なぜ参議院の方が衆議院よりも女性議員比率が高いのか

― 政治における男女格差を解くカギを探る ―

早稲田大学

なぜ参議院の方が衆議院よりも女性議員比率が高いのか 政治における男女格差を解くカギを探る ―

<発表のポイント>

日本の国会では参議院の方が衆議院よりも女性議員の比率が高く、その傾向は1950年代以降一貫して続いています。

本研究では、サーベイ実験(※1)を通じて、両院間の女性議員比率の格差の要因を探りました。

研究の結果、権限や任期の長さの違いなど、一見するとジェンダー中立的な議院の制度が、有権者が女性に投票するかどうかや、女性や男性が選挙に立候補するかどうかといった、選挙をめぐる人々の意思決定に影響を与えており、両院間で女性議員比率に違いをもたらしていることが示唆されました。

 

数が少ないと言われる日本の国会の女性議員ですが、衆議院の女性議員比率が15%であるのに対して、参議院では25%と、両院間には10ポイントあまりの差があります。この傾向は戦後一貫して続いていて、参議院の女性議員比率は常に衆議院を上回ってきました(図1)。なぜ参議院の方が衆議院よりも女性議員比率が高いのでしょうか?

早稲田大学政治経済学術院尾野嘉邦(おの よしくに)教授、慶応義塾大学の粕谷祐子(かすや ゆうこ)教授、学習院大学の三輪洋文(みわ ひろふみ)教授らの研究グループは、有権者側と候補者側の両方の要因について、日本人約6,300人を対象とするサーベイ実験を行いました。その結果、「参議院の権限が小さい」ことを伝えると、有権者は参議院議員として女性候補者がふさわしいと判断する傾向が高まり、「参議院には解散がない」ことを伝えると女性の立候補意欲が高まる傾向が見受けられました。また、「参議院からは実質的に首相が選ばれない」ことを伝えると男性の立候補意欲が下がる傾向(つまり、立候補意欲の男女差が参議院の場合には小さくなる傾向)が見えてきました。一見するとジェンダー中立的な議院制度の違いが、人々のバイアスやリスク認識に影響を及ぼし、議員比率の男女差を生んでいると考えられます。

本研究成果は、2025年3月9日付け(現地時間)で「Legislative Studies Quarterly」に掲載されました。

論文名:Analyzing Gender Gaps in Bicameral Legislatures: How Asymmetrical Institutions Affect the Supply and Demand for Female Candidates

(図1)1950年から2022年までの女性議員比率の推移(点線が参議院、直線が衆議院を示す)

 

(1)これまでの研究で分かっていたこと 

世界には二院制の議会を採用している国が数多くありますが、二院制議会(※2)に関する様々な側面について、両院間の制度的な違いそのものだけではなく、それが政策形成とその結果に及ぼす影響など、これまで広く研究されてきました(Heller 2007; Mueller, Vatter and Dick 2023; Shell 2001; Tsebelis and Money 1997など)。

 

(2)今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと、そのために新しく開発した手法

本研究は、新たに性別の視点を取り入れることで、二院間の制度的な違いの影響に対する理解を深めようとしました。また、一部の既存研究では、日本の有権者が必ずしも女性候補者に否定的な態度を持っているわけではないことが示唆されています(Horiuchi, Smith and Yamamoto 2020; Kage, Rosenbluth and Tanaka 2019)。しかし、本研究は国会の二つの議院間の男女比率の差に焦点を当てて、有権者が女性候補者をより支持しようとする「条件」を特定しているという点で目新しさがあります。さらに、候補者の立候補意欲の変化にも注目している点も、研究の新規性を高めています。

本研究では、参議院と衆議院を区別する2つの重要な制度的特徴である「権限の大きさ」と「任期の安定性」の違いに注目しました。オンラインで実施した実験では、回答者を無作為にグループ分けし、これらの制度的特徴を提示した条件と提示しない条件に割り振り、様々な候補者プロフィールの中から「誰が議員としてよりふさわしいか」、あるいは「どの程度選挙に立候補したいと思うか」などの質問に対する回答パターンの違いを比較しました。

研究の結果、以下のことが判明しました。

 

●有権者側の要因

衆議院の優越という憲法の規定により、権限が小さい参議院の議員を選ぶ選挙では、有権者(特に男性有権者)の間で女性候補者が参議院議員としてよりふさわしいと判断される傾向がありました。つまり、男性がリードし、女性は補佐するという、男女の役割に対する有権者のステレオタイプが投票行動に影響していました。

