地球規模の急激な寒冷化が酵素の進化を促進
40億年に渡る生物と地球環境の共進化の謎に迫る
地球規模の急激な寒冷化が酵素の進化を促進 ― 40億年に渡る生物と地球環境の共進化の謎に迫る
詳細は 早稲田大学Webサイト をご覧ください。
【発表のポイント】 ◆ 共通祖先酵素から、現存の常温菌酵素をつなぐ進化経路上の11個の中間祖先酵素を復元したところ、高温に適した触媒特性から低温に適した特性への大きな変化は、21~25億年前の2つの連続した中間祖先の間で起こることを発見しました。 ◆ 低温に適した酵素では、高温に適した酵素では見られない活性部位が閉じた構造が存在し、開閉遷移のエネルギーコストと触媒反応に必要な活性化エネルギーが低減されることで、低温での触媒反応がより効率的になりました。 ◆ 今回の研究手法は、さまざまな酵素に適用することができ、生物とその酵素がどのように40億年に渡る地球環境の変化に適応し進化してきたかを明らかにすることができると考えられます。これは持続可能な社会の実現に向けた技術革新へと繋がると期待されます。 |
早稲田大学人間科学学術院の赤沼 哲史(あかぬま さとし)教授、八木 創太(やぎ そうた)講師、同大学院人間科学研究科修士課程(当時)の崔 爽(さい そう)および理化学研究所の田上 俊輔(たがみ しゅんすけ)チームリーダー、Subrata Dasgupta研究員らの研究グループは、好熱性の祖先酵素から常温性である大腸菌酵素への進化を解明するため、11段階の中間祖先酵素を再現し、活性の変化を解析しました。その結果、約21~25億年前に低温で活発に働く性質が大きく向上したことが分かりました。当時の地球は温室効果ガスの減少による氷河期にあったことから、急激な寒冷化が酵素の低温適応進化を促した可能性があります。今回の解析結果は、気候変動が生命の進化にどのような影響を与えてきたかを示す重要な証拠であり、地球史と生物進化の関係を理解する上で新たな知見をもたらしました。酵素の温度適応メカニズムを詳細に理解することで、エネルギー効率の高い触媒反応や、環境負荷を低減した工業プロセスの開発にも繋がることが期待されます。
本研究成果は『Protein Science』(論文名:Insights into the low-temperature adaptation of an enzyme as studied through ancestral sequence reconstruction)にて、2025年2月19日(水)にオンラインで掲載されました。
図:Alphafold2を用いて予測したAnc05の二量体構造のモデル。2つのサブユニットを異なる色で示した。Anc05のVal112をPhe, Val131をPhe, Gly270をAlaに置換すると25℃の比活性が大きく向上する。これら3つの低温高活性化に重要なアミノ酸置換部位は活性部位から離れた場所で生じた。Val112とGly270は、2つのドメインをつなぐβストランドの端に位置し、Val131の側鎖はVal112の側鎖と相互作用している。
■ 研究の波及効果や社会的影響
本研究では、好熱性の共通祖先から現存する常温菌酵素へと至る進化過程を再現し、低温適応のメカニズムを分子レベルで解明しました。その結果、約21~25億年前の氷河期において、地球規模の急激な寒冷化が酵素の低温活性化を促したことが明らかになりました。この発見は、気候変動が生命の進化にどのような影響を与えてきたかを示す重要な証拠であり、地球史と生物進化の関係を理解する上で新たな知見をもたらしました。さらに、酵素の温度適応メカニズムを詳細に理解することで、低温でも高い活性を維持できる酵素の設計が可能となり、エネルギー効率の高い触媒反応や、環境負荷を低減した工業プロセスの開発につながることが期待されます。
本研究成果は、進化生物学、地球化学、タンパク質工学といった異分野の連携を促進し、学際的研究の発展に貢献することが期待できます。特に、生命の進化に関する理解を深めるとともに、持続可能な社会の実現に向けた技術革新へとつながることが期待されます。
■ 今後の課題
今後は低温適応の分子メカニズムをより詳細に解明する必要があります。また、温度環境に限らず、酸性・アルカリ性、高圧など、異なる環境因子が酵素の進化にどのような影響を与えるのかを明らかにし、環境適応の一般的な原理を探ることも求められます。さらに、生命の進化における環境適応の全体像の理解には、1種類の酵素だけでなく代謝全体に着目することも必要となります。加えて、過去の気候変動と生物進化の関係を明らかにできれば、現代の気候変動が生態系や進化に与える影響を予測する上でも有益な知見となるはずです。こうした進化メカニズムの理解は、産業分野にも波及効果があり、低温でも高い活性を持つ酵素を設計することで、エネルギー消費を抑えた触媒反応や環境負荷の低減など持続可能な社会の構築への貢献が期待されます。
■ 研究者のコメント
本研究では、好熱性祖先から常温菌酵素への進化を再現し、地球規模の急激な寒冷化が酵素の低温高活性化を促したことと、その分子メカニズムを明らかにしました。今後は過去の気候変動と進化の関係を明らかにするだけでなく、将来の生態系への影響予測にも取り組めたらと思います。また、低温適応型酵素の設計により、省エネルギー型産業プロセスや持続可能な社会の実現にも貢献したいと考えています。
■論文情報
雑誌名:Protein Science
論文名:Insights into the low-temperature adaptation of an enzyme as studied through ancestral sequence reconstruction
執筆者名(所属機関名):崔 爽1、Subrata Dasgupta2、八木 創太1,2、木村 円香1、古川 龍太郎1、田上 俊輔2、赤沼 哲史1*責任著者
1. 早稲田大学人間科学学術院
2. 理化学研究所
掲載日時:2025年2月19日(水)
掲載URL:https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/pro.70071
DOI:10.1002/pro.70071
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