究のポイント

・子宮に存在する妊娠成立に必要なマクロファージ(*1)を世界で初めて同定しました。

・同定したマクロファージはCD169(Siglec-1)(*2)を発現し、着床の際に制御性T細胞(Treg)(*3)を子宮に集める役割を持つことを明らかにしました。

・CD169陽性マクロファージの機能低下/除去モデルではTregの集積が障害され、着床が成立しないことを示しました。

・CD169陽性マクロファージが産生するケモカイン(*4)(例:CCL8 など)が、Tregの集積を促す機構の一端であることを明らかにしました。

・ヒトの子宮内膜でも、Tregを集積させ得るCD169陽性マクロファージに相当する細胞の存在を示し、不妊・不育症(*5)の新たな治療標的となる可能性を示しました。

 

 

研究概要

 名古屋大学大学院医学系研究科人間拡張・手の外科学の大木 拓究人 特任助教、平田 仁 特任教授、岐阜大学応用生物科学部獣医外科学の宮脇 慎吾 准教授、公益財団法人実中研の末松 誠 所長らの研究グループは、Tregを子宮内膜へ集積させるCD169陽性マクロファージを新たに発見し、妊孕性に必須であることを明らかにしました。妊娠の成立には、受精卵が子宮内膜に受け入れられる過程である「着床」が不可欠です。子宮内膜は着床の際に、本来であれば排除され得る「異物」である受精卵を受け入れるため、特異的な免疫環境を整える必要があります。Tregは、過剰な炎症反応を抑制し自己免疫疾患などの発症を防ぐ免疫細胞です。これまでの研究で、Tregが子宮内膜で働くことが妊娠の成立に不可欠であることが明らかになっていました。しかし、Tregがどのような仕組みで子宮内膜へ集積するのかについては、十分に解明されていませんでした。

 本研究では、マウスの子宮内膜の全免疫細胞をシングルセルRNA-seq(scRNA-seq)(*6)により解析し、CD169を発現するマクロファージを同定しました。着床直前の子宮組織を免疫染色で解析した結果、CD169陽性マクロファージの近傍にTregが集積していることを見出しました。CD169陽性マクロファージは、免疫寛容に関わる遺伝子群(*7)に加え、CCL8を筆頭にケモカインを多く産生する特徴を有していました。そこで、CD169陽性マクロファージの欠損/除去モデル(*8)を用いて解析した結果、子宮でのTreg集積が低下し、着床が成立しないことが明らかになりました。これらの結果は、CD169陽性マクロファージが着床期における免疫環境形成、特にTregの集積に寄与することを示しています。また、ヒトの子宮内膜でも、解析した全検体でCD169陽性マクロファージに相当する細胞が確認され、不妊・不育症の新たな治療標的となる可能性を示しました。

 本成果は、着床期における免疫環境形成の理解を大きく前進させるものであり、原因不明の不妊・不育に関わる免疫学的基盤の解明に資するだけでなく、将来的には免疫環境を標的とした診断・治療戦略の検討につながることが期待されます。

 本研究成果は、2026年2月19日付で『Cell Reports』に掲載されました。

 

 

1.背景

 妊娠は、胎児という「半分が非自己」である存在を母体が受け入れる特殊な免疫状態(免疫寛容)のもとで成立します。この免疫寛容の破綻は、着床不全や流産の原因と可能性が示唆されています。Tregは免疫寛容を誘導する代表的な細胞であり、妊娠の成立に不可欠であることが動物実験により明らかになっていました。しかし、Tregがどのような仕組みで子宮内膜へ集積し機能を発揮するのかについては十分に解明されていませんでした。

 

 

2.研究成果

 本研究では、マウス子宮の免疫細胞をscRNA-seq、フローサイトメトリー、免疫染色、電子顕微鏡などにより解析し、Mrc1、Folr2、Il10などの免疫抑制性遺伝子群に加えて、Tregを集積させるケモカイン遺伝子(CCL8 など)を高発現するCD169陽性マクロファージを同定しました。次に、CD169陽性マクロファージを生体内で選択的に除去できるモデルを用いて機能を検証したところ、除去群では着床がほぼ成立しないことが分かりました(図1)。着床期にはTregがCD169陽性マクロファージの近傍に多く局在しており、これらのマクロファージがTreg集積を誘導する可能性が示されました。さらに、CD169陽性マクロファージは子宮内のCCL8の主要な産生源であり、交配後にその産生を増大させました。Treg数の増加は交配後3日目でピークを迎え、CD169陽性マクロファージにおけるCCL8の発現ピークと一致しました。

 

図1 CD169陽性マクロファージは妊孕性に必須である

 

 さらに、CD169陽性マクロファージを除去、もしくはCCL8を欠損させた場合では、交配後の子宮内膜へのTreg集積と着床数が低下しました(図2)。これらのことから、CD169陽性マクロファージはCCL8を産生し、着床期のTregの集積を誘導することによって妊娠成立を支えることが示されました。このことは、全身性に免疫抑制をするのではなく、母体と胎児の境界線で炎症を抑制する生体システムであると考えられます。

 

図2 CD169陽性マクロファージは子宮内膜へのTregの集積に必要である

 

 最後に、ヒト子宮内膜における全免疫細胞のscRNA-seqデータ再解析と免疫染色により、ヒトにおいてもマウスで同定したCD169陽性マクロファージに相当する細胞の存在を確認しました(図3)。ヒトでは、Treg側受容体(CXCR6/CCR6)に対応するリガンド(CXCL16/CCL20)がCD169陽性マクロファージで高発現しており、CellPhoneDBによる細胞間相互作用解析(*9)でもTregとの優位なコミュニケーション軸が示されました。

