ADPやATPを含む生体分子の効率合成法の開発に成功
~誰でも簡単に確実に行える合成法を目指して~
2024年7月25日
国立大学法人東海国立大学機構 岐阜大学
ADPやATPを含む生体分子の効率合成法の開発に成功 ~誰でも簡単に確実に行える合成法を目指して~
本研究のポイント
・生命が生きていくために必要なADPやATPを含む生体分子(ADP/ATP生体分子)については、さらなる基礎研究や利活用が望まれています。
・既存の化学合成法では課題が多かったが、本研究ではADP/ATP生体分子の効率的で信頼性の高い化学合成法の開発に成功しました。
・本研究の成果により、ADP/ATP生体分子の分子レベル機能解明研究や創薬研究に向けた基盤合成技術になると期待されます。
研究概要
岐阜大学糖鎖生命コア研究所の田中秀則准教授、萩野瑠衣大学院生、安藤弘宗教授らのグループは、ADP/ATP生体分子の効率的合成法の開発に成功しました。
ADP/ATP生体分子は多様な生物学的プロセスで重要な役割を担っています。これら生体分子や化学修飾アナログの合成法の開発は、分子レベルでの機能解明研究だけでなく、創薬研究においても重要です。これまでに数多くの化学合成法が報告されていますが、いずれの合成法においても収率の再現性がしばしば得られないことが課題でした。これは、ADP/ATP生体分子合成で用いる基質に親水性が高いリン酸基が存在することから、基質からの含水が避けられず、完全な脱水条件で反応を行えないためです。本研究では、再現性の課題を克服するため、脱水条件を必要としない、信頼性の高いADP/ATP生体分子の効率合成法を開発しました。本成果は、ADP/ATP生体分子の分子レベル機能解明研究や創薬研究に向けた基盤合成技術になると期待されます。
本研究成果は、オープンアクセス論文として2024年7月19日発刊の国際学術誌『Chemistry-A European Journal』に掲載されました。
図1.本ADP/ATP生体分子の効率合成法の概略図
研究背景
ADP1)やATP2)を含む生体分子(ADP/ATP生体分子)は多様な生物学的プロセスで重要な役割を担っています。ADPリボース3)とニコチンアミドアデニンジヌクレオチド4)(NAD+)はADP生体分子であり、前者はDNA修復や遺伝子転写制御に関わり、後者は生体内の酸化還元反応の補酵素として働いています。また、天然に存在する代表的なATP生体分子としてメッセンジャーRNA5)(mRNA)の5′cap構造6)があり、mRNAの翻訳開始の促進、酵素分解からの保護をする働きをします。このため、これら生体分子や化学修飾アナログの合成法の開発は、分子レベルでの機能解明研究だけでなく、創薬研究においても重要です。これまでに数多くの化学合成法が報告されていますが、いずれの合成法においても収率の再現性がしばしば得られないことが課題でした。これは、ADP/ATP生体分子合成で用いる基質に親水性が高いリン酸基が存在することから、基質からの含水が避けられず、完全な脱水条件で反応を行えないためです。このような背景から、再現性の高いADP/ATP生体分子の化学合成法の開発が望まれています。
研究成果
本研究では、 再現性の課題を克服するため、脱水条件を必要としない、信頼性の高い ADP/ATP 生体分子の効率合成法の開発に取り組みました。 今回我々は、既知のリン酸基活性化剤 7) のイミダゾール部 2 位に、疎水性で立体的に小さいメチル基を導入した活性化剤を設計・合成しました。新規リン酸基活性化剤は含水条件においてもほとんど加水分解されないこと、アデノシンモノリン酸( AMP )のリン酸基に 2- メチルイミダゾール脱離基を導入できることを見出しました。最適化した反応条件において、 AMP と含リン酸基質との縮合が円滑に進行し、良好な収率で ADP リボシル化ペプチド、アルキンタグ NAD+ 、 mRNA の 5′cap 構造など、多様な ADP/ATP 生体分子を合成することに成功しました。本合成法の利点として、基質に保護基を用いる必要がないこと、エッペンドルフチューブで基質と新規リン酸基活性化剤を順次混ぜ合わせるシンプルな手順であること、多少の含水であれば収率に大きな影響を与えないことが挙げられ、再現性の高い合成法となっています。
図2.新規リン酸活性化剤を用いたADP/ATP合成法とその合成例
今後の展開
本研究では、再現性の高いADP/ATP生体分子の効率合成法を開発しました。この合成法は通常の有機合成で必要なガラス器具や脱水操作が必要なく、基質さえ入手できれば、誰でも簡単に確実にADP/ATP生体分子を合成できます。本成果は、構造が均一なADP-リボース、NAD+、mRNA分子の化合物群を構築できる可能性があり、ADP/ATP生体分子の分子レベル機能解明研究や創薬研究に向けた基盤合成技術になると期待されます。
研究助成
本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業、日本学術振興会研究拠点形成事業、科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業、サントリー生命科学財団、宇部興産学術振興財団の支援のもとで行われたものです。
用語解説
1)ADP:アデノシン(ヌクレオシド)に2つのリン酸が結合した物質。
2)ATP:アデノシン(ヌクレオシド)に3つのリン酸が結合した物質。
3)ADP-リボース:リボース(5炭糖)とアデノシン(ヌクレオシド)が2つのリン酸を介して結合した物質。
4)ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+):ADP-リボースの還元末端にニコチンアミドが結合した物質。
5)メッセンジャーRNA(mRNA):DNAの遺伝情報を写したRNAで、リボソームでのタンパク質合成での鋳型。
6) 5′cap構造:mRNAの5′末端に7-メチルグアノシンが2つのリン酸を介して結合した構造。
7)リン酸基活性化剤:リン酸基に脱離基を導入する試薬。本研究では、既知のImIm-Cl[Tanaka, H. et al. Angew. Chem. Int. Ed. 2012, 51, 11531–11534]の改良を試みた。
【論文情報】
雑誌名:Chemistry-A European Journal
論文タイトル:Protecting-Group-Free Synthesis of ADP-Ribose and Dinucleoside Di-/Triphosphate Derivatives via P(V)-P(V) Coupling Reaction
著者:Rui Hagino, Ryo Kuwabara, Naoko Komura, Akihiro Imamura, Hideharu Ishida, Hiromune Ando, Hide-Nori Tanaka(下線は本学教職員)
DOI: 10.1002/chem.202401302
【研究者プロフィール】
田中 秀則 (たなか ひでのり) : 論文責任著者
岐阜大学 糖鎖生命コア研究所 糖鎖分子科学研究センター 准教授
萩野 瑠衣 (はぎの るい) : 論文筆頭著者
岐阜大学大学院 連合農学研究科 生物資源学専攻 令和5年度修了生
桑原 涼 (くわばら りょう)
岐阜大学 応用生物科学部 応用生命科学課程 令和4年度卒業生
河村 奈緒子 (こうむら なおこ)
岐阜大学 糖鎖生命コア研究所 糖鎖分子科学研究センター 助教
今村 彰宏 (いまむら あきひろ)
岐阜大学 応用生物科学部 応用生命科学課程 教授
石田 秀治 (いしだ ひではる)
岐阜大学 応用生物科学部 応用生命科学課程 教授
安藤 弘宗 (あんどう ひろむね)
岐阜大学 糖鎖生命コア研究所 糖鎖分子科学研究センター 教授
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このプレスリリースを配信した企業・団体
- 名称 国立大学法人東海国立大学機構岐阜大学
- 所在地 岐阜県
- 業種 大学
- URL https://www.gifu-u.ac.jp/
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