香りの潜在的な好みに関する脳活動を発見

主観評価に依存しない香りを用いた製品開発への応用に期待

2025年4月16日

ポイント

■ 主観評価に表れない香りの潜在的な好みに関する脳活動を発見

■ 脳活動から好みの香りを、主観評価よりも高い精度で予測することに成功

■ 香りを用いた製品の開発・評価における客観的指標としての応用に期待

 

 国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT(エヌアイシーティー)、理事長: 徳田 英幸)未来ICT研究所 脳情報通信融合研究センター(CiNet)の奥村俊樹研究員、黄田育宏副室長とライオン株式会社のグループは、実験参加者がこれまでに使用したことのない3種類の柔軟剤の香りを初めて嗅いだ際の脳の反応を分析することで、その後、実際に複数回使用した後に選択した好みの柔軟剤を約60%の精度で予測することができました。一方で、初めて嗅いだ際の主観的な好みに基づく予測は約50%と、偶然に選んだ場合と変わらない精度で、実際に選択した柔軟剤を予測できませんでした。この結果から、初めて香りを嗅いだ時点であっても、主観評価には表れない潜在的な好みが脳活動に反映されることがわかりました。この結果は、香りの潜在的な好みに関する脳内情報処理機構を包括的に理解するための重要な足がかりとなるとともに、今後、脳活動による予測精度を向上させることで、主観評価に頼ってきた香りを用いた製品の開発・評価において、より信頼性のある客観的指標としての応用が期待されます。

 なお、本成果は、2025年3月7日(金)に、国際科学雑誌「NeuroImage」に掲載されました。

 

背景

 自分にとっての価値や好みを判断することは、購買行動における重要な要素の一つです。しかし、特に香りを用いた製品の場合、実際に何度か使用してみないと、本当に自分に合うかどうかを判断するのは難しいことがあります。先行研究では、商品の画像を呈示した際の脳活動から商品選択を予測する研究や、曲を聴いている間の脳活動からその曲の売上を予測する研究が行われています。これらの結果から、脳活動には潜在的な情報が反映される可能性が示唆されています。このことから、香りを用いた製品においても、主観的な評価に依存せず、より信頼性の高い好みの指標が脳活動に表れる可能性が考えられます。

 

今回の成果

 

図 本研究における脳活動を用いた柔軟剤選択予測の実験手順

 

 NICT CiNetの奥村俊樹研究員と黄田育宏副室長は、ライオン株式会社と共同で、柔軟剤の香りに焦点を当て実験を実施しました。普段から柔軟剤の香りを重視して、自身で柔軟剤を選んで購入し、日常的に使用しているが、本実験で使用される3種類の柔軟剤は使用したことがない女性25名を対象としました。まず、実験初日に機能的磁気共鳴画像法(functional Magnetic Resonance Imaging, fMRI)を用いて、3種類それぞれの柔軟剤の香りを嗅いでいる際の脳活動を計測し、主観的好み(好きか嫌いか)の評定を行いました。その後2週間の間、3種類の柔軟剤を自宅でそれぞれ2回ずつ使用してもらい、最も気に入った柔軟剤を一つ選択してもらいました。

 初日の脳活動計測時に行った主観的な好み評定に基づく柔軟剤の予測は約50%であり、偶然に選んだ場合と変わらない精度でした。つまり、主観的な好みの評定からは柔軟剤の選択を予測することはできませんでした。

 一方で、報酬に関わる側坐核(報酬系)や、匂いの処理に関わる梨状皮質(一次嗅覚野)の脳活動を分析し、柔軟剤が選択されるかどうかを約60%の精度で、予測することに成功しました。これらの結果から、初めて香りを嗅いだ際でも、報酬系や一次嗅覚野の脳活動には、主観評価には表れない潜在的な好みが反映されていることが示唆されました。つまり、たとえ主観的な評価からは予測できなくても、脳の報酬に関わる領域や匂いを処理する領域の活動には、より信頼性の高い潜在的な好みが反映されることが明らかになりました。

 今回の分析では、脳活動データに基づく予測モデルを使いました。従来は、個人ごとに予測モデルを構築するのが一般的でしたが、本研究では25名の脳活動データを統合し、個人単位ではなく集団全体に適用可能な予測モデルを構築しました。これにより、脳の細かな構造の違いに関する情報は失われるものの、個々のばらつきを抑え大規模データに基づく予測が可能となり、個人の特性に依存しない汎用的なモデルの構築が期待されます。

 

今後の展望

 今回の研究成果は、香りの潜在的な好みに関する脳の情報処理メカニズムを解明する重要な一歩となりました。また、今後、60%の予測精度をさらに向上させることで、これまで主観的な評価に依存していた香りを用いた製品の開発や評価において、客観的で信頼性の高い指標の導入につながることが期待されます。さらに、脳活動をもとにした新しい評価方法が確立されれば、より個人に合った香りを選ぶ手助けとなる可能性があります。今後、実験デザインを工夫することで、香りに関する多様な指標を用いたより高度な予測へと発展させていくことが考えられます。

 

論文情報

著者: T. Okumura, K. Saito, R. Harada, T. Ohki, H. Hanihara, I. Kida

論文名: Latent Preference Representation in the Human Brain for Scented Products: Effects of Novelty and Familiarity

掲載誌: NeuroImage

DOI: 10.1016/j.neuroimage.2025.121131

URL: https://doi.org/10.1016/j.neuroimage.2025.121131

 

 なお、今回実施した実験は、NICTとライオン株式会社の倫理委員会の承認を得ており、実験参加者には実験内容を事前説明の上、参加への同意を取っています。

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プレスリリース添付画像

図 本研究における脳活動を用いた柔軟剤選択予測の実験手順

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