 

図3 ヒト子宮内膜におけるCD169陽性マクロファージ

 

 このことは、ヒトにおいてもCD169陽性マクロファージがTregを子宮に集積させ、妊娠を成立させる可能性を示唆しています。したがって、本研究は不妊・不育症の新たな治療標的候補を提示する重要な知見を示すものと考えられます。

 

 

3.今後の展開

 本研究は、これまで十分に解明されていなかった「Tregがどのような仕組みで子宮内膜へ集積するのか」という問いに対し、CD169陽性マクロファージがその集積を誘導する中心的な役割を担うことを明らかにしました。

 本成果は、着床期における免疫環境形成の理解を大きく前進させるものであり、原因不明の不妊・不育に関わる免疫学的基盤の理解に資するだけでなく、将来的にはTreg集積を操作する治療戦略につながることが期待されます。

 

 

4.支援・謝辞

 本研究は、日本学術振興会科研費(22K07138, 25K12676)、日本医療研究開発機構(AMED-CREST, 23gm1510005h0003およびAMED-SCARDA, 263fa627006h0005)、創発的研究支援事業(JPMJFR233W)、公益財団法人 神澤医学研究振興財団、公益財団法人 今井精一記念財団、公益財団法人 堀科学芸術振興財団、公益財団法人持田記念医学薬学振興財団の支援のもとで行われたものです。

 

 

用語説明

(1) マクロファージ:免疫細胞の一種で、体内に侵入した病原体や不要になった細胞成分を取り込み、分解・除去する働きを担います。さらに、各組織に常在して炎症を抑えたり修復を助けたりするなど、組織の環境を整える役割もあります。

 

(2) CD169Siglec-1):免疫細胞の表面にある分子(タンパク質)の一つで、特定のマクロファージ集団で高く発現します。本研究では、このCD169を手がかりに、着床期の免疫環境形成に関わるマクロファージを同定しました。

 

(3) 制御性T細胞(Treg:過剰な免疫反応を抑えて体を守るT細胞の一種です。妊娠では、母体が胎児(母体にとっては非自己成分を含む)を受け入れるための免疫寛容の維持に重要と考えられています。坂口志文先生によって発見され、2025年にはノーベル賞を受賞されました。

 

(4) ケモカイン:免疫細胞の移動を制御するシグナル分子です。ケモカインがある場所へ免疫細胞が引き寄せられることで、局所の免疫環境が形づくられます。本研究では、CD169陽性マクロファージがCCL8などのケモカインを産生し、Tregの集積を誘導することを示しました。

 

(5) 不妊・不育症:不妊は、一定期間妊娠を希望しているにもかかわらず妊娠が成立しない状態を指します。不育症は、妊娠しても流産や死産などを繰り返し、出産に至りにくい状態を指します。

 

(6) シングルセルRNA-seqscRNA-seq:組織を構成する細胞を1個ずつ解析し、それぞれの細胞でどの遺伝子がどの程度働いているか(遺伝子発現)を調べる手法です。似た細胞でも状態の違いを区別でき、組織内に存在する多様な細胞集団の同定に有効です。

 

(7) 免疫寛容に関わる遺伝子群:免疫寛容とは、炎症反応を抑制し受け入れる状態を指します。妊娠では、胎児を排除しない免疫環境が必要になります。免疫寛容に関わる遺伝子群とは、炎症を抑える働きに関わる遺伝子(例:Il10 など)の総称です。

 

(8) CD169陽性マクロファージの欠損/除去モデル:CD169を発現する細胞に生体内で選択的に細胞死を誘導し、その役割を検証できる実験動物モデルです。特定の細胞だけを操作できるため、妊娠成立などの現象に対する因果関係の評価に用いられます。

 

(9) CellPhoneDBによる細胞間相互作用解析:細胞が出す分子(リガンド)と、それを受け取る分子(受容体)の発現情報に基づいて、細胞同士がどのように情報をやり取りしているかを推定する解析手法です。scRNA-seqなどの単一細胞解析データと組み合わせ、どの細胞同士が影響を与え合うかを検討できます。

 

 

論文情報

雑誌名:Cell Reports

論文タイトル:Identification of endometrial CD169+ macrophages essential for Treg cell accumulation and implantation

著者:Takuto Ohki*, Shingo Miyawaki**, Tsunaki Higa, Hiroki Yamazaki, Hiromu Okaki, Ryusuke Nakajima, Kai Kitamura, Megumi G. Nakagawa, Tsukasa Sanosaka, Hitoshi Tsugawa, Kurara Honda, Akihiro Hirata, Takeshi Goto, Mika Handa, Katsuhiro Tokutake, Sota Saeki, Michiro Yamamoto, Kazuhiro Watanabe, Sadatoshi Maeda, Masaki Takasu, Yuki Sugiura, Tsuyoshi Takiuchi, Jun Kohyama, Makoto Suematsu, and Hitoshi Hirata

*責任著者、**共同責任著者

DOI: 10.1016/j.celrep.2026.117040                           

 

 

 

 

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プレスリリース添付画像

図1 CD169陽性マクロファージは妊孕性に必須である

図2 CD169陽性マクロファージは子宮内膜へのTregの集積に必要である

図3 ヒト子宮内膜におけるCD169陽性マクロファージ

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このプレスリリースを配信した企業・団体

  • 名称 国立大学法人東海国立大学機構岐阜大学
  • 所在地 岐阜県
  • 業種 大学
  • URL https://www.gifu-u.ac.jp/

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