プラスチックごみから海を守るために消費者の意識を変えるには?
【東洋大学 SDGs News Letter Vol.14】東洋大学は“知の拠点”として地球社会の未来へ貢献します
2022.12.1発行
東洋大学
東洋大学 SDGs News Letter Vol.14
東洋大学は“知の拠点”として地球社会の未来へ貢献します
プラスチックごみから海を守るために
消費者の意識を変えるには?
2015年、鼻にプラスチック製ストローが刺さったウミガメを救助する動画が公開され、海洋プラスチックごみが全世界でこれまで以上に問題視されるようになりました。海洋プラスチックごみが抱える問題対応の観点から環境行動に対する消費者の受け止め方、賛意を高める方法を、総合情報学部総合情報学科の大塚佳臣教授がお話しします。
Summary
・マイクロプラスチックは発がん性物質を吸着しやすく、食物連鎖を通して人体にも悪影響を及ぼす恐れがある
・海洋プラスチックごみを削減するためには、陸上での廃棄物の適切な管理が重要
・レジ袋有料化などの環境法を施行する際には、予想される定量的な効果を事前に示すべきではないか
有害物質を運ぶマイクロプラスチックごみ
海洋プラスチックごみの現状について教えてください。
海洋プラスチックごみというと、ポリ袋やスプーン、ストローなどを思い浮かべがちですが、今注目されているのは5mm以下の小さな「マイクロプラスチック」です。マイクロプラスチックは発がん性をもつPAHs(多環芳香族炭化水素)などの有害物質を吸着しやすい性質を持っています。PAHsはその大部分が化石燃料の燃焼時に発生し、化石燃料を使用する限りはなくすことが非常に困難な有害物質です。汚染されたマイクロプラスチックを海洋生物が誤食し、その体内に有害物質が蓄積されます。このように貝、魚、甲殻類などに蓄積された有害物質が、食物連鎖の過程で濃縮され、私たちの体内にも蓄積されると、発がんをはじめとした悪影響が生じる恐れがあります。
マイクロプラスチックの発生を抑制するためには、発生源を特定して対策を立てることが重要です。マイクロプラスチックは海のプラスチックごみが波にもまれて小さくなったものだと認識している人が多いと思いますが、この細粒化は大部分が陸上で起こります。主に不法投棄やポイ捨てされたプラスチックごみが紫外線による劣化や物理的な摩耗により小さくなり、雨で流され川から海に運ばれていきます。また、化学繊維の衣類を洗濯したときの糸くずや、研磨剤に含まれるプラスチックビーズもマイクロプラスチックとして環境中に放出されます。自動車のタイヤの摩耗によって発生するマイクロプラスチックは、タイヤ片が自動車の排ガスに含まれる有害物質を吸着し、側溝から川や海へと流出するため特に問題視されています。しかし、プラスチック無しで現代の私たちの生活は成り立ちません。海洋プラスチックごみの削減における一番現実的な対策は、不法投棄をしないことや自治体が決めたリサイクルのルールに従うことなど、基本的な廃棄物管理の徹底です。日本は世界の国々と比べてプラスチック使用量が多いにもかかわらず、海洋プラスチックごみの排出量が少ないのは、廃棄物管理のための法整備が進んでいるからだと言われています。
マイクロプラスチックの一例。PAHsを吸着し、生体濃縮がはじまるきっかけとなる。(Oregon State University / CC BY-SA 2.0)
レジ袋有料化から分かる適切な情報の重要性
マイクロプラスチックが有害物質を吸着してしまうという問題については知りませんでした。
私は、海洋ごみやマイクロプラスチック問題対応の観点からの環境行動に対する消費者の受け止め方について環境心理・環境行動の視点から研究をしているのですが、マイクロプラスチックを含む海洋プラスチックごみについての情報が消費者に正しく伝わっていないと感じています。例えば、プラスチックごみを削減するためのアプローチとして記憶に新しいのが、2020年7月にスタートしたレジ袋の有料化制度。レジ袋の使用を減らすことでプラスチックごみの発生を抑制しようとする試みです。導入から4か月ほどたった時期にレジ袋有料化に対して消費者はどのような意識を持っているのか、全国の20歳以上を対象とし、独自でアンケート調査を行いました。その結果、有料化の賛否については賛成・おおむね賛成が64%、反対・おおむね反対が36%でした。4割近くの人が賛成していないと回答していますが、その理由として「レジ袋の有料化が本当に資源使用量およびプラスチックごみの削減に結び付くのか?」という実効性に対する疑問を挙げています。誰もが納得した形で制度を推進していくには、賛意を得るための工夫が必要と言えます。
消費者の賛意を高めるためには具体的にはどのような工夫が求められるのでしょうか。
情報を適切に提供すれば、消費者はより適切に行動します。レジ袋の有料化によってプラスチックの過剰な使用量が確実に減り、環境保護に効果があるというエビデンスを情報として示すことが有料化に対する賛意を高めるために求められます。定量的な情報の不足は不信感を招き、感情的な反対論者をうむだけでなく、規範を錦の御旗にした感情的な賛成論者をうむことにもなります。感情的な賛成者・反対者の発生によって集団の分断が進むと、合意形成が困難になります。マイクロプラスチックの問題にしてもレジ袋有料化制度にしても、環境問題に関する規範に訴えるだけでなく、予想される定量的な効果を示すことが合意形成を図る上で不可欠です。国や企業が積極的に情報発信をする。そして、消費者はその情報から適切に判断して行動する。そのためには発信者側がメリットとデメリットを説明し、消費者も両方の情報を入手して吟味する姿勢を持つことが重要なのです。今後も適切な情報提供に基づき、私たち消費者が情報を判断しながらリユース・リデュース・リサイクルなどできることから実行すれば、海洋プラスチック問題は解決の方向に向かうのではないかと期待しています。
大塚 佳臣(おおつか よしおみ)
東洋大学総合情報学部総合情報学科教授/博士(工学)/環境科学会,日本水環境学会理事
専門分野:都市環境工学/都市環境システム/環境行動心理
研究キーワード:環境工学/環境心理学/環境社会学
著書・論文等:マイクロプラスチック汚染研究の現状と課題[水環境学会誌 Vol. 44, No.2]、海洋プラスチック問題の情報提供がレジ袋・プラスチックストローの提供廃止賛否意識に与える影響評価[土木学会論文集G(環境) Vol.76, No.6]
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