ヒトの協力行動における前頭前野の機能を解明 ~相手の期待と自身の行動の差(罪悪感)をシミュレート~

情報通信研究機構(NICT)脳情報通信融合研究センター(CiNet)は、ヒトの協力行動において、自分の取り分を増やそうとする脳の活動を抑制するとされてきた前頭前野が、相手の期待を裏切る程度である“罪悪感”を表現するということを、機能的MRI(fMRI)実験と経頭蓋直流電流刺激により証明しました。

2015年2月25日

独立行政法人 情報通信研究機構(NICT)

ヒトの協力行動における前頭前野の機能を解明

~相手の期待と自身の行動の差(罪悪感)をシミュレート~

【ポイント】

■ 前頭前野が、相手の期待を裏切る程度である“罪悪感”を実現していることを証明

■ ヒトの協力行動において、新旧の脳領域が“罪悪感”と“不平等”という異なる機能を担う

■ ヒトの社会の進化メカニズムや社会認知と深く関係する発達や精神疾患の理解に貢献

 独立行政法人 情報通信研究機構(NICT、理事長: 坂内 正夫)脳情報通信融合研究センター(CiNet)の春野雅彦主任研究員らは、従来、ヒトの協力行動において、自分の取り分を増やそうとする脳の活動を抑制するとされてきた前頭前野が、相手の期待を裏切る程度である“罪悪感”を表現するということを、機能的MRI(fMRI)実験と経頭蓋直流電流刺激により証明しました。一方で、進化的に古い脳である扁桃体では、相手と自分の取り分の差の大きさである“不平等”が表現されていました。

 今回、進化的に異なるこれらの脳部位が協力行動における異なる機能を担うことが明らかになったことで、ヒトの社会が高度に発達してきた過程の解明や、社会認知と関係する発達・精神疾患の類型化が進むことが期待されます。

 本研究は、岐阜聖徳学園大学の二本杉剛准教授との共同研究であり、一部は、JST戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)の研究領域「脳情報の解読と制御」の一環として行われました。

 本成果は、米国科学雑誌「The Journal of Neuroscience」の2月25日号に掲載されます。

【背景】

 ヒトはなぜ協力するのか? 多くの研究者が、社会的な生き物であるヒトにとって根源的なこの問題に取り組んできました。近年まで、「自分の取り分を増やしたいと活動する古い脳(皮質下)の働きを、理性的な新しい脳(前頭前野)が抑制して協力が生じる」とする説が有力でした。2010年に春野主任研究員らは、皮質下に位置し、情動を司る扁桃体が“不平等”に対し反応し、その活動が協力行動の個人差を良く説明すると報告しました。この結果は、従来説が必ずしも正しくないことを示します。一方、前頭前野が協力行動に関わるという多くの報告もあり、その機能は謎のままでした。今回、近年の経済学で“不平等”とともに、その重要性が指摘される“罪悪感”に着目し実験を行いました。

【今回の成果】

 今回の実験結果より、大脳皮質の高次認知機能の中枢である前頭前野の活動が“罪悪感”を表現し、皮質下の原始的な領域である扁桃体の活動は“不平等”を表現することを証明しました。また、これらの表現が、ある程度独立していることもわかりました。

 つまり、進化的に異なる新旧の脳領域がヒトの協力行動において異なる機能を担うことを意味しています。“罪悪感”は、他者や社会の期待と、自分の仮定の行動で生じる結果との差であり、相手の意図に基づく将来に対する動的なシミュレーション能力です。その表現が高次認知機能の中枢である前頭前野に存在する一方、他者との相対的な結果を示す“不平等”に対する表現は、原始的な脳である皮質下の扁桃体と側坐核に見られました。

【今後の展望】

 ヒトの協力行動における新旧の脳の異なる機能を示し、数年前には常識とされた「利己的な皮質下領域を前頭皮質が抑制することで協力行動が生じる」という1次元的図式は正しくなく、2次元の脳内表現を考える必要性を示唆します。今回の知見は、ヒトに固有な大規模な社会やコミュニケーション能力が進化したメカニズムの理解や社会認知と深く関係する発達や精神疾患の類型化に貢献することが期待されます。

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プレスリリース添付画像

脳活動の解析(右前頭前野の活動が罪悪感と連動して変化)

電流刺激の結果(前頭前野への電流刺激によって罪悪感に基づく協力行動が増加)

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