短波帯電波伝搬シミュレータ(HF-START)のサービス開始

任意の2地点間の電波伝搬経路をリアルタイム宇宙天気情報に基づき提供

2021年3月24日

ポイント

■ 宇宙天気情報を反映した短波帯の電波伝搬を推定するシステムのWeb公開を開始

■ ユーザーが選んだ任意の2地点間での短波帯電波伝搬を推定、可視化

■ 短波放送、航空通信、アマチュア無線等における効率的な周波数運用への活用が期待

 

 国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT、理事長: 徳田 英幸)、国立研究開発法人 海上・港湾・航空技術研究所 電子航法研究所(ENRI、所長: 福田 豊)、国立大学法人千葉大学(学長: 徳久 剛史)を中心とする研究グループは、宇宙天気情報を反映した電波伝搬を、地上と衛星観測及びモデル計算に基づいてリアルタイムに推定し提供する、短波帯電波伝搬シミュレータHF‐START(エイチエフ・スタート)の開発に成功し、Web公開を開始しました。https://hfstart.nict.go.jp/jp/

 本システムでは、リアルタイムGNSS観測に基づく日本国内における任意の2地点間、及び、モデルに基づく宇宙天気情報を用いた地球上のあらゆる場所の任意の2地点間の、短波帯電波伝搬のリアルタイム推定が可能です。さらに、過去に遡って、ユーザーが計算日時を指定することもできます。アマチュア無線のほか、極域等にて短波帯電波を用いる航空機運用等への活用も期待されます。

 

背景

 通信・測位技術は、今日の様々な分野の社会インフラにおいて重要な役割を果たしています。通信・測位に用いられる電波は上空の電離圏を透過したり電離圏で反射されたりしますが、電離圏は、太陽活動をはじめ宇宙・地球環境によって日々大きく変動し、電波の伝搬に大きな影響を与えます。短波帯の電波は古くから通信・放送に用いられており、現在においても短波放送、航空通信、アマチュア無線などで広く使われています。短波帯の電波は電離圏での反射を利用することにより遠方まで到達することができますが、一方で、電離圏変動の影響により、通信範囲や使用可能周波数など、通信環境が大きく変わります。こうして、電離圏の変動は、短波放送や航空通信、アマチュア無線などの運用に影響を及ぼします。

 このような電離圏の変動によって、電波の伝搬がどのように変わるのか、推定情報を提供するWebサイトはこれまでにもありましたが、簡易なモデルに基づいており現実的な電離圏変動を反映していない、という課題がありました。

 

今回の成果

 私たちは、地上と衛星観測及びモデル計算に基づいて現実的な電離圏変動の下で短波帯電波伝搬情報をリアルタイムに推定し提供する、短波帯電波伝搬シミュレータHF‐STARTを開発しました。この度、HF-STARTによって発信される情報及びシミュレータのWeb公開をhttps://hfstart.nict.go.jp/jp/ にて開始しました。

図1.HF-STARTによる短波帯電波の伝搬の可視化

3・6・9 MHz電波の東京から北海道及び東京から鹿児島への伝搬経路を示す。
12 MHz電波の伝搬も計算しているが表示されず、この周波数は届かないことが分かる。

 

 HF-STARTによる短波帯電波伝搬の可視化の一例を図1に示します。本システムでは、リアルタイムに更新される電波伝搬状況を確認できるほか、図2に示すように、Webブラウザ上でユーザーが選択した地球上のあらゆる場所の任意の2地点間の任意の周波数の短波帯電波伝搬の推定と可視化が可能となっています。過去(2016年以降)に遡って日時を設定することもできます。

 

図2.Web計算機能における入力画面

ユーザーが任意の地点間及び電波伝搬条件を入力できる

 

 このシステムでは、計算に用いる電離圏を、3種類の分布から選択できます。GNSS観測に基づく日本上空の電離圏3次元分布を用いることで、現実的な電離圏分布の中での電波伝搬を推定することができます。また、全球大気圏-電離圏モデルGAIAの電離圏3次元分布を参照することで、日本上空に限らない全球にわたり、かつ、約1日先までの予測も可能なシステムとなっています。さらに、電離圏として広く参照される経験モデル(IRI)の分布も、電波伝搬計算に選択することができます。

 利用している短波帯電波が届かないときや、逆に通常届かない短波放送等が聞けるときに、伝搬経路を可視化して宇宙天気による影響かどうかを把握するのにご利用いただけます。さらに、アマチュア無線のほか、極域等にて短波帯電波を用いる航空機運用等への活用も期待されます。

 

今後の展望

 短波帯電波伝搬シミュレータHF‐STARTを、短波帯の電波伝搬の推定のみならず、ほかの波長帯へも拡張していくための研究開発を進めています。また、電波伝搬観測との比較から、シミュレータ精度を評価し、モデルを向上していきます。

 NICTは、国際民間航空機関(ICAO)のグローバル宇宙天気センターの一員として通信・衛星測位・放射線被ばくに関する情報を2019年11月から提供していますが、本システムを拡張することで、利用できる周波数範囲の情報など、通信に直接関連するように提供情報を向上していくことも期待されます。

 

各機関の役割分担

情報通信研究機構: シミュレータの開発、観測との比較・精度評価、GAIAモデルのリアルタイム計算、 情報公開のためのWebシステムの開発と運用

電子航法研究所: GNSS観測に基づく電離圏3次元分布のリアルタイム計算処理、観測との比較・精度評価

千葉大学: シミュレータの全球版への拡張、観測との比較・精度評価

 

論文情報

論文名: HF-START: Application in Aid of Radio Communications/Navigation

掲載誌: Electronic Navigation Research Institute (eds) Air Traffic Management and Systems III. EIWAC 2017. Lecture Notes in Electrical Engineering, vol 555. Springer, Singapore

DOI: https://doi.org/10.1007/978-981-13-7086-1_19

著者: 穂積 Kornyanat1, 石井 守1, 斎藤 享2, 丸山 隆1, 中田 裕之3, 津川 卓也1

所属: 1 情報通信研究機構、2 電子航法研究所、3 千葉大学

 

 

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プレスリリース添付画像

図1.HF-STARTによる短波帯電波の伝搬の可視化

図2.Web計算機能における入力画面

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  • 名称 国立研究開発法人情報通信研究機構 広報部
  • 所在地 東京都
  • 業種 その他情報・通信業
  • URL https://www.nict.go.jp/
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