 

●候補者側の要因

参議院議員からは実質的に首相が選ばれないというルールは、男性の選挙への立候補意欲を下げる方向に働きました。一方、衆議院には解散があるのに対して、参議院には解散がなく議員は6年間議員としての地位にとどまることができるという、参議院における地位の安定性は、女性の立候補意欲を上げる方向に働きました。一般に男性に比べて女性の方が選挙への立候補意欲が低い傾向が見られるものの、衆議院に比べて参議院の方が男女の間の立候補意欲の差が小さくなりました。

 

このように、衆議院と参議院の間の「権限の大きさ」と「任期の安定性」の違いという、一見するとジェンダーとは何ら関係ない制度が、有権者だけではなく候補者の心理に影響し、男女議員比率に両院間で大きな差をもたらしている可能性が明らかになりました。

 

(3)研究の波及効果や社会的影響

衆議院で女性議員比率を増やすにはどうすればよいでしょうか?

まず、有権者が選挙で候補者を評価して投票するときに、ジェンダーバイアスの存在とその影響について有権者に意識させることで、研究結果で見られたような両院間での投票行動の違いが変化する可能性があります。

つぎに、衆議院議員は常に解散の脅威に晒されているという地位の不安定さが、政党が女性候補者をリクルートするうえで障壁となっている可能性があります。女性政治家が少ない理由の一つとして、選挙に出馬する女性候補者がそもそも男性に比べて圧倒的に少ないという状況があり、女性議員を増やすにはより多くの女性をリクルートする必要があります。衆議院における地位の不安定さをどう補うか、候補者たちをリクルートする際に各政党が工夫することが必要だと考えられます。

 

(4)課題、今後の展望

本研究結果は日本の国会制度に焦点を当てていますが、本研究の議論がオーストラリアやチェコといった二院制をとる他の国々の状況をどの程度説明できるのか、さらに検証できればより強固な議論を展開することができると思っています。また、日本国内でも、知事や都道府県議会議員、市町村長、市町村議会議員といった様々な公職が存在し、その権限は大きく異なっています。それらの違いが人々の投票行動や立候補意欲にどう影響しているのかを今後検証していきたいと考えています。

 

(5)研究者のコメント

数が少ないとよく言われる日本の女性議員も、参議院の女性議員比率を見るとOECD諸国の平均値に近い状況になっています。それはなぜなのだろうという素朴な疑問から始まったプロジェクトでした。2025年夏には参院選がありますが、本研究の結果を踏まえて選挙戦を眺めると、選挙の主要なアクターである有権者の皆さんも、どのような候補者が目立つように感じられるのかなど、いろいろと選挙が違って見えてくるかもしれません。

 

(6)用語解説

※1 サーベイ実験

サーベイ実験とは、アンケート調査のようなサーベイに実験的手法を組み合わせたもので、回答者を無作為に異なる条件に割り振り、条件ごとの回答傾向の違いを観察します。それぞれの条件ごとに質問文の内容や指示文を入れ替えることで、そうした操作が回答にどのような因果的効果を及ぼしたのかを検証することができます。

 

※2 二院制議会

立法府が二つの議院(衆議院や参議院、上院や下院など)で構成されるものが、二院制議会(bicameral legislatures)と呼ばれています。世界的には、立法府が一つの議院だけからなる一院制議会(unicameral legislatures)の国が多数を占めていますが、190か国中78か国が二院制議会を採用しています(https://www.ipu.org/national-parliaments)。

 

 

(7)論文情報

雑誌名:Legislative Studies Quarterly

論文名:Analyzing Gender Gaps in Bicameral Legislatures: How Asymmetrical Institutions Affect the Supply and Demand for Female Candidates

執筆者名(所属機関名):Yoshikuni Ono* (Faculty of Political Science and Economics, Waseda University), Yuko Kasuya (Keio University), Hirofumi Miwa (Gakushuin University)

掲載日:2025年3月9日(日)

掲載URL:https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/lsq.12493

DOI:https://doi.org/10.1111/lsq.12493

※「DOI」が機能しない場合は、「掲載URL」からアクセスしてください。

 

(8)研究助成(外部資金による助成を受けた研究実施の場合)

本研究の調査は、独立行政法人経済産業研究所のほか、東北大学学際科学フロンティア研究所、早稲田大学特定課題研究助成費、日本学術振興会科学研究費補助金の助成を受けて実施しました。

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