ディープフェイク(Deepfake)
でぃーぷふぇいく
ディープフェイクは「悪意」を要件としない概念です。EUは技術を禁じるのではなく、2026年8月から利用する側に表示義務を課しました。正当な業務利用となりすまし被害の両面を、広報実務の視点で解説します。
「ディープフェイク」とは、実在する人物・物・場所・出来事などに似せて生成AIが作成・加工し、本物だと誤認させうる画像・音声・動画コンテンツを指します[1]。EU AI法では2026年8月2日から、業務でこうしたコンテンツを扱う側に表示義務が課されています[2]。
ディープフェイクとは
EU AI法(Regulation (EU) 2024/1689)第3条60項は、ディープフェイクを「実在する、または実在したとみなせる人物・物・場所・実体・出来事に酷似し、本物または真実であるかのように人に誤認させうる、AIによって生成または操作された画像・音声・動画コンテンツ」と定義しています[1]。この定義のポイントは、「悪意」や「欺く意図」を要件にしていないことです。技術的にAI生成・加工されたコンテンツが、見る人に「本物」と誤認されうるかどうかだけが判断基準になります。
なぜ「禁止」ではなく「表示義務」なのか
ディープフェイク技術には、正当な業務利用が数多くあります。映画で俳優の外見を若返らせる、吹き替え版で口の動きを台詞に合わせる、契約したタレントの姿を使って広告映像を生成する、歴史上の人物を再現した映像教材をつくる——こうした用途は、欺瞞を目的とするフェイクニュースとは性質が異なります。そのためEUはディープフェイクそのものを禁止するのではなく、「使うならAIによる生成・加工だと分かるようにする」という表示義務の枠組みを選びました。
EU AI法 第50条:2026年8月2日から適用
第50条は、ディープフェイクを業務で扱う「デプロイヤー」(利用事業者)に対し、そのコンテンツがAIによって生成・加工されたものであることを、人が見て分かる形で明示するよう義務付けています[2]。この義務は2026年8月2日から適用が始まりました。ただし、芸術・創作・風刺を目的とした作品については、作品の鑑賞や表現を妨げない範囲の表示にとどめてよいとする配慮規定があります[3]。
フェイクニュースとの違い
両者は混同されがちですが、性質は異なります。フェイクニュースは「発信者が意図的に虚偽の情報をつくり、拡散する」行為そのものを指すのに対し、ディープフェイクは「本物に似せた画像・音声・動画を生成・加工する技術、およびそのアウトプット」を指す言葉です。悪意を持って使われればフェイクニュースの手段になり得ますが、前述の通り正当な業務利用も広く存在するため、技術そのものを一律に危険視するのではなく、「使う側が表示義務を果たしているか」という運用面で判断する必要があります。
現代的な事例:広告・SNSでの活用と被害
正当な活用は身近になっています。HeyGenやSynthesiaのようなAIアバター生成ツールは、企業のPR動画・研修動画を多言語のナレーション付きで量産する用途で、YouTubeの企業チャンネルやSNS広告にすでに使われています。話者の口の動きを各言語の音声に自動で合わせる技術も、この延長線上にあります。
一方で被害事例も広がっています。著名な経営者や有名人の肖像・声を無断でディープフェイク加工し、「この投資法で稼げる」と偽って勧誘する詐欺広告が、SNSやYouTube広告で拡散する問題が国内外で相次いでいます。消費者庁や国民生活センターも同種の相談増加を受けて注意喚起を出しており、なりすまし被害への備えは、経営者本人の広報・危機管理としても他人事ではなくなっています。
広報担当者が押さえておくべきポイント
自社の広告・PR動画・タレント起用コンテンツなどでAI生成・加工技術を用いる場合、EU域内向けの発信であれば表示義務の対象になり得ます。日本国内向けであっても、海外事業を持つ企業や、EU居住者に情報が届く可能性があるコンテンツを扱う広報担当者は、この規制の存在を把握しておく必要があります。また、自社が「ディープフェイクの被害者」になるケース「経営者や広報担当者の顔・声を無断で使われる詐欺広告や偽動画」への備えも、今後の危機管理広報の論点になっていきます。
